先人が築いてきた文化を次代へ繋ぐためにも、 日本料理の魅力を、日本人が伝えられる土壌を作りたい。

瓢亭
髙橋 義弘

■料理人になる道を、自然と受け入れていた子ども時代

創業450年の歴史がある老舗料亭の15代目を継がれたわけですが、小さい頃から料理人になられることは意識していましたか。

髙橋氏:
意識はしていませんでしたが、小さい頃から店は私の遊び場でした。庭にある池の鯉を見に行って、ぽちゃんと落ちたりして(笑)。調理場だけはいつもぴりっとした雰囲気があって、立ち入りにくかったのを覚えています。父も昔は店で寝泊まりしていたので、店も家もどちらも我が家という感覚で、継ぐ継がないを考える前に自然とこのまま料理人になるのかなぁと。小学校3、4年生ぐらいの作文で、「将来は料理人になる」と既に迷いなく誓っていたみたいです。

自分で料理をし始めたのは、いつ頃ですか?

髙橋氏:
葉っぱの掃除や笹巻寿司を巻くなど簡単な作業を手伝うことはありましたが、その程度でした。ただ、両親が遅くまで働いているので、姉2人と一緒に小腹がすいたら自分で玉子焼きを作って食べていました。大きなホタテの貝殻をフライパン替わりに使って作るんですが、そこにちょっと醤油をたらす。貝殻にはりついた部分をこそげ落として食べるのがまたおいしいんです。

その頃には、料理の楽しさに目覚めていたのかもしれませんね。実は小さい頃好き嫌いが多く、魚の刺身も肉も苦手でかなりの偏食だったのですが、店で失敗した半熟玉子と冷めたお粥だけは好きでよく食べていました。玉子が大好きなのは、昔から変わりませんね。

大学への進学は、ご自身で決められたのでしょうか。

髙橋氏:
そうですね。1度、京都を離れたかったのが大きいです。京都にいると、「瓢亭」のことを知っている方に声をかけられることが多くて…。一度、実家と関係のないところに身を置きたかったんですね。また、京都以外の地方食も知ってみたかったというのもあります。一人暮らしをしたい気持ちもあったので、関東圏を中心に受験して無事東京の大学に進学。料理以外の社会勉強をしたかったので、経営学を専攻しました。

■悩む暇もない忙しさの中で、ひたすら身体にたたき込む日々

卒業後、どのような修業時代を?

髙橋氏:
そのまますぐ父の勧めで、金沢の料亭『懐石 つる幸』で修業を始めました。布団だけ先に送って、買いたての和庖丁とボストンバッグ一つで向かい、着いたその日のうちにすぐ仕事。終わったのは夜中の12時を回っていました。翌日は朝4時からだったので、3時半に調理場入り…。「眠れないかも」と不安をこぼしていたらしいのですが、同室の先輩曰く、秒殺で寝ていたそうです(笑)。

現在「つる幸」はご子息の河田康雄さんが継いでおられますが、当時は、まだ創業者でもある河田三朗氏が主人を務めていた時代でした。仕出しが全盛期の頃で、徹夜の仕事も年間で数回あり、それはそれは忙しい店でした。

ちょうどご子息の康雄氏が、『料理の鉄人』に出演されていた後ぐらいの時期ですね。

髙橋氏:
そうですね。なので、とにかく息つく間もない忙しさというか。今の若い子たちは、悩みすぎて眠れない…なんていう子も多いようですが、当時は悩む余裕なんてないほど、毎日体力的にへとへとで、一日があっという間だったように思いますね。とにかく、考える前に身体にたたき込むという日々でした。

大学を卒業し、それまで本格的な料理はあまり経験がない中で、最初はギャップや迷いはありませんでしたか?

髙橋氏:
はじめはとにかくワケもわかりませんし、人の名前もなかなか覚えられない。当時は、レシピや味付けも「舌で覚えろ」という時代で、メモなんて誰もしません。「メモをとる暇があるなら他のことをしろ」「手を休めるな」なんて言われて、トイレでこっそりメモ書きして、必死で覚えました。

数の多い仕事も、数字で量や比率がきっちり決まっているわけではなく、自分たちで計算してバランスを調整していく感じでした。

しかも、「瓢亭」の息子ということで、“料理ができる”と思われていて。「これ刻んどいて」と言われるのですが、私は和庖丁を持ったのも初めて。柳刃や出刃など色んな種類があるわけですが、どれも初めて使うので、なかなか使いこなせません。

みんなが帰ってからも庖丁を研いで、できないなりに地道に経験を積んで身体に覚えさせました。逆に遅くまで店に残りすぎて、早く帰りなさいと言われたこともよくありましたね。

「つる幸」は、ちょうど各地の名店の跡取りの方が一緒に修業された場だったそうですね。皆さんいずれも名料理人として活躍されておられます。

髙橋氏:
そうですね。京都では、『鮨割烹 なか一』の2代目・須原健太さんや料理旅館『美山荘』の4代目・中東久人さんも一緒でした。

おやっさん(河田三朗氏)には、私自身、料理以外のことも含めて、たくさん教わることがありました。おやっさん自身がお茶人でもあったため、もてなしの基本や茶道具・器についても素養が深まりました。また何より、なかなか料亭が生まれない・続かない時代に、初代で一から店を築かれた方です。ものの考え方などもいろいろな学びがありました。

瓢亭

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