老舗の精進料理店を率いる、フレンチ畑出身の熱き和食料理人

精進料理 醍醐
野村 祐介

精進料理 醍醐 まかない

■精進料理の本質は「お客様のことをどれだけ考え喜ばせることができるか」

ところで、︎精進料理とはどういった料理のことを指すのでしょうか?

野村氏:
精進料理とは?という事を細かく説明するのは、あまりに難しいので割愛しますが、大乗の教えにある「殺生しない」と言う教えや、南伝に伝わる「無駄をしない」等の教えを踏まえ、食事を興する方への思いやりを持ち、掛かる手間暇をいかに前向きに取り組むかが根本にあると思います。その上で、日本の精進料理は大きく2つに別れ、一汁三菜を基本とし、寺の門前で興される門前型の精進料理と、飛騨高山で発達した、文人墨客をもてなす為に生まれたとされる精進料理。当醍醐は後者に属すると思いますが、もちろん、醍醐はお寺ではないので、仏の教えを説くつもりはないですし、お客様が修業に来る場でもありません(笑)。

また精進料理は、菜食料理やベジタリアン料理とも混同されることがありますが、「おもてなし」としての精進料理の本質は「お客様のことをいかに考え喜んでもらえるか」又は「その過程」にあります。精進というくくりの中でいかに固定観念にとらわれず、野菜を凍らしたり、蒸したり、焼いたり、創意工夫をし、結果としてよろこんでもらうために料理できるか。精進ですから肉や魚といった動物性の食材、牛乳などの乳製品は基本的には使いません。ですが、「醍醐」では少々の卵は使います。30人分のてんぷら衣に1個くらいの分量です。鰹出汁も多少使っています。

今回の取材では、ディナー営業開始前のまかないの撮影をさせていただきました。普段から料理長の野村さんもまかないを作るのですか?

野村氏:
料理長にもまかない当番は回ってきます。常日頃から、「ただのまかない」ではなく、昼夜通しで働くスタッフの一食を担う責任を意識して作るようにと料理人には伝えています。気楽な気持ちで作るではなく、お客様の食事のワンシーンをイメージするくらいの気概がほしいですね。というのも、「醍醐」のような非日常型の店舗の場合、来店の理由が初七日の方もいますし、大切な記念日や大事な接待、婚礼のこともあります。そういった場面で食べていただくのですから、料理人は作る料理に対しての責任が常にあるのです。

精進料理 醍醐 まかない

まかないの一皿は、春らしいグリンピースの色鮮やかな緑と旬の山菜が印象的でした。精進料理のお店ですが、洋皿にフランス料理のように盛り付けがされ、食材にお魚を使っていた点も驚きでした。

野村氏:
僕が作ったその一皿でイメージしていたのは「若草」です。冬が終わり、春が来る時期。マッシュポテトで雪をイメージ。そこに菜の花やふきのとうなど春の山菜、春の訪れということで桜鯛、さらに桜の花を添えています。料理に季節感を出すことはとても大切なことですから、盛り付けや色彩について考える訓練を普段からしておくことは不可欠です。

「醍醐」は精進料理の店なので、メイン食材は野菜ですし、予約制ですから残り物もほとんど出ません。まかない当番は、まかない専用の予算範囲内に収まるように工夫して献立を考え、食材も自ら用意して調理することになっています。メニューは精進料理に縛られず、中華でも洋食でも何でもOKです。

まかない作りが学びとチャレンジの機会になっているのですね。

野村氏:
まかないでは肉や魚を積極的に使うようにしています。「醍醐」で精進料理が作れても、肉も魚も扱えない料理人になってしまっては他の店で活躍できませんし、肉魚が扱えないから精進をやっている様では意味がない。また、大抵のお客様は普段から肉も魚も食べている方たちですので、その気持ちもわかった上で精進料理を作るようにしたいからです。

また、よその店に食べに行って美味しかったものは、必ず再現してみろと普段からスタッフには言っています。イタリア料理で食べたトリッパを取り入れて、洋風の盛り付けにチャレンジしたことも。実際に試してみると、これを何かに変えて同じような味や食感が得られないか?精進料理で生かせるとしたら?と発想を広げていくことができますからね。

「醍醐」では、8割で伝統・文化を守ることを重視しつつ、残り2割で新しさを盛り込んでいきたいと考えています。ヌーベル・クイジーヌはやりませんが、いつも同じ献立をやるわけにもいかないですからね。まかないの機会もうまく使いながら色々とチャレンジができたらと思っています。

精進料理 醍醐 野村祐介

■プレッシャーや迷いで立ち止まる時に立ち返る指針と信条

4代目としてのプレッシャーやご苦労もあると思います。大変な時に支えとしているものは何ですか?

野村氏:
30代の僕は、まだまだ若造の店主です。驚かれるかもしれませんが、これまでうちってこういう店だよと明確に言ってくれる人がいなかったので、いつも手探りで進めてきました。行き詰まって、モヤモヤして、これが正解だろうかと悩んで、壁を乗り越える。そんな経験を何度もしています。

自信を失くした時には、お客様からの言葉に助けられたことも多々あります。ある時、僕が悩んでいることを察知されたお客様が食事に連れ出してくださって。その時に「一番の根本は『誰とどこで何をやるか』だけじゃないの?」と言われ、とても楽になったんです。迷った時に気にするのはそれだけ。僕にとって「誰とどこで何をやるか」の「誰」と「どこ」はもう決まっていますから。「うちのスタッフ」と「醍醐」で「最高峰の料理をやる」……だから迷いはない。

料理店によってサービスのスタイルもいろいろあると思います。今でしたら、液体窒素を使ったり、ブラックライトを仕込んでみたり……目新しいものもいろいろありますよね。うちもやるべきかなあと一瞬思ったこともあります。ですが、そんな時に「絶対的な価値と変動的な価値がある。迷った時には普遍的な価値を追求しなければならない。迷っている時はやるべきではない」と助言をもらったことも。ハッとさせられる言葉は、お客様からいただくことも少なくありません。

料理人として普段から大切にしているポリシーや信条はありますか?

野村氏:
僕がやっているのは料理屋。ただ美味しいものを出すことをゴールとするのではなく、お客様に喜んでいただくための場所であるべきだと心得ています。ですから、古いことも新しいこともこだわりなく取り入れますし、美しい所作や教養を身につける必要があるわけです。

また、全ての人に同じ料理とサービスを提供することがベストであるわけがないと思っています。みんなに好かれる料理をやっても熱狂的なファンはできませんからね。「醍醐」は完全個室ですし、お客様一組一組、お一人お一人のことを真摯に考えることが大事だと思っています。

精進料理 醍醐 外観

精進料理 醍醐

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昼の部:11:30〜(最終入店14:00)
夜の部:17:00〜(最終入店20:00)
席数:個室8部屋(1部屋2〜58名)
定休日
年始のみ