2020.01.28

「器」が紡ぐエシカル消費『器循環プロジェクト』とは丨ビーニ中本敬介×アンフロレッサンス廣田友香

2019年秋に京都・山科の『清水焼きの郷まつり』で同時開催された『トキノハ エシカル マルシェ』。そのなかで陶芸家であるトキノハ・清水大介さんを中心に、器のつくり手として循環の問題に目を向けた『器循環プロジェクト』が行われました。

「器を中心に人と人、そして、人と社会を繋いでいく」というコンセプトのもと、長くシェフに愛用されていた器、料理に合わなくなってしまった器、使わないけれど愛着があるから捨てたくはない器など、レストランで利用されなくなった器をシェフたちが提供し、「福袋」にして一般の来場者に販売するというものです。

この『器の循環プロジェクト』について、発起人であるレストラン「Bini(ビーニ)」中本敬介シェフ、「花と植物のある風景」をテーマに活動する「INFLORESCENCE(アンフロレッサンス)」廣田友香さんにお話を伺いました。

Biniオーナーシェフ中本敬介とINFLORESCENCE廣田友香の写真

思い入れがあるものを簡単に売ってしまうのは、悲しい

編集部:今日は『器循環プロジェクト』やお二方の器に対しての思いについてお聞きしたいと思います。このプロジェクトの発起人が中本さんだということですが、きっかけを聞かせてください。

中本:僕自身、いろいろな器を使いたいのですが、お店に器を収納するスペースがなくて。使わなくなった器を処分して新しいものを買えばいいのですが、思い入れがあるので、簡単にリサイクルショップに売ってしまうのも悲しい。「いらなくなった器をうまく再利用して、また新しいものを買えるようになればいいな」とトキノハの清水さん(※)と話をしていたんです。その後、清水さんが廣田さんにお声がけをしてくださったことを機に、廣田さんが統括としてアイディアを膨らませてくださり、実現に至りました。

※1:清水大介/陶芸家
”日常使いの清水焼”をコンセプトにしたブランド「トキノハ」を立ち上げ、2015年にカフェ/陶芸体験/ショップが一体となった「HOTOKI」を開業。2019年に料理人のためのオーダーメイドブランド「素-siro-」を立ちあげる。>>清水さんの対談インタビューはこちら

Biniオーナーシェフ中本敬介の写真
中本敬介/Bini オーナーシェフ

広島県出身。 4年半のイタリア修業後、スイスのサンクトガレン「Segreto」の開業に伴い8年間シェフを勤め帰国。2010年より京都にて「Bini(ビーニ)
」を開店。2017年に現在の京都丸太町へ移転。妻の理恵子さんと共に日本のイタリアンを表現、日本全国のシェフ・料理人から支持を受ける。ミシュラン2019にて一つ星を獲得。

編集部:「使わなくなった器がもったいない」ということですね。

中本:そうですね。最初に何げなく清水さんにアイディアをお話しました。器の原料もどんどん少なくなり、器も作りにくくなっているなか、簡単に捨ててしまっていいのかなと。

編集部:統括を廣田さんが担われたのは、どういう経緯でしょうか?

廣田:清水さんとは1年くらい前からの知り合いなのですが、清水さんから「中本シェフから、器を捨てるのがもったいないという話があったんです。どう思いますか?」とご相談いただいたのが始まりです。清水さんはフットワークが軽くて、考え方も柔軟。お話からもすごく刺激を受け、尊敬しています。その清水さんから「何かできませんか」とお話をいただき、何ができるか考えますとお答えしたのが始まりです。

INFLORESCENCE廣田友香の写真廣田友香/INFRORESANCE 
レストラン予約サイトの創業メンバー、Web会社にて新規事業の立ち上げを経験。2016年に夫の晴樹さんとINFLORESCENCE(アンフロレッサンス)を設立。『 花と植物のある風景 』をテーマにレストランのトータルプロデュース、空間プロデュースや装飾などを行う。

編集部:清水さんと何かやったら面白いのではないかという思いもあってでしょうか。

廣田:それはあります。そして「実は発起人がいます」と中本シェフのお名前をお聞きしました。一度Biniさんへはお食事に伺っていましたので、あの優しいシェフだ!とすぐ頭に思い浮び、何かできないかなと考え始めました。おそらくこれが2019年の5月か6月くらいですね。

料理人向け器についての勉強会とプロジェクトを連動

編集部:半年でプロジェクトが形になるのは、スピード感があっていいですね。その後、どんな感じで具体的に進んだのでしょう?

