日本の豊かさを、料理を通じて伝えていく。愛国の料理人。

龍吟
山本 征治

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■「稼ぐために料理をする」という感覚がわからない

香川県出身。子どものころから母の料理を手伝っていた。「手伝わないと遊びに行けないし、母が機嫌よく話を聞いてくれない。自発的に手伝うというより、自分の自由というものを料理に奪われていた」と山本氏は当時を振り返る。

「料理に自由を奪われる」ですか。

山本氏:
小学生が毎日、遊びを犠牲にして料理をする。それは「好き」とか「やりたい」というゆるい感覚ではなかったですね。ただ、続けていると、料理の段取りが身につく。小学校5年生で家庭科の調理実習が始まった時に、みんなができないことも自分は自然にできて、何となく楽しくできたんですよ。それで数日後、ちょっとずつ貯めてきたお小遣いをはたいて食材を買い、家庭科で習った肉じゃがやら何やらを作りましてね。仕事から帰ってきた母に「食べてください」と出したんです。

お母さまの反応は?

山本氏:
驚いて、「おいしい」と喜んで食べてくれました。そのときに、報われた気がしたんですよ。自分が料理というものを作って、人においしいと言ってもらえることがこんなにうれしいことなのかと。「だから、母はあんなに一生懸命料理を作っていたんだ」ということもわかりました。あのときの母のひと言がなかったら、僕はこうして料理をやっていないと思います。それから、もうひとつ。料理だったら、自分はいけそうな気がしたんです。

「いけそう」とは何かというと、「やめない」ということです。自分で好きなことを好きなようにやって、それがいつの間にか仕事に変わるような感覚で料理をやっていけるんじゃないかなと感じた。自分には料理しかないと思うようになり、中学を出たら、料理人になると決めました。ところが、親は大反対でした。そんなつもりで私に料理を手伝わせたわけではありませんでしたから。

そうでしょうね。高校には行きなさいと?

山本氏:
はい。でも、僕はその時間がもったいないと考えていました。そんな時期に交通事故で重傷を負って入院しましてね。親も諦めたようです。

中学生にして、それほどまでに固く料理人を志していたんですね。

山本氏:
早く社会に出て、大人と社会で関わりたいという気持ちしかなかったんです。デパートに行っても、服やゲームには関心がなく、地下食料品売場に行って肉や魚を見たりするのが楽しみでした。「何であの鶏は鶏なのに赤いんだ。ああ、これが鴨なんだ」と心を躍らせてね。そんな時間がものすごく好きだったんです。

趣味を少し超えた感じというか、「料理しかない」という少年時代を過ごされたんですね。

山本氏:
そうですね。だから稼ぐために料理をやっているという感覚の人が、僕にはよくわからない。「稼ぐためだったらほかに仕事、いっぱいあるのに」と思ってしまうんですよ。

山本征治シェフ

■日本人として「本物」を発信できるのは、日本料理しかない

中学卒業後は喫茶店のアルバイトからはじまり、居酒屋、割烹、料亭までさまざまな店舗で働いた。お客さんとして訪れてここぞと思った店に飛び込みで応募して採用されることが多かったという。現場で仕事をするうちに料理の技術だけでなく理論も学びたいと考え、19歳のときに四国調理師専門学校(現KISS調理技術専門学校)に入学した。

この時点ですでに日本料理の料理人を志していたのですか?

山本氏:
当時僕は香川県の料亭で働いていましてね。昼間は専門学校で日本料理、中華料理、西洋料理からサービスまでトータルに学び、夕方には日本料理の現場に戻るという毎日を1年続けていたんです。そんな中で、ふと思ったんですね。フランス料理の本物はフランスにしかないし、中華料理の本物は中国にしかない。日本人がどれだけ頑張っても、その国で生まれ育った人には勝てないだろうと。一方で、日本料理の本物はここ日本にある。どうせやるなら、本物を追求したいじゃないですか。日本人として「本物」を発信できるのは、日本料理しかないと考えました。

西洋料理や中華料理についても学ばれたからこそ、そうお考えになったんですね。

山本氏:
もうひとつは、現場で素材に触れていたことが大きいと思いますね。日本料理の真髄は素材を生かすこと。刺身にしても、包丁の入れかたひとつで味がまったく変わります。フランス料理や中華料理も一流のものは同様ですが、僕は日本が好きだから、日本でやっていきたい。日本にいる限り、日本料理以上に素材の探求を極められる料理が、ほかに思い浮かばなかったんです。

今でこそ「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されるなど日本料理への関心も高まっていますが、当時(1980年代後半)はフレンチやイタリアンの料理人に憧れる人が多かったのでは?

山本氏:
そうかもしれません。ですが、僕は日本料理こそが格好いいと思いました。日本料理はシンプルに素材に向かい合うので、性に合ったんでしょうね。例えば、フランス料理で皿にソースで絵を描いているのを見ても、「これに料理として意味があるんだろうか?」と、考え込んでしまう。だからこそ、日本料理以外には考えられなかった。

龍吟

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