2019.11.14

ルレ・エ・シャトー 海洋保護に向けた「vision for the sea」発表レポート[前編]

ルレ・エ・シャトー(※1)が世界中で提唱している海洋資源保護活動「vision for the sea(ヴィジョン・フォー・ザ・シー)」。

2019年10月17日、これを日本でも精力的に発信、活動していこうとルレ・エ・シャトー本部代表のフィリップ・ゴンベール氏、副会長であるオリヴィエ・ローランジェ氏が来日し大阪にて講演を行った。環境問題や水産資源などの地球規模の大きな課題に対して、料理人・シェフ、レストランがどういった貢献ができるのか?オリヴィエ氏が自らレストランで行ったこと、フランスのルレ・エ・シャトー加盟店での実績など、欧州で広がりをみせる具体的な実施策について講演した。

1時間半にわたる講演だったこともあり、記事としても長くなってしまうが、とても意義のある内容だったこともあり、前後半と記事を分け、あまり内容を咀嚼し過ぎずにお届けしたい。

※1:ルレ・エ・シャトー
1954年にフランスで発足された、一流のホテル、レストランで構成される世界的な非営利会員組織。創設当時より、厳格な審査をクリアしたホテルとレストランのみに加盟を認めている。世界62ヶ国、約580のホテルとレストランが加盟している。
※2:Olivier Roellinger(オリヴィエ・ローランジェ)
フランスブルターニュ地方にある元三つ星レストラン「La Maison de Bricour」オーナシェフ。2008年に健康上の理由で引退した。現在はルレ・エ・シャトーが行っている海洋保全、漁業保全活動に尽力している。>>オリヴィエ・ロランジェさんの単独インタビューはこちら

Olivier Roellinger(オリヴィエ・ローランジェ)写真

健康に良い、食べる人に歓びを与える料理を

ローランジェ氏:
皆さま、今日はお忙しいなかお越しいただきありがとうございます。今日は料理について、食べる歓びについて、そして海についての話をしたいと思います。

ルレ・エ・シャトーは現在5大陸のうち、60数カ国に約580近いメンバー(ホテルやレストラン)を有し、そのうちの381のレストランがミシュランの星を獲得しています。そしてシェフやソムリエ、サービスに関わるすべての人々が集まる世界最大のレストランネットワーク組織となっています。

ルレ・エ・シャトーは2014年にユネスコでマニフェストを発表して以来、食べるということはどういうことかを追求し、食の多様性を推進してきました。そしてそれはある種の世界的ムーブメントともなりました。

私たちが決定したマニフェストはどのようなものかというと、まず1つは健康に良い料理です。
2つ目は、食べる人に歓びを与える料理です。それはただ単に味が良いだけでなく、五感に働きかける料理です。
さらに、料理人のみならず、漁師や農家の生活や権利、自然を尊重し、ともに自然を作り上げる料理と決定しました。

Olivier Roellinger(オリヴィエ・ローランジェ)登壇写真

ルレ・エ・シャトーは世界の多様性や多様な料理を尊重し、それぞれの土地が表現する料理を追求しています。料理はひとつの無形文化遺産であるわけですが、それはその土地の食文化だけではなく、そこに育つ野菜や、そこで獲れる魚などがあって初めて成り立つものです。

そういった意味で地球は、私たち料理人にとってなくてはならない食糧庫であるわけです。

海という食料庫の危機

ローランジェ氏:

私たちが地球について考える時、大地に目を向けてしまいがちですが、海という側面を忘れてはいけません。ある意味、大地よりも海の方が食糧庫としては大きな役割を担っているといえるのではないでしょうか。海は命を生み、育むゆりかごです。

しかし今、その海の大部分がすでに死に絶えるとともに、その他の部分も死に絶えつつあるのです。

その理由は3つあると思っています。
1つ目は、人間がもたらしたさまざま汚染。例えば温暖化、除草剤、化学肥料、殺虫剤、ダイオキシン、放射能など、いろいろな理由があります。皆さんもご存知の通り、その中にはプラスチックに関する問題も当然含まれており、2050年には魚よりもプラスチックの量が多くなってしまうというような統計もあります。

Olivier Roellinger(オリヴィエ・ローランジェ)写真

2つ目に温暖化の問題があります。温暖化によって海の酸化が進み、プランクトンのバランスが崩れるということもあります。

3つ目は乱獲の問題です。毎年世界中で1億トンもの魚が獲られています。5%の漁師が大規模漁業を行うことで、95%の魚を獲っています。このように、漁業はもはや工業的なものとなっています。そして近年はより遠く深い海で、より小さいサイズの魚が獲られるようになりました。