廣田:まずは「利用されなくなった器をどうするか」から議論しました。

あとは、器の原料となる土が非常に少なくなっていて、後々陶芸業界では問題になると私も伺っていましたので、このアクションが陶芸業界の課題解決にもつながればいいなと思いました。ただ、いきなり「使わない器」の問題から「土不足」の解決まで飛躍して考えるのは難しいなと。そこでまずはレストランの方に意見を聞こうと思いました。

Bini看板

廣田:そのタイミングで中本さんから、自分の店舗で飲食店に務める方向けに、器の勉強会を開催したいとお話がありましたので、その勉強会のあとにアンケートを取ることにしました。この勉強会をきっかけにいろんなシェフの方と知り合い、「器がレストランに眠っているか」の調査を具体的に行うことができました。

まず勉強会では、利用されなくなった器のプロジェクトの大きな趣旨をご説明しました。続いて、料理人さんからいらない器の委託を受け、それを販売し、その売上を料理人さんに還元するというプロジェクトの流れについてお話し、アンケート回答のご協力を仰ぎました。

器の循環プロジェクトの流れ図式プロジェクトの流れ 提供/INFLORESCENCE

廣田:アンケートでは、参加した店舗の半分くらいの方から「興味がある」という回答をいただきました。その後、こちらからコンタクトを取らせていただき、大体その半分くらいのレストランさんから「余っている器があります」と直接お聞きすることができました。最終的にご意見頂いた20店舗の中で約4分の1のお店から器をご提供いただいたので、今後もこの取組へのニーズがあるのではないかという気がしています。

編集部:これは、タンスの中で眠っている服をリサイクルショップに売る、フリマに出すという行動と同じですね。ただ、業務用の器ではまだそのサイクルが整っていないと。

INFLORESCENCE廣田友香の写真

廣田:はい。H &MやZARA、ユニクロ等は着なくなった洋服を回収したり、店頭には回収BOXも設置されたりしています。近年、サスティナブルや、環境にやさしいといったことが当たり前のように言われているので、この『器循環プロジェクト』を考えるにあたっては、ファッション業界からヒントを得ているというのも若干あります。

自分の疑問は、みんなの疑問

編集部:中本さんは、器に関する勉強会を企画したきっかけは何だったのでしょうか?

中本:清水さんは陶器と磁器の両方を焼かれるので、料理に対してメリットがあるのはどちらなのか、他にも金継ぎのやり方など、僕自身が清水さんに聞きたい器への疑問があったんです。ということは同じ疑問を持っている料理人は多いなと思ったので、清水さんに勉強会を依頼しました。料理の講習会に関しては、京都木津の「Ristorante nakamoto(リストランテナカモト)」の仲本シェフ主催で定期的に行っていたのですが、器に関しては1回もやっていなかったことも開催理由の一つです。あとは清水さんの器は、デザインだけじゃなくて、機能性もすごくいい。彼の器の周知もしたくて、勉強会を企画しました。その際に、廣田さんと清水さんから、本プロジェクトの意見を料理人さんに聞きたいという話もあり、今回一気に勉強会が実現化しました。

陶芸家清水氏の器写真

編集部:実際、勉強会の反響はどうでしたか?

中本:参加者の方は「余りにも知らないことが多くて、何を聞けばいいか分からなかった」とおっしゃる方が多くて。ただ、僕が疑問に思っていたことをみんなで聞くことができたし、それらは皆さんと共通の疑問だったと思います。本編が充実していたので、十分知れたのかなとも思いましたね。

プロジェクト成功の秘訣は、協働者が「同じ温度感」であること

編集部:最終的に『トキノハ エシカル マルシェ』内での『器循環プロジェクト』には4店舗(Bini、cenciRistorante nakamoto、猫町)が参加されましたが、各店舗の方からお話を聞かれるなかで、活動のヒントはありましたか?

器の循環プロジェクトに出品された器の写真店舗で眠っていた器たち

廣田:
ご協力いただいた4店舗さんは、器に関心が高い、という共通点があります。それだけに、一つ一つの器に対して、丁寧に向き合っている印象がありました。今回よかったのは、私たちプロジェクトメンバーの「器の循環をしてみよう」という想いと、シェフの方が抱く「好きな器だから捨てるのは惜しい。今の店の料理には合わないから誰かに使い続けてほしい」という想いの温度感が、限りなく同じであったと感じたことです。何か新しいことを始める時に温度感が違うと、背景を説明してもなかなか共感していただけない部分があると思うのですが、その相違があまりなかったため、立ち上げしやすかったです。中本シェフ以外はほとんど接点がありませんでしたが、器を提供される時に皆様の器への愛着、愛情に感動しました。

購買行動が世の中に役立っていることに気づいてもらう

編集部:4店舗から器を提供してもらって、それを販売するという仕組みはどのように考えられましたか?

