多様性と豊かな文化に育まれたペルー料理を追求し伝えていきたい

Central(セントラル)
Virgilio Martinez(ビルヒリオ・マルティネス)

Central(セントラル) Virgilio Martinez

Photo By Jimena Agois

◼多様性と豊かな文化に育まれたペルー料理を知る旅へ

ルールに盲目的に従うのではなく、自分の理解でそれを表現したい。これまでのビルヒリオさんの行動基準と重なる気がしますね。どんなお料理を提供していたのですか?

マルティネス氏:
ペルーでの最初の4年間は、様々な文化の混じり合った料理を知った自分のバックグラウンドを活かし、ペルーの食材を生かしたグローバルキュイジーヌと表現できるような、少し地中海のエッセンスを加えたフュージョン料理を提供していました。しかし、それはペルー料理ではない。ペルーにいるペルー人シェフとしてのリアリティを追い求めようと思いました。そこで、6ヶ月間レストランを閉めてペルー中を旅して、様々な地域の魅力と出会おう、と決めたのです。

ご自身が経営するレストランを閉める。収入は無くなるし、従業員も雇い続けなくてはならない。リスキーな判断だとは思いませんでしたか?

マルティネス氏:
確かにとてもリスキーだとは思いました。でも、それをしなければ、自分たちのレストランは、どこにも行けないと思ったのです。コンセプトを明確にするために取るべきリスクだと思いました。

そして、実際に訪れてペルーの様々な地域の郷土料理を食べてみると、そこには素晴らしい伝統と文化がありました。
よし、これをやろう。この伝統を新しく解釈し、自分たちの食材を使って料理を作っていこう。自分たちの景色を皿に盛り込もう、と決めたのです。

もちろん、私はペルーで生まれたのでペルー料理は食べていました。でも、リマは海岸沿いなので、魚介類や野菜が中心。アンデスやアマゾンに行ったことがなかったため、じゃがいもやとうもろこし、果物、穀類などの多様性を知らなかったのです。

地方に旅行に行く機会などはなかったのですか?

マルティネス氏:
私が子供の頃は地方の治安が悪く、危ないと言われていていけなかったので、家族旅行はヨーロッパに行ったりしていました。リマは色々な国からの移民がいる人種のるつぼで、世界中の食が楽しめる都会でしたが、ロンドンやニューヨークなど、世界の他の都市との違いはあまりなく、実際のペルーの魅力とは繋がっていなかったのです。

今は、私はペルーが世界で一番多様性がある場所だと思っています。良質の土があり、豊かな農業文化もある。景色も素晴らしい。

昔はそれが見えていませんでした。シェフとして帰ってきて初めて、多様性に富み豊かな文化があると気づいたのです。

その気づきを、どんな風に料理という形にしていったのでしょう?

マルティネス氏:
旅から帰ってきて、得た情報を集約するために、マテル・イニシアティバ(Mater Iniciativa)という研究機関を作りました。ペルー人の人類学者や植物学者、生物学者、哲学者などの8人のチームを作って食材を探しに行き、料理のメニュー作りに反映させることにしました。
ジャングルや高山など、地域を決めて行く場合も、特別な種類のカカオ豆やコーヒー豆を求めるというテーマで行くこともあります。アンデスの穀類、根菜、トウモロコシ、じゃがいも、海の魚、アマゾンの川の魚など、行って初めて見つけられる食材もたくさんあり、時には新品種を発見して、登録するということもあります。

週2回飛行機に乗って、ペルーを探索して、食材を集めてその背景を考察します。全ての専門家たちは食でつながっています。私の1歳歳下の妹は元医者なのですが、彼女も参加しています。私の考えていることをよく理解してくれています。私が行けない時にも、彼女が行って、たくさんの写真やビデオを撮って、言葉で伝えてくれるだけでなく、景色も含めて再現してくれています。

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Photo By Cesar del Rio

さらに、新しい研究施設もオープンするそうですね。

マルティネス氏:
はい、アンデスのクスコにある、モライ考古学遺跡群(Conjunto Arqueologico Moray)に、マテル・イニシアティバの2つ目の拠点を2018年2月にオープンしました。

