2019.09.17

飲食業における働き方改革のヒント|Mr. CHEESECAKE 田村浩二|SKSJ2019レポート

8月8日9日にシグマクシスとNextMarket Insightsが共同開催したイベント「スマートキッチン・サミット・ジャパン(以下、SKSJ) 2019」。今年で3回目で、今年は50人を超える登壇者が2日間「食」とテクノロジーの未来を語り合いました。

編集部では、SKSJ2019中編レポート「シェフ・レストランが担う役割の変化」で登壇されたMr. CHEESECAKEの田村浩二氏へ、登壇後独占インタビューを行いました。

みんなで作るから無駄なく、効率よく

編集部:
まずは、Mr.CHEESECAKE事業のクラウドファンディング(※注1)について、達成率1123%とのことでおめでとうございます。

※注1:クラウドファンディング…不特定多数の人が通常インターネット経由で他の人々や組織に財源の提供や協力などを行うことを指す。群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語。

クラウドファウンテングの募集画面

Mr.CHEESECAKE事業は、クラウドファウンテングで多くの方の支援を得た。  https://www.makuake.com/project/mrcheesecake/より引用

田村:

ありがとうございます。僕ら自身、ここまでになると予想していなかったので、驚きました。


相手を見て話をする田村さんの写真
田村浩二(たむらこうじ) 1985年神奈川県三浦市生まれ。新宿調理師専門学校を卒業後、乃木坂「Restaurant FEU(レストラン フウ)」にてキャリアをスタート。 ミシュラン二ツ星の六本木「Edition Koji Shimomura (エディション・コウジ シモムラ) 」の立ち上げに携わる。 表参道の「L’AS (ラス)」で約3年務めたのち、渡仏。World’s 50 Best Restaurants 2019 の1位を獲得したミシュラン三ツ星のフランス南部マントン「Mirazur (ミラズール) 」、 一ツ星のパリ「Restaurant ES (レストラン エス) 」で修業を重ね、2016年に日本へ帰国。 2017年には、世界最短でミシュランの星を獲得した「TIRPSE (ティルプス)」のシェフに弱冠31歳で就任。 World’s 50 Best Restaurants の「Discovery series アジア部門」選出、「ゴーエミヨジャポン2018期待の若手シェフ賞」を受賞。 現在は Mr. CHEESECAKE の他、複数の事業を手掛ける事業家として活動。

編集部:
多くの方の支援を得たすばらしい結果となりましたね。

Mr.CHEESECAKE事業は、クラウドファウンテングでの皆さんの支援ももちろんですが、ECサイトもリニューアルされ、飛ぶ鳥落とす勢いで事業成長を遂げているようにお見受けしています。

これに対し驚くのは、生産側の対応スピードです。量産化に成功されている秘訣や、マネージメントのコツをお聞かせいただけますか?

田村:
僕はとにかく無駄なものが嫌いで、余計なことはしないと決めていました。

事業化にあたっての商品選定は、僕自身が好きなチーズケーキにしようとすんなり決めましたが、それを自分ひとりで作っていく感覚はほぼありませんでした。

つまり、他の人に作ることをお願いするということを最初から想定していたんです。加えて、例えば職人さんが混ぜないといけなかったり、目で見て判断しないといけなかったりする工程はすべて無くす、わかりにくい作業工程を絶対に入れないオペレーションにすると最初から決めていました。あとは工数がかかる計量も、ほとんどなくしています。

Mr.CHEESECAKEの写真
https://www.makuake.com/project/mrcheesecake/より引用

編集部:

製菓は計量が命かと思います。具体的にはどのように計量をなくしていますか。

田村:
クリームチーズは1キロと10キロがあるのですが、10キロをまるごと使うことはほとんどありません。では、10キロから3キロを取ろうと思うと、3キロを計量しないといけませんよね。するとテーブルなども汚れるし、袋を開けたものを保存するのは衛生的に良くありません。

そこで、多少割高になったとしても、1キロサイズを3個使うことにしています。すると基本的には、丁寧に取れば、毎回同じ分量が出てくるので、3キロを測る必要がなくなります。

サワークリームでも、ヨーグルトでも、砂糖でも、全部そのようにしています。おそらく11種類か12種類の素材がありますが、計量するのはコーンスターチとレモン汁だけなんです。このようにして作業を短縮したり、焼く時間も温度と時間で全部コントロールしているので、上下を入れ替えるとか、その程度の作業しかないんです。その上、オーブンに入っている間は他のことができるので、そちらに意識を割かなくて大丈夫です。

Mr.CHEESECAKEの製造現場の写真

https://www.makuake.com/project/mrcheesecake/より引用

編集部:
徹底してやらないことを決めたわけですね。

田村:
そういうことを構築するのが、僕はとても好きなんです。結果、1時間あたりにできる仕事量が非常に増えました。
大切にしていることは、頭を使わずにいかに仕事ができる環境を作れるかです。
実は、効率よく無駄がなく仕事ができ、みんなが好きなもの、かつ配送に耐えるものと考えた時に、候補はそれ程多くありません。美味しさの部分は僕が構築できるので、オペレーションが構築できるかどうかを先に問題解決してからすべての流れを進めました。そのため、フェーズが変わり規模が大きくなる時も、そっくりそのままサイズが大きくなったキッチンで、同じオペレーションを組めばいいだけなのです。つまり、基本的に作業が追いつかないというようなことはあまりありません。

田村さんの横顔写真

効率化を徹底したのは、業界の新たな働き方を確立したいから

編集部:
効率化を徹底されたのは、なにか理由がありますか?