廣田:時期的には『清水焼の郷まつり』で何かやるのがいいじゃないかと、プロジェクトメンバーで話しました。

ただ、『清水焼の郷まつり』は、陶芸家さんが新品を出品する場だと思うので、来場されたお客さんにとってリユース品はピンとこない、デメリットだという意見もありました。そこでその点を払しょくするために、買う楽しさを提供したらいいのではないかと発想しました。そこからお正月の福袋にヒントを得て、いろんな種類をミックスしてかわいい風呂敷で包みました。「ただ販売するのではなく、付加価値を加えた上でアプローチをしたい」というのがメンバーの考えでした。

風呂敷で包まれた器の写真提供/INFLORESCENCE

編集部:一番の付加価値というか、買い手のメリットは何だと考えていらっしゃいますか?

廣田:エシカル(倫理的)や、環境にやさしい行動に購買意欲をくっつけてもらうことが、一番の願いではあります。加えて、今回メッセージカードを1枚入れまして、そのメッセージカードを見た方にプロジェクトの趣旨に触れてもらうことも重視しました。なぜこの福袋があるのかという想いを伝えたくて、最初の一文は中本シェフの言葉にしました。これは絶対載せたいと思いました。ただ単に美しい器を買うのではなく、世の中のために還元しているということを買い手の方に感じ取ってもらえたらうれしいなと思いました。まあ…なかなか難しいですけどね(笑)。

器の循環プロジェクトメッセージカード表 器の循環プロジェクトメッセージカード裏提供/INFLORESCENCE

中本:そうですねぇ。難しいですね。

編集部:こんなプロジェクトがあると知ってその意志に触れることから始まるのではないでしょうか。

実際、新品を買いに来たお客さんは福袋を目にされてどんな感じでしたか?

廣田:皆さん面白そうに選んでいらっしゃいました。福袋に包まれた器に驚いて興味を持っていただき、袋の上から触って中身を探ってらっしゃいました(笑)。「これは丸い。これは四角。何これ?」みたいな感じで(笑)。福袋の形とか、ビジュアルで面白そうに選ばれていたので、この形にしてよかったなと思いました。

京都エシカルマルシェ2019の様子清水焼の郷まつり 提供/INFLORESCENCE

編集部:実際、何セットくらい出たんですか?

廣田:30前後、7〜8割ぐらいは売れたようです。

編集部:けっこう売れましたね。中本さんは、ご自身の想いがこれだけ形になったのは、うれしいですよね。

中本:僕が漠然と言ったことを、こうして実現してくださって、感謝するばかりです。

微笑むBiniオーナーシェフ中本敬介の写真

編集部:福袋の利益も、器を提供された皆さんに循環されたそうですね。

廣田:はい。トキノハさんでオーダーした際の割引チケットというような形で、お渡しさせていただきました。

中本:トキノハさんにもメリットがありますね。

編集部:良い循環ですね。今回は一般の消費者に向けて販売されましたが、飲食業者の間で何かするという構想はありますか?

廣田:そういうこともできたらいいなと思いますね。イベントに来てくださったシェフのなかには、自分は買いたいほうだとおっしゃった方もいました。また、お店をオープンする時は、すごくお金がかかってしまうと思うので、買いたいけどコストは抑えたいというシェフの方達にも、メリットはあるかなと。

金継ぎした器を見つめるBiniオーナーシェフ中本敬介の写真

視点をずらすことで、新しく生まれるものがある

編集部:個人的にはこの活動が続いたらいいなと思っていますが、今後の展開はどんな感じで考えておられますか?

廣田:私自身も続けられたらなと思っています。また、トキノハさんと何か新しい取り組みができたらいいなという話もしています。その中で「循環」は一つのテーマです。『器循環プロジェクト』では、小さな規模でPDCAを回して行えたので、良かった点や反省点が見えやすく、よかったです。これをきっかけに新しいことができたらいいなと思っています。

微笑むINFLORESCENCE廣田友香

編集部:今回のお話を最初に知ったときに面白いことを発想されるなと思いましたが、廣田さんのパッションはどこにあるのでしょうか。廣田さんの今後についても教えてください。

