2019.09.12

シェフ・レストランの担う役割の変化|Mr. CHEESECAKE 田村浩二|SKSJ 2019レポート

8月8日、9日に株式会社シグマクシスとNextMarket Insights社が共同開催したイベント「スマートキッチン・サミット・ジャパン(以下、SKSJ 2019。)

「食&料理×テクノロジー」をテーマに、フードテック企業、キッチンメーカー、サービスプロバイダー、料理家、起業家、投資家、デザイナー、ビジネスクリエーターといった幅広い分野の有識者のプレゼンテーション、パネルディスカッションを通じ、日本のキッチンの未来を考えるイベントです。今年で3回目 で、50人を超える登壇者が2日間「食」とテクノロジーの未来を語り合いました。

イベントレポート中編は、「シェフ・レストランが担う役割の変化」について。ミスターチーズケーキの田村浩二氏、シグマクシスの増田拓也氏によるセッションをお届けします。


【パネリスト】

田村浩二(たむらこうじ)1985年神奈川県三浦市生まれ。新宿調理師専門学校を卒業後、乃木坂「Restaurant FEU(レストラン フウ)」にてキャリアをスタート。 ミシュラン二ツ星の六本木「Edition Koji Shimomura (エディション・コウジ シモムラ) 」の立ち上げに携わる。 表参道の「L’AS (ラス)」で約3年務めたのち、渡仏。World’s 50 Best Restaurants 2019 の1位を獲得したミシュラン三ツ星のフランス南部マントン「Mirazur (ミラズール) 」、 一ツ星のパリ「Restaurant ES (レストラン エス) 」で修業を重ね、2016年に日本へ帰国。 2017年には、世界最短でミシュランの星を獲得した「TIRPSE (ティルプス)」のシェフに弱冠31歳で就任。 World’s 50 Best Restaurants の「Discovery series アジア部門」選出、「ゴーエミヨジャポン2018期待の若手シェフ賞」を受賞。 現在は Mr. CHEESECAKE の他、複数の事業を手掛ける事業家として活動。
【モデレーター】
増田拓也(ますだたくや) 株式会社シグマクシスにおけるビジネス開発のエキスパート。株式会社シグマクシスにおけるビジネス開発のエキスパート。コンサルティングだけでなく、東海地域のインフラ企業とジョイントベンチャーを立ち上げ、自らも事業に従事する。同社フードチームのコアメンバーとして、SKS Japanの運営にも携わる。

【質問1】一般的なシェフ像と異なる働き方、生活者との接点を構築するための具体的な取り組みについて。

増田:
田村さんは、レストランを構えてシェフをするという一般的なシェフ像と異なり、違った角度から生活者との接点を構築し、食という体験を提供しているとのことですが、具体的な取り組みについて教えていただけますでしょうか。

田村:
具体的な取り組みのお話の前に、僕の経歴についてお話します。

僕は、料理人として計13年間飲食業界に勤務しました。東京10年、フランス1年勤務し、ミシュラン店での修業もしました。その後店のトップとして「ティルプス」(※注1)に 2年間務めました。そこから昨年独立しまして、「Mr.CHEESECAKE」というDtoC(※注2)の会社をやっています。

※注1「ティルプス」…品川御殿山に移転した「 Quintessence(カンテサンス)」跡地を同店で働いていた大橋直誉氏が譲り受け、2013年9月にオープン。その後、わずか二カ月でミシュランの星を獲得。2017年1月から田村氏がシェフを勤める。現在は閉店。

※注2:DtoC(Direct to Consumer)…流通業者などの他社を介さず、商品を製造する企業が自分たちで直接商品を売る業態を指す。

田村:
「ティルプス」 在籍時に、フランス発グルメガイド『ゴエミヨ 東京・北陸・瀬戸内2018』にて、「期待の若手シェフ賞」を頂きました。一般的には光栄で喜ばしいことであると思いますが、僕の心境は少し異なりました。というのも受賞後は、来店客がフードジャーナリスト、同業者に変わったのです。そして「僕が作っているかよりも、作っている皿に何が乗っているか」を注目されるようになったのです。僕はこの状況に疑問を感じました。

