2019.12.26

究極の地産地消レストランから学ぶ日本の海洋資源の守り方丨Single Thread(シングル スレッド)Kyle Connaughton(カイル・コノートン)

カルフォルニアにある、日本の「おもてなし」の精神を受け継ぐ、ファーム トゥ テーブル(地産地消)レストラン「Single Thread Farm – Restaurant – Inn(シングル スレッド ファーム – レストラン – イン)」。ここには、はるばる世界中から、もちろん日本からも多くのゲストが駆けつけます。

オーナーシェフであるKyle Connaughton(カイル・コノートン)氏は、北海道のザ・ウィンザーホテル洞爺リゾート&スパで2年近くシェフとして勤めた経験もおありで、今でも日本との交流は深く、日本からの食材仕入れにとどまらず、日本人の料理人との友好関係も大切にされています。

シェフとして日本の食文化をよく知り、カルフォルニアでサステナブルなレストランを実践する氏に、日本のシェフへのメッセージをお話いただきました。

■日本の地域のサスティナビリティは、情報化されていない

——ルレ・エ・シャトーのマニフェストである「vision for the sea」について、オリビエさんから発表がありました。今日は、日本をよく知っているカイルさんが思う、日本らしいサスティナビリティについてご意見をお聞かせいただけますでしょうか。

コノートン氏:
日本は海に囲まれていると同時に、野菜にしても、海産物にしても、それぞれ一つ一つの地域が特徴的で特産品があります。例えばアワビや昆布にしてもそうですが、どこの産地のものかは昔から大事な情報で、この産地であればどの食材が一番良いのか、消費者も料理人も知りたがっています。
ただ、私の考えでは、産地を知ることも大事である一方、その地域の環境と食材との関係性(地域のサステイナビリティ)もぜひ消費者に知ってもらいたいと思っています。

食の持続可能性を検討する上で、消費量も避けて通れない課題の一つです。
昔と比べると人口が増えたこともそうですが、技術の発展も持続可能な食環境を脅かしています。

Single Thread(シングル スレッド)Kyle Connaughton(カイル・コノートン)
Kyle Connaughton(カイル・コノートン)/Single Thread(シングル スレッド)
カルフォルニア出身。9歳の時の夕食で食べたお寿司をきっかけに美食の世界に入った。高校生で日本料理店で弟子入りし、北海道のザ・ウィンザーホテル洞爺リゾート&スパで2年近くシェフとして務めた後、イギリスミシュラン三つ星レストラン「ファット・ダック」の開発部門でヘッドシェフを務める。現在はサンフランシスコの北にあるソノマ郡にて「シングル スレッド」を営む。ミシュランの三つ星受賞以外にもリーダーズチョイスベストホテルレストラントップ10 に入るなど様々な注目を集めている。

コノートン氏:
例えば、昔は冷凍技術がなく、情報もない中で、ローカルでものを流通させることで事足りていたと思います。現代では物流も保存技術も発達し、利益のために食材を大量に貯蓄し、世界中に物を売ることができるので、どこの産地のものは良くて、どこのものは良くないといった情報で世の中は混乱していると思います。

例えば、うちの店では海産物はカルフォルニア沿岸の、しかも価値観を共有できる漁師さんが捕ったものを使っています。
あとは豊洲の仲買人からの仕入れ、この2つで賄っています。豊洲からは毎日、日本語でLINEで連絡が来ますので、英語と日本語でやり取りしています。

——LINEで毎日ですか。どんなやり取りをされているか見せていただけますか。

豊洲市場の仲買人とのやり取りしたスマホのLINE画面写真

コノートン氏:
このように魚の名前、場所、値段の情報が来ます。
どんな情報を得るのが大変難しいかというと、魚とサスティナブルの関係についての情報です。

サンタバーバラから北カルフォルニアの魚は、地元の漁師さんとの繋がりがあるため、魚の捕獲地や旬であるかどうかの情報はすぐわかります。でも豊洲の魚に関しては、どんな魚か、どこから来たか、どのぐらいの値段か、それ以上の情報は得られない。

今は捕っていい時期のものなのか、そうではないのかはわからないのです。

仲買人はサスティナビリティの問題について知りませんので、私の求めている回答は持っていないんです。だから私は2ヶ月に1度豊洲に足を運んでいます。直接自分の目で見て、調査して学んでいかないといけないのです。

