先人が築いてきた文化を次代へ繋ぐためにも、 日本料理の魅力を、日本人が伝えられる土壌を作りたい

瓢亭
髙橋 義弘

瓢亭 厨房に立つ髙橋義弘

■修業店と自店のギャップを埋める中で見えてきた「自分の料理」

そうして「つる幸」で3年の修業を終えて、「瓢亭」に戻ってこられたわけですね。

髙橋氏:
仕事を初めて覚えたのが金沢でしたので、帰ってきた時はギャップがありましたね。京都ではこんなにも違うのかと最初は大変でした。でも逆に言えば、「瓢亭の料理」というものを意識し始めたのがその時かもしれません。

比較できたことで、「瓢亭」の料理とはどういうものかを、改めて考えるようになりました。食材はもちろん、味の付け方や盛り付けや色味、うつわの使い方やお客様への提供の仕方も違いますから。

お店の業態によって異なることですが、「瓢亭」では食材の割合や時間が緻密に決まっていて、それこそメモするような内容のものが多くありました。関わる料理人が増えてくると、ポジションが変わったり出入りがあったり色んなことがあるので、人が代わっても作れる仕組みを整えておかないと味が変わってしまうんですよね。

そうした点でも違いがあったんですね。修業先から跡継ぎとして戻られて、元の調理場の方々とのご苦労はなかったのでしょうか?

髙橋氏:
幸いなことに、帰ってきた時の環境に恵まれていました。私が6歳の時から「瓢亭」で働いている調理長がいるのですが、その方がとても柔軟で人当たりが良いのです。あとは同期に近い調理スタッフが一人いたので、魚の水洗いから八寸場のまわし方、玉子の庖丁の入れ方まで、彼らにイチから「瓢亭」の調理スタイルを教えてもらいました。

まさに手習いから学ばれたのですね。「つる幸」でも既にそれなりのポジションだったのでは?

髙橋氏:
ちょうど中堅ぐらいでしたかね。板場の動きが見えてきて、煮方や向板の補助をしている状態でした。気をつけていたのは、「『つる幸』ではこうだった」という主張をあまりしないこと。もちろん話に出すことはありますが、あくまで「瓢亭」のやり方を習おうという姿勢で取り組んでいました。例えば、魚の水洗い一つとっても、手順が少し違うんです。

逆に違いを知れたことで、「瓢亭」の特徴や、なぜうちではそうするのかという理由が理解できたように思います。とても恵まれていました。

瓢亭 髙橋義弘

■伝統を守る15代目の使命…変わらないために変わる

若主人というポジションから、一昨年に社長となられました。「瓢亭」として、脈々と伝統を継いでいくもの、少しずつ変えていくもの、両方あると思いますが、いかがでしょうか?

髙橋氏:
「瓢亭」では、鮪節の出汁をメインで使っていますが、実はそれは親父の代から変えたもの。鮪節だけで出汁をひいてる料亭なんてうちぐらいだと思いますが、それも一つの売りになっていますよね。魚も、味噌漬けや幽庵焼きしかなかった時代に、親父がはじめて味噌幽庵焼きを生み出して。今では一般的になっていますけどね。

料理ってそういう風に自然と変化するものだと思っています。すし酢や炊き味噌の割合など、昔に比べて数字自体が変化しています。

食習慣の変化もありますね。しかしながら、「瓢亭」のように伝統のあるお店ですと、古くからの常連さんなどは味の変化をどう捉えるのでしょう。

髙橋氏:
私たちも急激には変えません。いきなり奇をてらったような料理はすぐに消えてしまうものです。お造りの醤油も、土佐醤油とオリジナルのトマト醤油をご提供していますが、やはりスタンダードな土佐醤油を好まれる方も多いので、新しいものに振り切ってしまわず、お客様ご自身が選択できるようにしています。

ただ今は、例えば伝統的な瓢亭玉子一つとっても、味を“変えない”のが難しいのです。生産者が後継者不足などで、続けられなくなったりして仕入れ先が変わることがあって、その度に新しい生産者を探す。でも自分たちが思っているバランスの玉子はなかなか見つからないんですよね。かといって同じ産地の玉子でも、醤油が合うものもあれば、塩で味を調えたいような玉子もあって。