賞を取るまででは、賞を取るために個性をどう出すか、今までない食材や組み合わせをどのように提供するかに重きを置いていました。それが客層が変わり疑問を感じたことで、自分が本当にやりたいことはなにかを考え直すきっかけを得たのです。その結果、「誰が食べてもシンプルで美味しいものを誰よりも美味しく作ることで、より多くの人が食で幸せになる体験を届けたい」いう自分自身の思考に気づきました。これをきっかけに飲食店で勤めることを辞め、チーズケーキの会社を設立するに至りました。

元々チーズケーキは事業として始めようとしたわけではなく、自身のInstagramで本当に美味しいチーズケーキができたことを投稿したことがきっかけでした。その投稿を見て、食べてみたいと言ってくれる周囲の反応があり、その声が広がったことで、結果として事業化へと結びつきました。

https://www.makuake.com/project/mrcheesecake/より引用

【質問2】次のチャレンジを決めたきっかけ

増田:
シェフとしてご成功されていたと思います。そこから事業主として次のチャレンジを決めた、自分を変えてみようと思ったきっかけはありましたか?

田村:
料理の可能性を試してみたいと思ったきっかけは、インターネットで世界中の人とコミュニケーションが取れるようになったことですね。
「ティルプス」では僕が3人目のシェフで、もちろんシェフ交代に際するメディア取材もなく、僕の存在を知られる機会もありませんでした。その時周囲から、「発信したいのであればTwitterが相性がいい」と言われ、レストランで何をし、何を考えているか、どういう世界観を料理を通じ伝えたいか、Twitterを介し発信し始めたんです。

それまでの僕は、レストランに来る40人のうち、僕の料理に関して何かを感じてくれ、興味を持ってくれる10%程の方としか話ができませんでした。それが、インターネットを通じ色んな方と交流できるようになりました。更に、僕のようにシェフをしながらコミュニケーションを取り発信する人もいなかったこともあり、マーケットに可能性を感じました。

そもそも僕は、世界で一番美味しいものを作ろうとはしていません。それよりも、「料理を通じてどんな体験・思いをするか、その人の人生にどういう影響を与えられるか」を考えています。

賞をとったことで、僕の目指す方向性は「レストランという箱に縛られなくとも形にできる」「第三者評価を気にする必要がない」ということに気づくことができました。この気づきも、次のチャレンジを決めたきっかけになっています。
今まではシェフの進路と言うと「自分のお店を出して、独立するのが正義」という一点のゴールしかありませんでしたが、そうではない新しい可能性を自分で開いていける時代になったのかなと思います。

世の中でどんどん働き方改革が推進されていく中で、飲食業界が一番乗り遅れています。

要因としては、レストランというビジネスモデル自体が労働時間の短縮が難しいことがあげられますよね。だからこそ、最初から8時間でできる業務を考え、労働環境を変える前提で働き方を構築しないと、この業界の変革は難しいのかと思います。

 

【質問3】DtoCの醍醐味である、一人の思い・哲学を乗せることにチャレンジ

増田:
シェフの課題、一人のシェフとしてどう戦っていくかについてお話しいただきありがとうございます。
田村さんはチーズケーキ事業を通じ、DtoCの醍醐味である、一人の思い・哲学を乗せることにチャレンジされています。こちらはいかがでしょうか。

https://mr-cheesecake.com/より引用

田村:
今までのお客さんと僕の関係性ですと、お客さんは僕のレストランに料理を食べに行かなくてはならず、一回の体験費用もかなりかかっていました。そのため、僕のつくったものに触れるまでのハードルが高く、その上費用面からお客さんの思考にフィルターがかかりやすかったと考えています。