■ガストロノミーのシェフたちが消費者の認識を改善していくためにできること

——ここまでやっているシェフは、日本のシェフでもそう多くはないと思います。
日本は今まで魚を大量に消費するあまり、魚は身近な存在すぎて、資源の枯渇問題に直面していることに気づけなかったと思います。

コノートン氏:
これは大きな問題ですよね。ただ、日本における魚のポジティブな側面もお話したいと思います。
日本は、今も天然だけに頼らず養殖でシマアジ、カンパチなどを育てています。例えば、私に送られてくる豊洲の魚情報に養殖のものもあります。一方で、日本では長年天然モノが最も品質がいい、一番だ、というイメージが有りました。

これは我々にとってのチャレンジの一環だと思います。
なぜなら食のサスティナブルは、もしかしたら「低品質」と思われているもの(養殖のもの)をあえて選ぶことを意味しているからです。大事なのは、ガストロノミーのシェフたちが、お客さんを通じて消費者の認識を改善していくための選択肢を、お店で提供することです。天然は少し良いに違いないけれど、養殖もいいということ、取捨選択をしなくてはいけないということを伝えるのです。

それには、私たちが今求めていることがベストなのか、環境にとってより良い選択肢を考えていきたいのかどうか、を問う必要があります。私たちのお店に来るお客さんは、お金を払ってトップクオリティを求めますよね、だからそれ以外のことには消極的です。ただ、私たちこそが消費者に正しい知識を教授するべきなんです。今日のことだけを考えるのではなく、長期間を見据えたより良い選択肢は何なのか。我々シェフたちが、消費者に向けて選択を作っていく必要があるのです。

料理デモを行うKyle Connaughton(カイル・コノートン)

コノートン氏:
他にも、使用する魚の種類を多彩にすることもサスティナブルな活動に繋がります。
みんなハイクラスの似たような魚を追い求めますよね。そこで、新たな魚種を料理に取り入れるのもシェフの責任だと感じています。
例えばタコがとてもいい例ですが、今はどこの地域でも食べますが、10年前のアメリカでは全く知られていませんでした。

三つ星レストランは、飲食産業全体からすると本当に小さなものです。
ただ、他のシェフたちは僕らの日々の動向をとても気にしていて、僕らはものすごく大きな影響を与える可能性があるのです。売上や提供する料理の量は飲食産業内では少ないけれど、インパクトは絶大です。サスティナビリティやトレサビリティに基づいたものを私たちが使えば、みんなそれを試します。
逆に言うと、天然物やトロ、イクラを使いすぎないといったことに気をつけています。トップは影響力があるから、配慮が必要です。

カイルコーノートンシェフの料理:大阪産鯵のグリーンティと紫蘇塩風味ヤング大根とバチェローズバトン

大阪産鯵のグリーンティと紫蘇塩風味 ヤング大根とバチェローズバトン

■作業の「なぜ」を伝える

——カイルさんの発信はとてもナチュラルでいいですね。
日本は、そういった発信をすることが苦手なシェフが多いです。普段はカイルさんはどんなことに気をつけていますか?

コノートン氏:
シェフはある種先生ですよね。料理を作ることだけ、スキルやテクニックだけではなく、信念や哲学はみんなに伝える必要があります。
料理の作り方は見せることができますが、「なぜ」の部分も伝えていかないとだめだと思います。

——日本の飲食業界には見て習う文化があり、言葉で伝えることがまだまだ足りないという面もあるのかもしれませんね。

コノートン氏:
見ることも大事なんですよ。ただ実践と見ることを繰り返し繰り返ししないとだめですね。同時に、なんでこうするのかの理由も理解しないとだめですよね。

例えば、僕のお鮨の先生は米洗を6回します。理由を聞きましたが、師匠の師匠がそうしていたから、という答えが返ってきました。そう言われてしまうと、もう聞けないですよね。
水を変える回数が及ぼす作用が科学的にどうなっているのか、僕自身は興味があります。
ただ作業するのではなく、高いレベルのものをつくるのにどうすればいいのか、なぜそうするのかを知りたいのです。
そこを知るには尋ねる必要がありますし、説明をしていかなくてはいけません。ただし、見て練習して、を繰り返すことも大事です。

Single Thread(シングル スレッド)Kyle Connaughton(カイル・コノートン)の写真

■海外のシェフに「日本の料理とはなにか」を教えてくれる存在への期待

——日本で注目しているシェフはいますか?

