多様性と豊かな文化に育まれたペルー料理を追求し伝えていきたい

Central(セントラル)
Virgilio Martinez(ビルヒリオ・マルティネス)

Central(セントラル) Virgilio Martinez

Photo By Jimena Agois

■共有と共生する活動によって、ペルーを特別な場所にしていきたい

共有という考えは面白いですね。

マルティネス氏:
例えば、私たちが食材探しの旅に出て、大量の良いキノコを見つけたとします。でも、私たちはわずか40席のレストランですから、そんなにたくさんのキノコは必要ないのです。そんな時は、他のシェフに電話をして、こんな良い食材を見つけたけれど、いりますか?と聞いて、良い食材を他のレストランと分け合います。

そうすると、相手のシェフも、良い食材が入った時にこちらに情報を届けてくれるようになります。
こういった共有、共生のメンタリティーとネットワークが、ペルーを特別な場所にしていると私は思っていますし、だからこそ、ペルーに多くの方が来てくださるようになった理由だと思っています。

例えば、ペルーだけでなく、海外のシェフから問い合わせが来た場合はどうするのですか?

マルティネス氏:
もちろん、ペルー国内だけが良ければいいと言うわけではありません。ペルー国外のペルー料理店も同じです。例えば、ドバイには6軒しかペルー料理店がありません。私たちがサポートすることで、もし、ドバイでもっとペルー料理店が成功すれば、私たちの食文化のプロモーションになるのですから、良いことです。

現代は、巨大なエゴがまかり通る時代ではありません。それは、サスティナブルではないからです。

今の人々は多くのレストランを巡り、多くのレストランの「人格」とでも言うべきものを知っています。巨大なエゴが表現された料理を食べたいのではなくて、本物の、その地域の料理を食べることで、本物の体験をしたいと思っているのです。

正直に言うと、食事体験というのは、とても感情的なものになっていると思います。訪れた人は幸せな気持ちになりたいと思っているし、店側がきちんともてなしてくれたと感じたいのです。堅苦しい、型通りのサービスではなくて、本物の人と人との出会いを感じたかったりするのです。

私たち南アメリカ人は、気取りませんし、演技をする必要を感じません。
今の時代は、私たちが誰であり、どんな風に食について考えて、何をしているかをコミュニケーションする必要があるのです。

ただ、中には、口で言うだけ、という人もいます。見せかけでごまかして、本物でないものを売ることは簡単ですが、私たちが考えているのはその真逆です。最も大切なのは感情と魂であり、物事の内側だと考えているのです。もし私が、「これをあなたと共有します」と言ったら、私は共有します。
「この山あいの村と仕事をしています」と言ったら、それはその山あいの村と本当に仕事をしているのです。

そして、知りたいと言う人たちにそれを伝えるのですね。

マルティネス氏:
この地(オーストラリア)で、ペルー料理のシェフに会いましたが、ペルー料理にそこまで詳しい方ではありませんでした。
私の仕事は、そういった人たちに、物事の内側にあるペルー料理の真髄であるアイデアを知らせることだと思っているのです。

もちろん私はシェフなので、料理をするのが仕事なのですが、今日、シェフは料理するだけではない、プロモーターでもあります。ですから、世界で起きていることを知る必要があります。例えば、環境学者と働いたりと、これまでのシェフになかった役割が期待されています。シェフはメディアになることができるのです。

その背景には、料理のトレンドの変化もあるのでしょうか?

マルティネス氏:
その通りです。昔は、人々はどこに行こうと母国の料理を食べていましたが、今はそうではなくて、ペルーに来たのならばペルー料理を食べたいと思うようになってきました。

お客様はレストランに、何か面白いものを提供することを期待しているのです。私のレストランに来てくれるということは、私に3時間の時間をくれているということ。お客様は私の国に、そして私のレストランまで長時間かけて旅をして来てくれています。期待値は高くて当然です。

せっかく来ていただいたのですから、私は料理を通して、ペルーの各地を旅したように感じて欲しいと考えています。

そんな時代の流れで、私たちの毎日の仕事も変わりましたし、より一層シェフの個性に注目が集まり、中にはシェフはスターや有名人だという考える人もいます。しかし、それは壊滅的な考えにつながります。毎日の仕事をないがしろにしてはいけません。そして、今の立場が自分のキャリアの頂点と考えてはいけないでしょう。なぜなら、一旦そう思ってしまったら好奇心を失って何もできなくなるからです。