その反面、お菓子はそのハードルが下がることがメリットです。またプラス面として、日本に同時配送できるため、同時に多くの人に体験をお届けすることが可能です。更に、SNSでフィードバックやお礼がもらえることで、今まで可視化できなかったファンや商品に対する声を自然と拾えるようになりました。それがよりモチベーションに繋がり、新商品のヒントにもなっています。

配送の事例についてご紹介します。販売当初は、銀色の保冷バックで配送していたのですが、事業としてスタートする際に、箱とデザインを考えパッケージを切り替えました。ところがリピーターの方から、箱はいらないから簡易的に安くしてほしい、という声が届いたのです。そこで2019年8月1日からは、保冷バックでの販売も再開しました。

こんなふうにお客さんの声が僕の元に届かなければ、そのままで売っていたと思いますし、そのことで購入頻度が減っていたかもしれません。

一つのプロダクトでやっている僕にとって、ダイレクトにユーザーの声を拾えることは、非常にありがたいですね。このおかげで、シェフとお客さんの間で今までにないコミュニケーションが描けているなと思っています。

【質問4】言うだけではなく、やってみることは難しい。更にそれを続けることはもっと難しい。その過程で、どのように壁を乗り越えてきたか。

増田:
田村さんは、クラウドファウンテング(※注3)を介して2000万ほどの資金調達にも成功されていますね。クラウドファウンテングもそうですが「こうやったらいい」と提言する人は世の中多いですが、それを実行し、継続させている人はとても少ないと思います。
田村さんは継続するなかで、どのように壁を乗り越えてきましたか。

※注3:クラウドファウンテング…不特定多数の人が通常インターネット経由で他の人々や組織に財源の提供や協力などを行うことを指す。群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語。

田村:
もともと僕は単純に料理を作る仕事をしてきたため、料理を美味しく作る以外のことはわかりませんでした。

そのため、何が事業のボトルネックになるのか、事業拡大に必要なものは何なのかは見えていませんでした。そこで元々数字が好きなこともあり、まずは自分で勉強しながら、経営上の数字のバランスを整えることを考えました。ただ、売上が伸びていく中で、さらなる拡大に向けた道筋が描けない自分がいました。

この状況を変えるべく、Twitterを通じて僕を知ってくれた人にパートナーとなってもらい、一緒に事業を作りました。経営が分かる人、組織を管理していく人がパートナーとなってくれたので、僕はいいものをより良い状態でどうやってお客様に届けるかに専念できるようになりました。つまり、僕の一番いい能力を活かせる環境を整えることできたのです。

田村:
先程も少し言いましたが、僕は作り手としてモノを作るのは大事だけれど、一番大切なことはどう体験してもらうかを考えることだと思います。そこを考える料理人が増えると、フードテック、完全栄養食など食の分野にシェフの力を生かしていけると思うんです。

料理人は、食、味のプロであり、食材調達方法を知り、製造のオペレーションをどう組むかを今まで必死で取り組んできています。一般企業でフードテックに取り組む人の話を聞くと、そうして忙しい中で効率化を図ってきた人がいないと、事業が頓挫してしまうという話も聞きます。
このような考え方のシェフが増えると日本のフードテック業界は盛り上がってくるなと思います。

【質問5】シェフがフードテック事業と上手く組んでいくには?

増田:
フードテックというと、ハード・ソフトウェアに注目が集まりがちですが、モノを食べる瞬間の味が、忘れがちになったり、ないがしろになってしまうこともあります。
食べる瞬間の味にこだわる料理人とハード・ソフトウェアの側に立っているスタートアップや大企業とは、どうすれば上手くコラボレートできると思いますか?

