2020.01.16

海外との交流はチームを見つめ直し成長するチャンス丨レストランディファランス 藤本 義章 × チーム Difference

多くの飲食店にとって、経営の最重要課題の一つとなっているのが「インバウンド需要の高まりによる海外ゲストの対応」ではないだろうか。言葉・食文化の壁を感じ、対応に苦慮している飲食店は多い。そんな中、積極的に海外との交流を図り、インバウンド需要にも柔軟に対応しているレストランがある。

大阪の中心街・靭公園近くにあるフランス料理店「Restaurant Difference(レストラン ディファランス)」では、スタッフたちが進んで英語・台湾語を学び、海外ゲストを手厚くもてなしている。また、2017年から3回にわたって台湾のホテルとレストランから招かれ、現地で期間限定フェアを行った。シェフ藤本氏はもちろん、メンバー全員で現地にわたり、チームDifferenceでフェア開催を手掛けたそうだ。

こうした海外との交流、海外ゲストへの対応を始めるきっかけになった理由、そして海外対応の中から得たものとは何か。メンバー全員に集まっていただき、それぞれの思いをざっくばらんに話し合っていただいた。

レストランディファランス 藤本 義章とスタッフさん一同の写真

海外ゲストが増えたきっかけは、ミシュランガイド

——昨今、海外ゲストへの対応に苦労なさっている飲食店が多く見受けられます。そんな情勢のなかディファランスでは積極的に海外との交流を図り、すでに3回にわたって台湾での特別営業も手掛けていらっしゃいます。こうした対応を強化されるようになったきっかけ、あるいはその背景にはどんな狙いがあるのでしょうか。

藤本氏 うちの店に海外からのお客様が増えたのは、ミシュランガイドに掲載されてからだったと思います。こっちから海外に向けて宣伝したようなことは全くなくて、海外のお客様の口コミ(ネットでの投稿なども含めて)でインバウンドのお客様が増えていったという流れです。知らないうちに発信力が高いお客様のご来店があったのかもしれません。

スタッフさん 基本はアジアの人が多いです。中国、台湾、シンガポール、タイ、それに韓国。中でも中国・台湾の人が多い印象ですね。逆に欧米の方は少なくて、たまにいらっしゃるとスタッフたちがソワソワし出します(笑)。

レストランディファランスホールスタッフ女性2人の写真

スタッフさん アジアのお客様の場合は、こっちもつたない英語、向こうもつたない英語同士で、なんとなくコミュニケーションが取れるんですが、欧米の方は早口なので聞き取れないんですね。サービス対応するときも、思わず緊張してしまいます(笑)。

——語学に関してですが、お話によるとスタッフのみなさんは自主的に英語や台湾語を学んでいらっしゃるとか。

藤本氏 決してそんなに上手に話せるわけではないんですけど、接客に最低限必要な語学力は身につけておきたいとメンバーが言ってくれたので、勉強してもらっています。レベルの高い会話ができるようになるのは、まだまだこれからです。

レストランディファランス藤本 義章シェフの写真

——スタッフのみなさんが語学力の習得を意識されるようになったのは、どんなことがきっかけですか?

スタッフさん きっかけは台湾のホテルに招かれ、特別営業をしたことです。2017年10月、2018年11月、2019年7月と3回にわたってチームDifferenceで台湾に遠征しました。その最初の時に全然言葉がわからなくて、現地のホテルスタッフとはジェスチャーで何とか意思の疎通を図っていたのですが、「もっと会話ができればいいな」と思って集中的に学び始めました。

藤本氏 もともと台湾のホテルから声がかかる前は、自分たちが海外に行ってレストランを営業するなんて全く思っていなかったんですよ。東京のほうの有名なレストランとかが海外遠征している話を聞いては「いいよなぁ、俺たちも行ってみたいなぁ」なんて言っていたぐらいです。

それがある日突然、店のフェイスブックに台湾のホテルから連絡が来て、最初は半信半疑でしたよ。「騙されてんのとちゃうか!?」と思いました。

——そうだったのですか!どんなつながりから藤本シェフにお声がかかったんですか?

