先人が築いてきた文化を次代へ繋ぐためにも、 日本料理の魅力を、日本人が伝えられる土壌を作りたい

瓢亭
髙橋 義弘

瓢亭 髙橋義弘

■茶道を通じて学ぶ、美しい所作や万物に敬意を払う心

スタッフの採用や育成で気をつけているポイントはありますか。

髙橋氏:
もちろん最初から技量のある人材がそろっているというわけではなくて、中には飲み込みが遅い子もいます。でも逆に、ちょっとできない子が入ってくると、不思議なもので、みんなでカバーする動きが生まれてくる。ここまでは彼に任せて、この後の仕事は誰と誰が分担して…とそれぞれの強みを生かし、補い合うチームワークみたいなものが、できあがってくるんです。

能力が足りないから辞めさせる、というのは違うと思うんです。個性をうまく認め、伸ばしていくことが大切。だからうちは、「入りたい」と門をたたいてくれた方は基本的に受け入れています。

お互いをカバーし合える環境や風土ができているんですね。

髙橋氏:
寮生活というのもポイントですね。みんなで一つ屋根の下で寝食をともにしていますから、壁にぶちあたったら、色んな角度から意見をくれたり、フォローをしてくれたりする家族的な関係が育まれているのも良いところかもしれません。

今までの傾向を見ていると、自分の悩みをまわりにさらけだして、素直にアドバイスを聞ける子というのは、ずっと続いている印象がありますね。逆にため込んでしまって、自分の中だけで悩みがループしてしまうと、現状から脱却するのが難しいのでしょうね。

教育で工夫されていることは。

髙橋氏:
父親の代から始めたことですが、お茶の先生にご指導を仰ぎながら、調理場、サービススタッフ、事務も毎月お茶の稽古をしています。1回につき5名が客人として参加し、2、3ヶ月に一度は亭主役もまわってきます。

サービスの方は、お稽古を通じて所作などが学べるのだろうなと想像がつくのですが、調理場の人が習う意味というのは?

髙橋氏:
茶道に触れることで、ひとつの物事にたいして、「なぜこうするのか?」を深く考えられるようになるんです。茶道の所作には、必ず理由があります。例えば茶碗を動かす際も、片手で引きずると行儀が悪いですし、盆や畳を傷つけます。右手で持ち上げて、左手を添える。音を立てずにそっと置くといった手順を大切にします。無駄な動きもなく所作も美しいですし、ものを大切に扱う心が育まれていきますよね。

これを突き詰めていくのが、茶道の世界ですが、料理の仕事にも通じるものです。食材や道具をどこに置けば、無駄のなく効率よく綺麗な仕事ができるか、何をどのように盛ればもっとも美しく見えるのか。熟考しながら料理と向き合えるようになりますので、非常に良い学びだと考えています。

そういう意味で、お茶席の仕出しも、ひとつの勉強の場です。普段店ではサービススタッフが行っているお膳組を自分たちでしますし、色んな方のお宅にお邪魔しますから、身なりも整える必要があります。

最近は、基礎を学ばず新しいことだけを学ぼうとする方も多いですが、「なぜ、それが大事なのか?」の根本をしっかり理解してこそ、応用がきくのだと思いますね。

瓢亭 髙橋義弘

■日本人が、日本料理や文化を語れる世の中になって欲しい

髙橋さん自身43歳でまだ働き盛りですが、10年、20年後の展望は。

髙橋氏:
大変難しいことだと思うのですが、海外への発信よりも、「国内でもっと日本料理を語れる人が多くなれば」ということをずっと考えているんです。

例えば、海外で爆発的に売れた日本酒がありました。当時、ニューヨークで見かけた時は「日本では目にしたことないなぁ」と思っていたのですが、後に日本でも海外のフィルターを通して大ブームになりました。

海外で日本のものが売れて広まると、逆輸入されて日本でも売れるという流れは、とても良いことなのですが、一方で、初めから日本できちんと評価され、消費されるようになるといいなとも思っています。

今、小学校の講習で食育の活動も続けているのですが、出汁のひき方からテイスティングまで体験してもらっています。「うちの家では、これとあれを使って出汁ひくんやで」とか、学校で当たり前のように話題になる時代になればと思っています。昔は乾物屋さんがあって、家庭の味に合わせてブレンドしてもらったりしましたけど、今はそういう姿も見られなくなりました。

今の子どもたちの世代が、次の食文化を作っていくんです。テーブルがあって椅子に座ってナイフとフォークを使って…という食事を続けていたら、なかなか出汁の文化も根付いていかないですよね。肉を大量に食べるようになって来る一方で、お米は全然食べなくなってきていたりします。

2000年かけて作られてきた文化が、どんどん消えていく。気付いた時には遅い、というのはあるかもしれませんね。

髙橋氏:
いろいろな食に関する活動をしていますが、結局「食育」がいちばん大事だと確信しています。学校の講習はもちろん、家庭の場でも教える場を増やした方が良い。その習慣化が、次の文化を創っていくのだと思います。そうしたことの手伝いを、これからも続けていきたいですね。

(聞き手:齋藤 理、文:田中 智子、写真:岡 隆司)

瓢亭 外観

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