田村:
まず第一は、料理する側の意識改革だと思います。14~16時間働く中で、ただ日々の業務に追われるのではなく、どうすれば現状のクオリティを維持しつつ、時短できるのかを考えなくてはいけないと思います。

また、ハード・ソフトウェアを作るテクノロジーサイドの方が、どのようにシェフにコンタクトを取ればいいかわからないと思います。連絡しても、その時点で門前払いというケースも多いのではないでしょうか。シェフは会いに行くことが好きじゃない人も多いのは事実です。

ただ、僕が独立してからのここ1年、飲食業界サイドも考えが変わってきたように思います。フードテックに興味持っている人は増えているのではとも思いますね。

人と人をつなぐプラットフォームができるとフードテックがスピード感を盛って発達していくのではないかと思います。

田村:日本にとって食は重要なファクトですが、今後生産者が高齢化で減って、料理をしない人が増え、簡素化したものを使う人が多くなると、無形文化の存続すら危ぶまれるとも思っています。極端な話ですが、100年後には日本食=コンビニの商品になるのではと危惧しているんです。

日本には四季があり、旬の素材があり、生産者がいる技術力が世界に誇るものだと思っています。これをどう守っていくかもしくはどう今の時代にあったた新しいカタチにしていくかを、生産者に近い料理人がもっと意識をしていかないと取り返しのつかないことになってしまうと思っています。

僕は単純にチーズケーキを届けたいというわけではなく、技術の持った職人とテクノロジーとかけ合わさることで世界が広がることを体現していきたいと思っています。

【質問6】フレーバーのこだわりについて

増田:
田村さんはフレーバーに知見がおありだと思います。僕も田村さんの料理を頂いた際に、今までに食べたことがないけれどどこか懐かしい、そんな印象を受けました。フレーバーについてのこだわりについて教えて下さい。

田村:
僕は料理を通じて、ノスタルジー(懐かしさ)をどう感じてもらうかを大事にしています。

実は美味しさは、舌で感じるのではなく、記憶で感じていると思っています。
唯一脳にアクションできる五感が嗅覚なのですが、この嗅覚を刺激することで、記憶を刺激し、今まで食べた美味しかった食べ物を連想してもらうことを意識しています。こうすることで美味しさのハードルが下がり、美味しいと感じてもらいやすい環境を作ることができます。

例えば、にんにくを香ばしく焼いた香り、屋台のイカ焼きの醤油を焦がした香りなど反射的に美味しそうだなと思いますよね。この美味しそうな香りをどれだけお皿に再現できるかするかが大事だと思います。
料理は、食べる前の段階、お皿に乗せテーブルに提供する香りから始まります。ライブキッチンであれば、音も香りも大切です。どうやってそれをゲストに感じさせるかも味に関わってきます。

例えば、春菊は、春菊という香り単体でできているのではなく、ういきょう、ゆず、ディル、大葉、アーモンドの香り合わさって、香りができています。逆に今上げた食材は、春菊とすべて相性がいいということです。

これらを同時に口に含んだ際に、春菊の香りもより膨らむし、他の食材の香りも際立ちます。それぞれの食材ごとに相性がいいものと組み合わせて、どのように美味しさに落とし込むかをいつも意識しています。
ただそれが、独りよがりにならないように、食べる方の美味しい記憶に結びつけるかが大切です。

【質問7】これからの挑戦について

増田:
最後に、今後の挑戦について教えて下さい。

田村:
僕は、チーズケーキを世界に持っていきたいと思っています。
同時に伝統工芸をどうにかできないかなと思っています。日本の技術力がわかるものを一緒に商品と届けることでまた違う支店で日本の技術力を知ってもらうきっかけとなればいいなと思います。

増田:ありがとうございました。

編集後記

このイベントのテーマである、フードテック。フードテックと料理人は、食という共通項を持つのに、近いようでとても遠いと編集部では考えている。
この問題に対し、田村氏は「シェフ側がどう食を体験してもらうかを考えること」が解決の糸口になると考えている。田村氏のアドバイスを元に、普段の営業をちょっとずらした視点で見てみると、面白い発見があるかもしれない。発見が重なることで、店舗でも十分に活かせるアイディアに昇華するのではないだろうか。

文・編集:菊地由華
写真:長坂佳宣