藤本氏 どうやら以前この店に来てくださったお客様から、ホテルの関係者に話が伝わったようです。本当に最初は信じていなかったのですが、向こうのホテルの料理長がうちに来られていろいろと見学していかれました。それで我々も本格的に台湾遠征の準備に入ることになり、急遽語学も覚えていった感じです。

台湾で出店した百貨店の外観写真
台湾遠征先 画像:ディファランス Facebookページから

——2回目の遠征も同じホテルの主催によるものだったのですか?

藤本氏
そうです。2017年の1回目の時は、現地のスタッフとのコミュニケーションもうまくできず、非常にストレスが溜まる内容でした。料理も自分がやりたかったものからは程遠く、くやしい思いが残りました。

「また行きたいなぁ。でもきっと次はないよなぁ」と思っていたところ、ありがたいことに2回目のオファーをいただくことができました。

——海外と日本ではオペレーションも違って、いろいろ苦労されたのではないでしょうか。どんな点が一番大変でしたか。

藤本氏 過去3回のうち一番大変だったのは3回目の遠征です。現地のレストランで私のフェアを開催する企画でしたが、当初は10日間の営業で600人に対応する予定でした。それがどんどん予約が増えていって、最終的には1200人になってしまったんです。その連絡を受けたのが出国の5日前のこと。現地に到着するとすぐにテレビの取材があったりして、ばたばたのまま営業がスタートしました。

レストランディファランスのソムリエの写真

スタッフさん 昼に2回転、夜に2回転というペースで、キッチンのスタッフもホールに出ないと対応しきれないほどでしたね。通訳を介して料理の説明をしているような余裕なんてありません。なので、料理を詳しく説明した紙を卓上に用意するなどして、何とか営業できる状況を整えるのに本当に苦労しました。

藤本氏 しかも、現地のキッチンスタッフは2人しかいない状況で、本当に過酷でしたよ。朝の7時から夜の営業が終了するまでろくに休憩も取れません。そんな状況でしたけど3回目ともなると本当に学ぶことがたくさんありましたね。語学の準備もある程度は整えていたので、ちょっとしたコミュニケーションなら過不足なく取れていました。

スタッフさん 出国前には台湾語がちょっとはできるようになっていたんですけど、忙しすぎてなかなか披露する場がなかったのが僕は逆に残念でしたね。

スタッフさん 私は現地の人の話すペースが早くて、うまく聞き取れないことが多かったのが反省点です。

スタッフさん 佐野はいつもニコニコ対応してて、大変な時も笑顔で乗り切ってたよね。

レストランディファランス佐野くん

スタッフさん 細かい言葉のニュアンスは全然わからないので、とにかくフレンドリーな笑顔で対応しようと思っていました。盛り付けとか細かいことは通訳がいないと全然伝わりませんけど、それ以外は心で会話していましたね。

スタッフさん 佐野くんは台湾の女の子にもてるルックスだったみたいで、ホールの女の子と仲良くなって、お菓子をあげたりしていましたね。私がパンを切るサービスをしていると、現地の女の子がわざわざ「佐野くんに切って欲しい」ってリクエストしていたぐらいです。こっちとしては、そんなリクエストに応えている余裕は全然ありませんでしたけどね(笑)。

レストランディファランススタッフの皆さんと藤本シェフの写真

日本と海外は違うからこそ、自分たちの現在地がわかる

——大変な状況も楽しんでいらっしゃったようで、うらやましいです。料理に関しては、どんな評価だったと思われますか?