その結果、現在40%以上の魚種が絶滅の危機に瀕しているか、もしくは乱獲されており、さらに40%近くの魚種が獲られたまま漁船で死に、海に捨てられる傾向にあります。

核になる問題は「海の資源が激減していることが目に見えないこと」

ローランジェ氏:

問題は、魚はどんどん少なくなっているのに、それが見えないということにあります。例えば、田舎にいけば樹木が少なくなったことを目にすることができます。鳥や昆虫が少なくなったことも、目で見て知ることができるのです。ただ、海は眺めているだけではまるで何も変わっていないように見えます。しかし、その奥深くでは大きな変化が起きているのです。

私はそれを「海の砂漠化」と呼んでいます。

Olivier Roellinger(オリヴィエ・ローランジェ)写真

ローランジェ氏:

海はたくさんの水をたたえていますが、実は砂漠のように命あるものが消滅しつつあるのです。私たちが、今まで何千年にもわたって保たれてきた海のバランスを崩しているわけです。

海というのはいつでも驚くべき力をもって、いったん少なくなった魚の数を再び元に戻すということをしてきましたが、今その力が弱まり、そして大規模漁業によって完全に破壊される危険性があります。

40%以上の魚種が絶滅の危機にある現在、私たち料理人は何ができるのでしょうか。先程私は海を食糧庫と例えましたが、料理人はそれを必要としています。

考えてみると、魚は野生動物と同じようなものだといえるでしょう。つまり、魚は海のジビエであると考えることができるのです。すると私達は海のジビエを獲り尽くしてしまっている、あるいはいつも同じジビエばかりを獲っていると考えることができるのです。

料理人がサスティナブルな漁業を推奨するためにできること

ローランジェ氏:

しかし今後、サスティナブル(「持続可能な」という意)な漁業を推進していくにあたり、私たち料理人ができることは必ずあると思っています。

Olivier Roellinger(オリヴィエ・ローランジェ)写真

 

ローランジェ氏:

そしてそれには押さえておくべき4つの大事なポイントがあります。

まず1つは、それぞれの魚種にどれだけストックが残されているかを知ることです。
2つ目は、未来にわたって私たちが魚の提供を継続できるよう、産卵期にある魚や、規格以下のサイズの魚を獲らないと決断することです。
3つ目は、海のエコシステムを破壊するような大規模漁業や、乱獲された可能性のある魚を買わないようにするということです。
そして4つ目は、本当に当たり前のことではあるのですが、それぞれの魚の旬の季節を守るということです。旬でない野菜は提供しないのと同じように、旬でない魚は提供しないということです。

私たちができる一番簡単なことは、自分達の食べている魚種を多様化することだと思います。日本の現状を広く知っているわけではありませんが、フランスの状況について話しますと、昔からフランスで高級とされてきたのは、長く保存ができるような魚だったのです。フランス料理などでヒラメが珍重されているのはそういった理由によるものです。

例えば、日本では毎日のように色々なやり方で食べられてきたアジは、フランスにもストックがあるのにまったく食べられてきませんでした。これはフランスにとっては少々恥ずかしい事実ではあるのですが、長い間、「アジは猫に与えるもの」と考えられており、例えば生で食べたりするようなことはありえなかったのです。

Olivier Roellinger(オリヴィエ・ローランジェ)と聴衆の写真

ローランジェ氏:

例えばアジのように、さまざまな方法で食用にする魚種を多様化し、ストックを把握・管理しながら獲ることによって、魚が減り、価格が高くなっていくことを回避し、より廉価な魚を料理することができるようになるのです。

私たち料理人はこういった問題に対して意識を高めていかなければなりません。
今まで食べられてこなかった魚を、どのように美味しく食べていくかということを料理人がリードすることで、消費者、漁師、料理人それぞれの意識が高まり、今までのような悪循環から、海を良い状態に変えていく良い循環に変えていくことができると思っています。

Olivier Roellinger(オリヴィエ・ローランジェ)写真

ローランジェ氏:

ル・レエ・シャトーがどのようなことを具体的に実施しているかといいますと、加盟しているすべての店舗に海の食材の扱いに関するガイドラインを配布しています。加盟している料理人たちはまず魚のストックに注意を払い、そしてストックがありながらも今まで十分に知られていなかった魚種を積極的に使い、そして産卵期の魚は使いません。

また、絶滅危惧種の魚をメニューに入れない理由を、料理人の中で共有するだけでなく、お客様にも積極的に説明して、理解を求めることを推進しています。

例えば、ある魚がメニューに載っていないことを、ただ単に「今日はありません」と言うのではなく
「これは今、季節ではないのです」とか「魚の数が少なくなっている為、仕入れないようにしています」といったことを料理人自らがイニシアチブを取って説明し、お客様に理解を求める必要があると思っています。