田村:
飲食業で体を壊したり、精神的に辛く辞めてしまった人の中で「他の仕事をやったけど、やっぱり飲食に戻りたい」という人達の雇用を生み出したいからです。

基本的に製造には女性しかいないのですが、1日8時間労働で、土日祝日が休み。ちょうど明日からお盆で9連休なのですが、全部休みにしています。ゴールデンウィークも10連休を取りました。

編集部:
飲食業とは思えないです。衝撃的です。

田村:
それ以外でも、僕の外での活動に同行してもらったり、会社の数字をほぼすべて公開し勉強してもらったりしていますので、比較的モチベーションが高い状態で働いてくれています。

僕は基本的に「その日のノルマが終わったら帰っていい」と伝えていますので、早く帰るために作業の効率化が自然と進みます。またミスについてはなぜミスが起こったかをみんなで話して、その解決策を考えます。結果としてそれが、無駄をなくすことにつながり、時間あたりの生産量も増え、いい職場環境にもつながっています。

ちなみにうちは工業勤務とは違い、みんなが世間話をしながら、楽しく働いている感じです。

仕事って人生において重要な大部分を占めているところなのですが「仕事のために生きないでね」とみんなに言っています。人生を楽しむために仕事があるんだよという働き方を最初から伝えています。

Mr,CHEESECAKEの製造現場で働く女性の写真
https://www.makuake.com/project/mrcheesecake/より引用

編集部:
仕事一筋になりがちなこの業界で、なぜそのような考えに辿り着かれたのでしょうか?

田村:
僕は子供がとても好きで、小さい頃から家族と過ごした時間が多かったんです。ただ、レストランでは、家族との時間を作ることは本当に無理だなと思ったんです。僕は単純に、みんなが食べて、みんなが笑顔になるものを作りたかったんです。
そう思った時に、レストランしかシェフの進路選択肢がないことを疑問に思いました。加えて、著名な高級レストラン店は増え続けているのに、働く若者は減っています。僕の感覚では、レストランに食べにいく人も減っているなと思っているんですよ。

編集者:
登壇中にもお話ありましたが、「美味しいものをいろいろな人に届けたい」という思いが事業の根幹なんですね。
とはいえ、レストランを離れるというのは、大きな決断だったと思います。

田村:
そうですね。だからこそ、レストランから離れたとしても、飲食事業をやるなら圧倒的に結果を出さなければいけないなという思いもあります
きちんと事業として売上を立てて、利益も出して、働くスタッフも満足してというような環境で、圧倒的な結果を出して、初めて飲食業界で働く選択肢を増やせたことになるかなと。

はにかむ田村さんの写真

外の業界と交流することで自分の道がわかってくる

編集部:

登壇中に、田村さんが独立してからこの1年で飲食業界も変わってきたとのお話がありました。飲食業界の変化についてどのように感じてらっしゃいますか?

田村:

レストラン業界のあり方を変えた方がいいよねと思っている人が、非常に増えてきていると思います。

実は、今年の4月に2つの専門誌から取材の依頼が来たんです。それが、両方とも「飲食店の新しい働き方」のようなテーマでした。この取材の際に、業界誌の変化を感じました。

他にも、「このまま料理人続けていていいのかな」と思っている若者たちが多いと感じています。Twitterでも、メンションつけてコメントくれたり、DMが来たりして「どういう働き方をされているんですか?」「今後どうしたらいいと思いますか?」というような相談を受けるんです。

編集部:

どんな感じでアドバイスされるんですか?

田村:

正直なところ、20代後半の料理人はとにかくシェフになって、名前を出したほうが速いので、とにかく頑張れという話をしています。30歳を過ぎるタイミングで、なるべく同世代の飲食業界以外の知り合いを作り、全然違うお金の稼ぎ方をしている人たちの話を聞き、仲間をできるだけ増やすよう勧めています。この仲間と仕事をすることで、自分の出口のイメージがかなり変わってきます。
インターネットを介していろいろな働き方や可能性があるんだということを知るだけでも、働き方が変わるのではないかと思っています。僕がそのきっかけになればなと。

笑う田村さんの写真

編集部:
登壇でも、Twitterやインターネットを通じ色んな方と交流できるようになったとお話ありましたね。

Twitterは文章のつぶやき(投稿)がコミュニケーションの核となりますよね。田村さんは上手く活用されていますが、飲食業界従事者にとってハードルが高いのではと思います。いかがでしょうか。