スタッフさん キッチンのスタッフからは、評価が高かったです。向こうのシェフも「すごい」って言っていました。

藤本氏 多分、うちが得意としている素材同士の新しい組み合わせが新鮮に映ったんだと思いますね。

スタッフさん 台湾や中国の富裕層のみなさんはとてもグルメで、食に対する関心も高い印象です。おいしいものを食べ慣れているようなので、新しい味に出会うと印象が強く残るようです。

藤本氏 僕はお客様の反応にずっとヤキモキしていましたよ。オープンキッチンのレストランだったので、お客様の様子を見ることができたんです。ダメな時はお客様のリアクションを見るとすぐにわかります。中には新しい味を敬遠する人もいて、そういうお客様の姿ばっかり記憶に残っていますね。

レストランディファランス藤本 義章さんと若手スタッフの写真
スタッフさん 確かに向こうの人はダメな時は全然ダメで、見ただけで料理に手を付けない人もいたぐらいです。味の違う食材を一緒に食べる料理も、上に乗っている食材だけを食べて「ダメだ」ってなっている人も目につきました。

スタッフさん シェフが作る料理は、パーツとパーツで味覚が分かれているんです。ちゃんと合わせて食べると1つの味になるのですが、一部分しか食べてくださらないお客様がいたことはとても残念でした。

——もったいないお話ですね。それも日本と海外の食に対するスタンスの違いなんでしょうか。ほかに苦労したことはどんなことでしたか?

藤本氏 店のオペレーションについては、何が起きても特に動じることはありませんでしたね。あれがない、これがない、というのは当たり前で、ないならないで今あるもので何とかするという感じです。それは1回目・2回目の遠征の時にわかっていたことですから、十分な準備をして3回目に挑みました。

レストランディファランス藤本 義章山の写真

——材料がそろわないのは普通のことで、その中でどう対処するのか、調整するのかが大切ということですね。

藤本氏 だから神経質な料理人は海外遠征はやめといたほうがいいですね(笑)。どんなに事前に現地と連絡を取り合っても、実際に現場に行くと頼んでおいたものがないんですから仕方がありません。

——大変な海外遠征ですが、みなさんのお話を伺っていると言葉の壁というのはそれほど大変なことではないように感じます。

藤本氏 そうですね。極端な言い方をすれば、言葉はなくてもいいのかな、と。僕らには料理があり、料理を通して会話することができます。現地のスタッフも料理のプロですから、一緒に仕事をしていると言葉がなくても気持ちが通じ合います。言葉は大切ですが一番ではありません。同じ目的に向かって一緒に働くことが、料理人にとって一番大切なことだと思います。

レストランディファランス藤本 義章さんの写真

——そんな海外遠征を通して、どんなことを学んだと思いますか。遠征前と比べて、ここが変わったなと思う部分はどんな点でしょうか。

藤本氏 この店の外に出ないとわからないこと、経験できないことって本当にたくさんあると思います。いつもと違う環境に困る場面も多いのですが、逆に日本にいる自分たちがどれほど恵まれた環境で仕事をしているのかを再認識できました。

スタッフさん 海外では、食材を頼んでも約束通りに届かないことが珍しくありません。夜中に到着したりして、予定通りに準備や仕事が進むとは限りません。

藤本氏 そういう部分でも、普段お付き合いしている業者さんの存在は本当にありがたいですね。決して海外の環境を否定するわけではなく、今の自分たちの置かれた立場を見直すきっかけにもなったと思います。

レストランディファランス 藤本 義章さんの写真

失敗は当たり前。失敗の機会があることが次につながる

——有名なレストランではシェフだけが海外に招かれて、残ったスタッフで通常営業をされているケースを見かけますが、ディファランスでは必ずチームで海外に遠征されていますよね。そこには何か理由があるのでしょうか。

藤本氏 レストランの料理というのは、いわばシェフの料理なわけです。せっかく楽しみに来店されても、シェフがいなければとても残念な気持ちになると思います。僕の店では、そういう思いをお客様にさせたくないんです。だから店を休んで、みんなで外の仕事に行くようにしています。お客様をないがしろにしたくないというのが本当の気持ちです。

——それでも諸事業でシェフが不在もでてきてしまうと思いますが、不在の時には、若手のみなさんだけで特別営業をされていますね。メニューを見てみると、4品にドリンクがついて2500円といった試みをされています。

藤本氏 私が不在の時は、スタッフたちでどんなメニューを提供するのかまで考えてもらっています。本当に何を用意してもいいんです。真剣にやってくれるなら、一切口出しはしません。

レストランディファランス 藤本 義章さんの写真

——若いみなさんに任せるという意味で、こういった特別営業の日を設けていらっしゃるんですか?