伝統の味を“変えない”ために、変わった素材をどう調整するか、という苦労があるんですね。

髙橋氏:
野菜なんかもそうで、昔と今じゃ違う。今でこそおいしいと言われている筍なんかも、昔は筋張って食べにくかったんです。生産者の努力があって、それがおいしくて食べやすいものに変化してきています。

例えば、蕪蒸しを作るのにも、昔は蕪(かぶら)をすりおろして熱湯をかけ、アクをとって、ツンとした蕪臭さを抜いてから蕪の生地を作っていました。でも今は、すりおろした蕪自体がおいしいので、その工程は不要だし、せっかくの甘みが台無しになるんです。だから今はあえて、すりおろした蕪の汁までも活用して生地を作っています。

変わらないために、変えている。そんな事柄は、たくさんありますね。

瓢亭 髙橋義弘

■全世代がそろう人材のピラミッド構造が、次代へ技術を継承していく要

お店に伺った印象として、「瓢亭」では調理場、サービススタッフともに、若手からベテランまでピラミッドの層がきちんとできているように見受けられます。

髙橋氏:
今は比較的、若い方だけでまわされているお店が多いですよね。「瓢亭」は、父の代から新卒も継続して採用しているので若手層も厚いですし、経験十数年のベテラン層、経験5、6年の中間層も充実しています。

若い子ばかりで構成すると、“忘れ去られる”技術や心構えも多い。そこで、伝統の技術を先人から受け取り、磨いてきた熟練の人たちがまた、技術を次代へと受け継ぐ役割を果たすんです。

また、若い子にとっても、熟練の調理スタッフのそばで働くことはとても大きな意味がある。若い人同士で刺激し合えるのは当たり前のことですから。横や下を見るのではなく、上を目指して仕事をしないと。

加えて、「瓢亭」は宮内庁や迎賓館、お茶屋さん、お寺さんまで様々なところに仕出しにいっているので、そういう時に熟練者と若手でチームを組ませて、割り振りするんです。

今は、別館のスタッフと合わせて調理場は15名いますが、折り詰めなんかでも何百という数を作るので、それぐらいの人数を抱えていないと回らない。ただ、ベテランばかりだと誰が使い走りになるんだという話で…。幅広い層がいるから役割分担も明確になるし、成長に段階を踏むことができます。

それは、どのお店も目指している理想の企業体かもしれません。先日、日比谷ミッドタウンのニュースリリースにも記載されておりましたが、来年は東京出店も計画をされているんですね。色んな世代の子たちに活躍の場を与えたいというのもあるのですか?

髙橋氏:
そうですね。今は良い意味で調理場が成熟して、少しだけ飽和状態なんです。なので何人か東京で経験を積んでもらって、良い刺激になればなぁと考え、決断をしました。

東京の店は、カウンター中心の店を考えています。ちょっとしたテーブルと小さなお茶室を作って。こちらの本店は、お座敷のみで少し閉鎖的なところがあって。座敷というだけで構える人もいますしね。若い方にとっても親しみやすいように、料理も変えて、価格帯は抑えつつ、京都の味を堪能できるような店にしたいと思っています。

京都の各料理店で、海外研修生を積極的に受け入れています。どんな意義があると考えておられますか。

髙橋氏:
うちの調理場にも台湾の女性社員が、昨年から来てくれています。今はフランスから研修が来ています。分け隔てなく、色んな国の方を年に何人か積極的に受け入れています。

日本料理は非常に魅力的なものですので、それを海外の方に伝えたい、というのが受け入れの理由の一つです。あとは、うちのスタッフにとっても様々な気付きのきっかけになるということも大きい。日本の文化や料理にまだなじみのない異国のシェフに対して、「どういう風に説明したら伝わるだろう」と一生懸命考えるので、改めて日本料理とは?という問いを深く理解する機会になるんです。

瓢亭 外観

瓢亭

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075-771-4116
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京都府京都市左京区南禅寺草川町35
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11:00より(19:30L.O.)
朝粥8:00~10:00(7/1~8/31限定) 
定休日
不定休