好奇心とは謙虚さでもあります。次は何だろうと思う気持ち、希望が必要なのです。これを保ち続けなくてはならないのです。

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Photo By Daniel Silva

◼「食は競争ではなく分け合うもの」。料理を通して伝えたいこと

風景を写し、地域の独自性を表現する料理のアイデアには、ペルーに和食文化を広め、和食とペルー料理を融合させた、ペルービアン・フュージョンの立役者でもある日本人シェフ、小西紀郎さんの存在も大きかったそうですね。

マルティネス氏:
小西シェフはメンターの一人で、最初の出会いは、私が16歳の時、彼のレストランに行ったのがきっかけです。その後も、よく家族で彼のレストラン「トシロー」に行っていました。だから、元々家族ぐるみで親しくしていました。

2009年にペルーに戻ったばかりの頃の私は、シェフとしてペルーで働くのは初めて。一方、彼は日本人ですがペルーにずっと住んでいましたから、私に色々と教えてくれました。ペルーの魚についての知識や、素材への敬意も彼から教わりました。当時は、週に1度はトシローに行って話をしていましたね。

特に印象的だったのは、彼が2000キロメートル以上あるペルーの海岸線全てを旅して、魚、シーフード、海藻の種類や生態を調べたと言っていたことです。

ペルー中を開拓すると言うアイデアにはワクワクしましたし、私が今やっている食材探しの旅のインスピレーションの元となりました。

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Photo By Cesar del Rio

日本人シェフがインスピレーションの元になった、と言うのは嬉しいです。他のメンターとしては、どんな方が挙げられますか?

マルティネス氏:
30人ものシェフの元で働いたので、私にはとても多くのメンターがいると思っていますが、ガストン・アクリオは、私に再度自分の国を愛することを教えてくれた人です。私はこの国にいても望みはない、と思ってペルーを離れましたから、戻って仕事をしようなどと思っていませんでした。ただ、休暇でペルーに帰った時に、ガストンがペルーの文化を活かした面白いことをやっているのを知りました。またガストンはペルーの文化の重要性について話してくれました。ペルー国内でインスピレーションを与えてくれる色々な場所を見せてくれ、私はペルーの文化や遺産について少しずつ知ることができたのです。私自身、革命的なことをやりたい、とどこかで思っていて、ガストンはそのことに気づかせてくれたのだと思います。

これからのペルー、ペルー料理がどうなってゆけばいいと思いますか?

マルティネス氏:
ペルーでの美食は、始まったばかりです。ペルーはリマだけではありません。具体的に言うと、私の感覚ではリマはペルーの魅力のうちの3%位にすぎないと思っています。

今リマが美食の街と言われているのは、まだ多くの人が、アンデスやアマゾンの食のポテンシャルを知らないからだと思うのです。

例えば、アマゾン出身のシェフが、アマゾンに、地元の食文化を活かしたレストランをオープンすればいい、というようなことですか?

マルティネス氏:
その通りです。アンデスやアマゾンは、今は観光客しかいませんが、食材や文化についての情報があるのですから、そういった場所にも、食通たちが来るような状態になって欲しいと思っています。人々は食を通して良い時間を過ごしたいと思っています。将来的には、自然の環境の中で素晴らしい食体験ができるようになったら理想的です。

そして、私たちの料理のアイデアが、世界で反復され、複製されるオリジナルになれば良いと思っています。なぜなら、私たちがやっているような、異なった緯度や自然環境、自然の風景を料理に映すというのは、世界中でできることだと思うのです。

少し前まで、ロシアや韓国など遠い国から、私たちが持っているペルーの情報を知りたいという問い合わせが来るようになるとは、夢にも思いませんでした。でも、今では世界中にフォロワーがいます。

料理を通して、伝えたいことはなんですか?

マルティネス氏:
世の中にある多くの問題の根源は、私たちの内側にある競争心だと思います。全ての世界において、競争心というのは存在します。しかし、それは違うのではないか、とマテル・イニシアティバで一緒に働いている妹から、とても大切なアンデスの知恵を学びました。アンデスの人たちは植物に囲まれて暮らしているため、自然と深くつながっていて、植物による自然治療を行うなど、スピリチュアルなものが強い場所柄です。彼らは「食は競争ではなく分け合うもの」と考えています。なぜなら元々食物は全て母なる大地のもので、自然に感謝して共有すべきものだからなのです。

私たちは、少しずつこの「競争するのではなく、共有する」という概念を多くの人に自然に感じ取ってもらいたいと思っています。きっと時間がかかると思いますが。それは、自然への敬意にもつながっていきます。

この考えが、私たちの料理の基盤にあります。私たちが料理を通して伝えたいのは、そういうことなのです。

(インタビュー・文:仲山 今日子、画像提供:Daniel Silva, Jimena Agois, Cesar del Rio, Gustavo Vivanco

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Photo By Daniel Silva

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