藤本氏 任せるというよりも、店を営業するプロセスから経験して欲しいという思いのほうが強いですね。単に料理を作ってお客様に提供するだけでなく、レストランの経営ではお客様のニーズを考慮した上でメニューを用意する必要があり、最も頭を悩ます部分です。いつか彼らが自分の店を持った時そうした苦労があるわけですから、今のうちから実感してもらいたいと思っています。

というのも私自身、若いころは決して優等生ではありませんでした。料理をやりたくてもなかなか任せてもらえなくて、自分の力量も分からずモヤモヤしていました。力が足りていないなら足りていないで、失敗してその事実を知りたかった。でも失敗する機会すらないのが現実だったんです。

自分の力不足を痛感したのは独立後でした。状況としては最悪です。どうせなら若いうちに失敗したほうがいい。調子に乗っているならその鼻っ柱を早いうちに折られた方がいい。だからこそ若いスタッフに早く気づいて欲しいんです。

——確かに、シェフが不在の日に作る料理は、お客様の反応がいつも以上に気になるものですよね。

スタッフさん 僕が店を任せてもらえる日は、予約がどれぐらい入っているか気になって仕方がありません(笑)。

レストランディファランスの佐野さんと若手スタッフの写真
藤本氏 そういう気持ちが大切ですよね。とにかく店に来てくださるお客様のために、自分にできることを一生懸命にやる姿勢が料理人には必要です。失敗したっていいんです。そこから何かを学んで、次に活かすことができますからね。不安もストレスもない無難な毎日を過ごしているだけでは人は成長できません。

——常連のお客様の中には、チームディファランスのみなさんの成長を楽しみにされている方もきっと多いと思います。ぜひこれからもみなさんで力を合わせて頑張ってください。本日はありがとうございました。


編集後記:

当メディアでは、藤本シェフには、個人のキャリアをお話いただいたインタビュー記事、藤本シェフの料理を動画撮影させて頂いた料理動画記事と、何度か取材へのご協力をしていただいている。
いずれの取材でも藤本シェフから出てくる定番のネタは、スタッフさんの自慢話だ(笑)。一緒に店を作っているメンバーは、チームワークがいいとシェフは屈託なく言う。

そして近年海外ゲストが増えており、店全体で海外ゲストに喜んでもらう取り組みをしていると聞いたため、インバウンドと絡めた店作りの話をぜひ皆さんから聞きたいと思い、今回の機会を頂いた。

本記事の藤本シェフの言葉からも伝わるように、とてもスタッフ思いである。また、ただ「思いがあるだけ」でなく、実際にお店を自由に使うことや、海外出張を全員で同行するなど、言ってることとやってることがちゃんとリンクしている事が信頼に繋がり、絆が強くなっているのではないかと思う。

今回インタビューの中では話されなかったが、藤本シェフは海外からお声がかかった時「僕だけではなくディファランスのスタッフ皆で参加できないのであれば、断らせてください。」と交渉したのだと編集部にこっそり話していただいた。自分のことよりもスタッフ。藤本氏はそういうシェフなのだ。

3回も招待されるということは、もう向こうはディファランスに来て欲しいのだろう。ディファランスを台湾でもぜひ!ときっと言われているに違いない!(編集部の勝手な想像です。)
個人的には、藤本式のマネジメントで、ぜひ海外に飛び立って欲しいと願っている。なにはともあれ、これからもディファランス藤本シェフの動向に注目していきたい。


Restaurant Difference(レストラン ディファランス)

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火曜日(但し、日曜日・月曜日が連休の場合は、日曜日営業、月曜日休み)

聞き手・編集:菊地由華、書き手:上田洋平、写真:能谷わかな