10年前からヨーロッパではシェフが海の資源を守る活動を行い、その成果が出ている

ローランジェ氏:

実際にヨーロッパで取り組んだルレ・エ・シャトーの活動とその成果についてお話させて下さい。

2009年、大西洋と地中海のマグロを絶滅の危機から救うため、加盟店にメニューから外すよう要請しました。その結果、数年後には大西洋と地中海のマグロが増え、今では漁師から感謝の言葉を贈られるようになっています。

他にもこれはフランスの例なのですが、専門家が絶滅危惧種ではなくなったと決定するまで、3ヶ月間、ルレ・エ・シャトーのメニューからスズキを外しました。これもやはり国際的にメディアから高く評価されました。
2018年にはオランダの継続的な大量漁獲に反対し、禁止を呼びかけました。それは私たち料理人と小規模の漁師との連携によって可能となり、大量漁獲は禁止されるという喜ばしい結末を迎えることができました。

そして2018年からは、先ほど申し上げましたように、ルレ・エ・シャトーの加盟店で働くシェフ全員を対象に、海の食材をどのように扱えば良いのか、そのために私たちができること、するべきこと、そしてしない方が良いことについての具体的なガイドラインを配布しました。

Olivier Roellinger(オリヴィエ・ローランジェ)写真

日本には世界の手本となるような、海洋資源を守るポテンシャルが大いにある

ローランジェ氏:

私たちには希望があります。それは若い世代の意識を改革することです。

若い世代は食と環境・自然という、私たちの世代で切り離されてしまったものを、再びつなげようとしていると感じています。

2012年、エシック・オーシャンという組織とのコラボレーションにより、オリヴィエ・ローランジェという、私の名前を冠した賞を創設しました。この賞は持続可能な海を守るために、継続的に若いシェフの意識を高めていくことを目的として作られ、初めはフランス、そしてスペイン、ブルガリア、ギリシャと、ヨーロッパ全土に広まっています。実は2日前、この賞が北海道の室蘭北斗文化アカデミーで開催されるという喜ばしいニュースを受け取りました。

もともと、世界中で使われている「レストラン」という言葉は、フランス語では”restaurer/〜を修復する”といい、人に栄養や元気を与えて健康を回復させるということを意味していました。特にレストランの歴史の最初期においては、命を与えるブイヨン、日本における出汁に近いものだと思いますが、それはレストレという動詞からに由来するものでした。レストレは栄養を与えること、何かを修復すること、そして新しく改革していくことを意味しています。

今後のレストランの役割は、ただ単に人に再び元気を与えたり、栄養を与えたりするだけではなく、地球にも栄養を与え、そして地球を修復していく使命を与えられているのではないでしょうか。

Olivier Roellinger(オリヴィエ・ローランジェ)写真

ローランジェ氏:

日本について考えてみると、日本は世界中から敬意を払われている国だと思います。来日するたびに、日本は食材に対してスピリチュアルというべきか、聖なるというべきか、何かそういった美意識を持っていると感じます。

生きるものには魂があり、それを殺して命をいただくことによって、私たちの生が1日1日伸びていく、このことに日本人は大変意識的だと思いますし、文化的にもそういった感受性を備えていると思います。

私は日本人の持っている海に対する非常に深い知識や知恵にいつも感心し、賞賛の念を抱いてきました。例えば、さまざまな貝類の養殖や海藻に対する知識には、感嘆の念を禁じえません。それだけではなく、食材をさらに美味しくすること、食材に対して敬意を持つことを強く意識している人が多いと思っています。今回も明石の漁港で活け締めの様子を拝見しましたが、世界で唯一のすばらしいテクニックではないかと考えています。

Olivier Roellinger(オリヴィエ・ローランジェ)写真

ローランジェ氏:

さらに明石の漁港では男性だけではなく女性も、色々な世代の人が若人から老人まで現役で働いていました。日本以外の漁港ではあまり例のないことですが、明石の漁協では生きたまま、魚がいけすに入ったまま運ばれてきて競りにかかります。そこでは魚市場にありがちな魚の悪臭がまったくしません。私はそこに、死んでいる魚がひとつもないという、理想的な状態を見たのです。

まさに世界の手本となるような魚市場が、皆さん達のすぐ近く、手に届くところにあるわけです。

そのようなことに関して日本はイニシアチブを取り、本来の意味での先進国となるということができるのではないかと私は思っています。ご清聴ありがとうございました。

>>後編に続く

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主 催:大阪観光局
共催:ルレ・エ・シャトー
協力:大阪ガス株式会社、関西食文化研究会、大阪商工会議所
文:市原 孝志、写真:松井 泰憲、編集:菊地由華