コノートン氏:
「L’Effervescence(レフェルヴェソンス)」の 生江史伸さんですね。
ただフレンチを作るということではなく、日本全体や日本の食材について考えています。優しさに溢れていますよね。彼はヨーロッパやアメリカの料理文化をたくさん吸収しているが、彼の料理には日本に根ざした何かを感じ取れます。

彼は人とモノの繋がりや関連性を理解した上で、何を、なぜするかに対して強い哲学があります。彼は僕にとっては唯一無二な存在ですよ。

あとは「NARISAWA」の成澤由浩さんですね。2019年7月にBASQUE CULINARY CENTER (バスク・クリナリー・センター)がサンフランシスコで開催したプロジェクト(https://sanfrancisco2019.bculinary.com)で、私と彼は世界各国から集められた審査員シェフとして参加しました。バスク・クリナリー・センター側から色々とプロジェクトごとに提案があり、優秀賞を決める国際会議で、成澤さん含め各国のシェフと2日以上共に会議しました。
彼も深く考えていますし、個々人を尊重し主張できるようにもしてくれましたよね。あとは影響力もある。日本料理や外部への知識も豊富ですし、日本国内の問題もよくわかっている。

このお二人はとても個性的で面白いと思います。
彼らは、日本のことや日本料理をよくわかっている一般的な日本料理人とはちょっと違います。海外にも発信力があり、われわれに日本の料理とは何かを教えてくれる方々です。

Single Thread(シングル スレッド)Kyle Connaughton(カイル・コノートン)が微笑む写真

コノートン氏:
外国のシェフにとって、日本の料理を理解するのは、とてもハードルの高いことです。例えば、高級懐石レストランではインターネットでの予約をなかなか受付けないし、海外からのお客さんの受け入れに消極的ですよね。
しかし実際には、こういった高級和食レストランのシェフたちはみんなフレンドリーな方々です。

例えば、菊乃井 三代目主人の村田吉弘さんはとても優しく博識な方です。奈良で一緒に仕事をしたことがありますが、まるでみんなのおじいちゃんのように和食や箸についてなど教えようとしてくれました。
瓢亭の高橋さんも、カルフォルニアに来て僕の料理を食べに来てくれた際に、彼らが何をしているのか、和食や日本の食材についての知識を我々に教授することが楽しそうだと感じました。

表現し伝えることに熱意を持っているシェフはいると思います。ただ、まだシェフを育てる方法が違うだけですよ。

>>関連記事:ルレ・エ・シャトー 海洋保護に向けた「vision for the sea」発表レポート[前編]

>>関連記事:ルレ・エ・シャトー 海洋保護に向けた「vision for the sea」発表レポート[後編]

>>関連記事:日本の食におけるサスティナブルのあり方丨ルレ・エ・シャトー副会長 Olivier Roellinger(オリヴィエ・ローランジェ)


編集後記

「お客様を通じて、消費者の海洋資源に対する意識改革を」。そう話す氏は、自分の役割について、強い責任感を持っている。海外では、トップシェフたちはレストランを経営・運営するだけではなく、食にまつわるメッセージを社会に伝える役割を担っている場合が多くある。
日本でも今後は、料理人が同様の役割を求められていく。お客様至上主義であった今までとは違い、これからのお客様とシェフの関係は、この海を守るために手を取りあう共同者なのだ。シェフたちは、お客様に生産者や生産元について発信し、食のサスティナブルを共に実行し、検証する。そんな循環が描ければと思う。
ルレ・エ・シャトー日本支部副会長であり、神戸北野ホテルの総支配人・総料理長の山口浩氏がこう言う。「自然は私たちの国のアイデンティティの形成に一役を担っており、その自然に不可欠な要素である海は、世界で最も洗練されている日本の料理文化の基盤となっています。海はその奥深さ、幅広さ、多様性ゆえに、多くの地域社会に置いて中心的な役割を果たしています。」
シェフ同士の団結と発信を持てば、私たちの海は繋がっていること、私たちの生活は海に支えられていることを、多くの消費者が思い出せるのではないだろうか。

(聞き手・文:菊地由華、写真:松井 泰憲)