「魏の料理」を世界へ広め、歴史にその名を残したい

創作中華 一之船入
魏 禧之

■横浜の中華街で生まれ育ち、11歳で庖丁を持ち始める。

魏さんというと、国内のシェフの中でも珍しい経歴をお持ちですよね。

魏氏:
始まりは、横浜中華街ですね。私が生まれた1958年の横浜中華街は、今のような中華料理店が中心の観光地ではなく、映画館やボウリング場に、アメリカ兵や外国人船員を相手にした外人バーやキャバレーがならぶ歓楽街でした。

私の家は7人兄弟だったので粉ミルクも買えず、母乳代わりにラーメンのスープを飲んで育ちました。父が営んでいた店の2階で寝泊まりし、ご飯にコーンスープをかけて食べるのが最高のごちそう。働かないと食べていけないので兄弟みんなで父の店を手伝って。庖丁を持ち始めたのは11歳。小学5年生の頃です。その後、テレビ番組がきっかけで一気に街自体が観光地へと変貌を遂げ、まわりも自分の家も、豪邸に変わっていきました。

まさに中華街が変わりゆく瞬間を目の当たりにされていたんですね。

魏氏:
同時に、料理もどんどん進化していきました。四川料理の老舗「重慶飯店」や陳健民さんの名が知れ渡るようになったのもその頃です。その昔は麻婆豆腐なんて、醤油と砂糖とうまみ調味料に、鶏ガラスープを入れて作っていた。しかし本来は、ピリリとした辛みや山椒の刺激、酸味や香味など、複雑で深みのある味わいが四川料理の真髄。四川の麻婆豆腐や海老チリは、こういうものなんだ、という認識が浸透していった時でしたね。

私はちょうど中学生の頃で、私が通っていた横濱中華学院の敷地内に『重慶飯店』があったので、玉葱を剥かされたり、野菜の掃除をする代わりに、麻婆豆腐がけご飯などを食べさせもらっていて、どんどん変わりゆく料理を舌で感じていました。

その頃には、もう料理人になることを決めていたんですか?

魏氏:
いえ、実は教員になりたかったんです。体育の先生に憧れて。でも中学2年生頃から、父の店が大繁盛して家に誰もいない毎日が続いて、そこから少し悪い道にそれてしまったんです。喧嘩も強くて、中華街でもちょっと有名だったと思います。でも3~4年そういう時期が続いて、ある日トラックの荷台に悪戯をした時、ついに父から「そこまでするなら、ヤクザの親分になって帰ってこい」と突き放されて。

そこでもうこれ以上はダメだと気付いて、家の手伝いやアルバイトを始めました。今さら教員はもう遅い。「自分はこれから何をするんだろう」と考えた時に、この道しかないと、庖丁1本をもって、料理人への道を志すことを決意しました。

■「煮込みの魏」と呼ばれるに至る技術を継がせてもらった、師との出会い。

魏氏:
そうして18歳の時に、「重慶飯店」の本店で2年ほど働かせてもらった後、六本木の『風林』で上海料理を3年半学びました。ここで出会った、郭 宗欽(かく・そうきん)という料理長が私の師匠です。今はもう亡くなられていますが、上海料理を作らせたらこの人の右に出る者はいない、と言われた方でした。特に煮込みの技術がすばらしく、それを伝授してもらったのは私だけだと思います。

だから、「菊乃井」主人の村田吉弘さんも、「あなたの煮込み料理は最高だ、フカヒレは世界一だ」と絶賛して、私のことを「煮込みの魏」と各方面に紹介してくださる。中華料理の中でも、蒸しと煮込みが高い技術と経験が必要とされるもので、一番高級な分野です。だからその分野で認めてもらえるのはすごく誇らしいことなんです。

まさに中華料理界のスーパースターのような方に、教えをいただくことができたのですね。

魏氏:
その後、実家に戻って調理の勉強をしているうちに、「ホールの勉強もしておきたいな」と。安易な考えですが、厨房もホールも営業もできたら自分で将来店を持てるなと考えたんです。それから当時ホールスタッフというのはとにかく恰好良かった。ヘアスタイルも決まっていて、靴もピカピカ。制服をパリッと着て。料理も作れる、ホールもできるとなれば、もっとモテるようになるんじゃないかって。まあ、全然、モテませんでしたが(笑)。

安易どころか、戦略的に、将来の目標へ向かって走っておられますよね。

魏氏:
目指すものは明確にありました。そうして修業先に選んだのが、横浜中華街の老舗「萬珍楼」です。父も界隈では有名人でしたから、親の七光という目で見られたくなくて、母方の姓に変えて入りました。おかげで随分しごいてもらえました。1日1200名ぐらい来客がある店でしたから、毎日ビールケースを運び続けたり、数百人の下足番を一人でやったり、電球の玉が切れたら変えて、フロアのシャンデリアが汚れたら1日中脚立に乗って磨いて…。入ったばかりの頃は、毎日そんな感じでした。

そこからどんどんのしあがって、まずは本店のホールにいかされ、その後は、青山に出店する時も、飲茶専門店を始める時も、ステーキハウスを始める時も立ちあげを任されるようになり、最後にはトップのポジションにつくことができました。周囲に認められた頃、自分の出自を明かした時は、みんなびっくりしていました。

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