田村:
呟かなくてもいいからまずはTwitterを見ることから初めたら、という話をよくしますね。
僕自身が最初そうだったのですが、単純に何を発信していいかわからないという料理人の声も聞きます。毎日基本的に同じ仕込みしかしていないので、特に伝えることもないように思えたりもしますよね。でも実は、ちょっとした料理の豆知識みたいなものを呟くことは、実はとても喜ばれたりするんですよ。

自分の強みと相手の強みが新しいものを生みだす

編集部:

若手が飲食業界で働き続けられるように、この業界に新しい風を吹きこみたいという思いはあるのでしょうか。

田村:
そうですね。

料理人にも、美味しいものを美味しいとわかる味覚のよい人もいれば、いかに効率よく速く料理を出すかというオペレーションの上手い人もいるし、マネジメントの得意な人もいます。単純に美味しいものを作れる人が必要かどうかも、業態によって異なってきます。要は個人個人で持ち味があるということです。

僕は、非常に優秀な二番手は、シェフにならないほうがいいと思うんです。そういった人材は、共同代表としてスタートアップにジョインすれば、オペレーションの構築もできるし、食材のこともわかるし、ある程度味も作れる。そういった働き方もよいのではないかと思います。
盛り付けが得意な人は、いろいろなフードスタイリストがいますが、ハイエンドなフードスタイリストのような仕事することもできるかもしれません。

顎に手を置き話する田村さんの写真

田村:

能力の活かし方は幅広いはずなのに「料理人=美味しいもの」というざっくりとした括りになってしまうのはもったいない。料理人たちのそれぞれの強みがもう少し細分化された状態で理解されれば、自分を売りやすくなると思います。

例えば、ゴーストレストラン(実店舗を持たない飲食店)などは、経営側はいかに効率よくオペレーションを組むかが重要で、商品はマーケティングした売れそうなものに決めていますよね。

一方で、どのようにすれば効率よく作れるかとか、仕入れをどこからすればいいかなどの運営サイドの話が、経営者側でわからない方も多いのが事実です。このように各分野に強い人を上手くつなげることができたらいいなと思っています。

地方は地方ならではの役割分担ができるのではないか

編集部:
色々な働き方に結びつく種があるということですね。
ただ、現状の飲食業は少数精鋭の体制で、一人何役もこなすことが多いですね。特に地方にはそのようなスタイルで奮闘する方が多いかと。地方の個店へアドバイスをいただけないでしょうか?

田村:

地方に行く際は、観光したり、自然に触れたり、お店に食べに行ったり、と行く理由がいくつかあります。ただ、それらが全部バラバラなんです。観光したい人は観光したい人でしているし、宿泊施設は宿泊施設単体で建っているし、料理人はお店だけで頑張ろうとしています。僕はそもそもそこは最初からひとつになってやった方がいいと思います。

例えば、宿泊施設側は、オーベルジュのような宿泊施設を若い料理人と共有する方法があります。ホテル業界の人たちは、料理を良くしたいけど、働いてくれる料理人がいなくて、非常に困っているんです。

一方、料理人はお店を出したいけれど、お金がかかるし、そこだけでやっていくのは厳しいし、高い値段はなかなか取りづらい。食事代込みで、ホテルの宿泊費を設定をすれば、食事の値段も見えにくくなるし、きちんとした箱なら値段も取りやすいので、収益を立てやすいと思います。

その中で割り当てられた金額で料理人は料理を作ればいいしと思います。東京のようにどんな食材でも揃うわけではないから、必然的にそこでしか食べられない料理を作りやすい。

観光については、自治体をベースにして取り組んだ方がいいと思いますが、きちんとしたチームを組めば、それぞれ足りないものを補いつつ、そこに行く強い理由を作ることができたり、お金の管理がしやすくなったりします。

ジェスチャーする田村さんの写真

田村:東京一強みたいな風潮もなくなってきているので、海外から帰ってきた料理人は、地方からシェフのキャリアをスタートする方がやりやすいです。

地方で「いいね」となれば、東京に行くのは簡単だと思います。日本はいろいろなハードルが低いし、集客のことは料理人よりも得意な人が考えた方がいいので、そういった人たちを巻き込んできちんとチームを作る方が、僕はいいなと思います。

編集部:

本当は、ワクワクする話を沢山ありがとうございました。

>>関連記事:SKSJ2019中編レポート『シェフ・レストランの担う役割の変化|Mr. CHEESECAKE 田村浩二|SKSJ 2019レポート」』はこちら

 

編集後記

田村氏は自らをFood Expanderと称し、食品プロデュースからゴーストレストランの監修まで、あらゆるプロジェクトで人を巻き込み、手腕を振るう。そのパワーの源は「みんなが食べて、みんなが笑顔になるものを作る」という優しい想いと「飲食業界の新しい働き方の確立したい」という熱き志だった。食への愛を忘れず、新時代の飲食業界を切り開く氏に魅せられた人の輪が、業界を超え、立場を超え、大きくなっていることも頷けた。

文・編集:菊地由華
写真:長坂佳宣