廣田:私は元々web業界にいて、レストランのオンライン予約サイトや新規事業や部署の立ち上げを行ってきました。何をやるにしても、ほとんどが手探りの状態でスタートするのですが、そういった目に見えないものを一つずつ形にして仕組みを作ることに、やりがいを感じていました。新しい試みを始めるので、ときには続けることが難しく、苦渋の決断をしなくてはならないこともありました。そういったことも含めて、新しいものをみんなで作っていくことが好きです。このプロジェクトは、飲食業界の方とプロジェクトメンバーとのコミュニケーションで成り立ったものですが、私自身が今回行ったことは、web業界にいた仕事と、ほとんど相違がなかったと思っています。また、予約サイトの仕事ではたくさんのシェフの方達と知り合いました。シェフは皆様個性的で面白い方ばかりで、学ばせていただいたことが多くありましたので、今回ご相談いただけたことは、嬉しかったです。なので、今後も「こんなことやりたいけど、どうかな?」みたいなきっかけがあれば、色々な分野でチャレンジしていきたいと思っています。

編集部:『器循環プロジェクト』のように、シェフの方や食に向き合っている方が消費者に向かってアイディア発信する場が増えていくといいなと思います。ただ、シェフ単体で推進することはそう簡単ではないですよね。お店の運営とはまた違い、シェフというお仕事とは違う脳を使うので、こういった違う業態の方とプロジェクト推進できるのは理想ですね。

中本:そうなんです。僕たちだけはできなかったことです。

Biniオーナーシェフ中本敬介の写真

廣田:あとは、今回の器のプロジェクトを通して、一つの業界ではなく、いろんな業界の方とコラボーレションしていきたいなと思いました。

日本市場は成熟しているため新しいものが出づらい環境かもしれませんが、「ちょっとずらし」にヒントがあるのではないかと思っています。ちょっとした視点や着眼点をずらすことで、今までにない新しいものができると思うので、これからもそういう活動をしていきたいなと思っています。

>>関連記事はこちら:料理人と作家が一緒に器を作る理由とは丨リストランテナカモト仲本 章宏×陶芸家 清水大介


編集後記

以前「トキノハ」の陶芸家清水さんへの取材時に、使われなくなった器は、最後は産業廃棄物となることを知った。器は土には返らない。一方で良き使い手に巡り会えれば、時代を越えて人の手を渡り変わる時代の食生活を彩る存在ともなりうる。

中小企業庁によると、1年間飲食店は開業が約9.7%、廃業が約6.5%。これは1年間で飲食店10軒に1軒は新規開店し、一方15~16軒に1軒は廃業しているという換算になる。そしてどの業種よりも開業率・廃業率が高い業種(※1)でもある。高い廃業率は、同時に中古レストラン用品市場が一定存在することを意味する。

そして今回の取材では、営業中の店舗でも、使わなくなった器を持て余しているという事実がわかった。こうなると飲食店の中古食器市場は、廃業店舗のものにとどまらない。

一方で、それを購入したいというニーズがある。店舗側は店を運営しながら、追加の器に利潤を投ずることは容易な判断ではない。ただ、器が店のイメージの一部を担っていることは誰しも理解しており、店側は新たな器の情報は常に仕入れ、購入を絶えず検討している。そして今回販売した一般消費者側には、古くから器のリユースは身近な存在である。今回のような社会的な意義が見えれば、店舗側にも一般側にも、支援したい層は増えていきそうだ。

人や社会、環境に配慮した消費行動をエシカル(倫理的)消費と言う。近い将来は各企業、そして飲食店も、循環型社会の一員としての組織運営を求められる。ただ「べき論」で物事が進むと、どこかで歪みが出てしまう。ここには、廣田さんがいう楽しみや喜びが必要だ。知らない人・社会に貢献する喜び、消費の根源である楽しみとエシカルを結びつけることが、循環型の消費に取り組むコツなのだろう。今回のプロジェクトはその良い事例に違いない。

※1:飲食店の開業率・廃業率推移
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H29/PDF/chusho/08Hakusyo_fuzokutoukei_web.pdf#page=29


Bini(ビーニ)

■ アクセス 京都市中京区東洞院通丸太町下る445-1

■ お問い合わせ 075-203-6668

■ 営業時間 【水〜日】ランチ 12:00 ~ 15:00

【火〜隔週日曜日】ディナー 18:00 ~ 23:00

■ 定休日 月曜日・隔週日曜日のディナー

INFLORESCENCE

■Instagram  https://www.instagram.com/inflorescence_jp/

 

(聞き手・編集:菊地 由華、書き手:岩本 和子、写真:山崎 裕貴)