笑ってしまうほど泥臭い人生、でも自分は今やりたいことをやっている。銀行融資を断られ、自力で30人の個人融資者を探し独立

L’Archeste(ラルケスト)
伊藤 良明

L’Archeste(ラルケスト) 伊藤良明 スタッフ

■9割が「シェフ」を目指すこの業界。では、そのためになにが必要か。プロとして数字も覚えなくてはならない。

今はどういうチームでお店を運営されていますか。

伊藤氏:
キッチンに4人、サービスに2人います。

採用はどのように?

伊藤氏:
1度公募をしたことはありましたが、あまり好ましい結果が得られなかったので、その後は求人を見ずに自分で足を運んでくるモチベーションのある人を採用するようにしています。
たとえば、今キッチンで働いているスイスの女の子は、ものすごいモチベーションをもっていました。うちに来る前に、よそのビストロで3,4年ほど働いていたんですが、その店が魚をおろしてある状態で仕入れるところで、なんとその女の子は3,4年間一度も魚を捌いたことがなかったそうなんです。
それで、その技術を教えてくれるお店を探していたところ、私が以前働いていた「テロワール・ダヴニール(Terroir d’Avenir)」の魚屋を見つけて、毎週日曜日、自分の休日を返上してうちに研修に来るようになりました。こんな人、なかなかいないし、こういう人と一緒に働きたいじゃないですか。素直にすごいと思います。

どういう教育を意識されていますか?

伊藤氏:
何かを伝えたあとに必ずケアをするように心がけています。声を荒げて怒ることも、順序立てて説明することもありますが、その後はフォローをします。
あとは、いずれシェフになるための、プロとしての意識を伝えるようにしてます。みんないずれはシェフになりたいと思って仕事をしているはずですから。

プロとしての意識とは?

伊藤氏:
どうやったらおいしい料理になるのか、どうやったらお客さんが一番喜んでくれるのかといった料理に対する姿勢を始めとして、実際に自分がお店を経営するようになったときのために食材の数字を見る力のことです。
シェフというのは、表面的な華やかな部分だけではなく、厳しい現実を突きつけられる職業でもあります。だから、ちゃんと数字も覚えなくてはならない。今自分が使っているその魚は1キロいくらで、1枚いくらするのか、そういうのも常にわかっていないといけない。
「それ1キロいくらかわかる?」と聞くと、大体みんな口を開けてぽかんとします。それではシェフは務まりません。

L’Archeste(ラルケスト) 伊藤良明

■まずはこの店から。評価を得るためではなく、自分が作りたいもののために課題をクリアしていく

キッチンは地下にあるのですね。

伊藤氏:
はい。あえて地下にしたわけではないのですが、どうしてもこの物件の立地と客席の構造が良かったので。キッチンは地下になりました。
でも、キッチンが地下だからこその工夫をすることによって、結果的に独特な店のサービスが生まれ、良い方向に転びました。

 地下だからこその工夫とは、どのようなものでしょうか?

伊藤氏:
キッチンが地下にあるから、どうしても客席までの距離が遠くなってしまいます。だから料理を運ぶのにも若干時間がかかる。運んでる間って、ソースの香りとか絶対飛んでしまう。それってやっぱり残念だし、最高においしい状態で料理を食べてもらいたい。どうすればよいか。
その解決方法として、料理を出す度に自分が上に上がってお客さんの前で直接ソースをかけることにしました。そうすることで、一番おいしい状態で提供をすることができる。結果的に良いパフォーマンスにもなり、これが店の個性の一つとなりました。

なるほど、地下にキッチンがあることから産まれた、工夫と個性ですね。今後はどういった展開をされていく予定ですか?

伊藤氏:
まだオープンして8ヶ月しか経っていないので、まずはこの店のレベルを上げていきます。個々人のレベルや、お店のシステムなどがまだ確立されていないので、そういった課題をあと2,3年くらいでひとつひとつ塗りつぶします。
そのときに何か新しいお話があれば、店舗数を増やしたり日本進出をしたりする可能性もあるかもしれませんが、とにかく今はこの店のことしか頭にありません。

パリにいる日本人シェフが二つ星を獲得するという現象も起きています。視野にありますか。

伊藤氏:
ミシュラン・ガイドは権威のあるガイドブックなので、そこに評価をされるのは素直にありがたいですよね。一つ星をいただいたときもそう思いました。
でも、星がついているお店が、イコールでお客さんが入るお店であるとは限りません。今は星をいただいたばかりなので、たしかにその影響でお客さんの数は増えましたが、これが2,3年経ったあとも継続する保証はない。たとえ星があってもお店の力が無いと、集客力も落ちるものだと思っています。
だから、自分はこの店の力を高めていくために仕事をするだけで、ガイドブックの評価を得るために仕事をするという意識はゼロです。1番大事なのは、自分がやりたい価格帯でしっかりと集客する力を常に持つことです。

若い料理人に対して一言お願いします。

伊藤氏:
正直、若いころは自分がやりたいことだけを選択するのは難しいと思います。選択肢に限りがありますから。でも、今、僕が言えることは、自分は後悔はしていないということです。
僕は、笑っちゃうくらい泥臭い人生だったけど、その都度真剣にやってきたから悔いはありません。だから、今の若い方たちも、悩んだり迷ったりしたら周りの人と話しながら、これでやっても後悔はしないという道に進んでもらいたい。
これをやりたい、この場所でやりたい、そういった希望があるときに、じゃあそれを叶えるためには何が必要なのかを考えて、自分に足りていないものを補いながら挑戦していってください。

(インタビュー・文:マエダジュロウ、写真:Yurina NIIHARA)

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