モライ遺跡は、インカ時代の農業研究機関だったと言われている場所です。食べ物は私たちの歴史、伝統、風景とつながっているものと考えている私たちにとって、この場所はとてもインスピレーションを受ける場所でもあります。食の歴史を明文化し、新たな歴史を作って行く、そんな意味もありこの場所を選んだのです。ここから、レストラン「セントラル」に全ての情報を集約していくつもりです。

この研究機関は、未来に向けて、形のない味というものを、文章や映像という形にして残していく存在でもあるのですね。

マルティネス氏:
はい、食の文化はまだ文章になっていることが少なく、発見するものが多いです。私たちは進化のまだ初期の段階にいるのです。それは自分にとってまた新しい挑戦であり、文章化することで、これまでに系統立てられていなかったペルーの食文化の歴史を作って行こうと思っています。さらに、伝統の解釈から、新しい料理を生み出していく場所でもあるのです。

ペルーの食文化を遺して行くための大きなプロジェクトだと思うのですが、こういった活動について、政府からの援助はあるのですか?

マルティネス氏:
ペルーでは物事はとても政治的な側面があります。政府と働いたこともあるのですが、どうしても政治色が強くなってしまい、政府のルールに従わなくてはなりません。私は、ルールに従うタイプではありませんし、独立的でありたい。これは私の挑戦ですから、自分で自分の道を作りたいと思っているのです。

自分のレストランをオープンしたのも、自由を愛するがゆえです。自分のレストランであれば、やりたいことができるからです。支援や助けが必要でないと言ったら嘘になりますが、支援を受けることよりも、自由を選びます。クリエイティブでいるためにはいろんな意味で自由でいる必要があるからです。ですから、政府や企業からお金を受け取ることはしません。

金銭的に厳しかった時期もあったりするのではないですか?

マルティネス氏:
これを始めた時は、私たち作る側としても新しい解釈をした料理でとても斬新なものでした。ですからお客様は尚更まるで違う星に来たかのような、奇妙な料理に感じられたようでした。料理を理解してもらえず、常連客が離れてしまうことも経験しました。

人々が期待していた「正確に作られた馴染みのある西洋料理」ではなく、私にとっては、ペルーらしさや、魂(ソウル)の方が重要だと思ったのです。風景や、ペルーの異なった文化を再現するという感覚を優先させました。

ですので、「セントラル」を再オープンした時に、私たちのアイデアを一部の人は気に入らなかったのです。4~5ヵ月、人が来なくて、ほとんど開店休業状態でしたが、チームがとても強く信頼関係で結ばれていて、「私たちが今やっていることが正しい」と信じられたのでなんとか乗り切ることができたのです。

ラッキーだったのは、再オープンしてちょうど半年後に、大きなミストゥーラ(Mistura)というストリートフードのイベントがあったことです。その時多くのジャーナリストや食通がペルーに来て私たちのレストランのことも、広く知られるようになりました。それからは、世界から多くのお客様が食べにくるようになり、レストランが継続していけるようになったのです。

もちろん、成功した理由はミストゥーラだけではなく、経済が安定して街も安全になり、ペルーが美食のための旅先として世界で認められてくるようになたこと。ペルー料理の食のアプローチや異なったコンセプトを知る為に多くの人がやってくるようになったことです。そういった人たちの間で、ペルー料理を新しく解釈して、面白いことをやっているシェフがいる、と口コミで広がるようになったのです。

ペルーを訪れる多くの人の目的は、マチュピチュやアマゾンでした。これまでは、リマに滞在する理由を見つけられていなかったのです。

でも、今日では、私たちが訪れる理由になっていると感じます。来てくださる方は、まずは私たちのレストランを予約してから航空券をとる。これは、喜ぶべき変化だと思います。

Central(セントラル) Virgilio Martinez

Central(セントラル)

お問い合わせ
+51 1 242 8515
アクセス
Jr. Dos de Mayo 253, Barranco, Lima, Peru
http://www.centralrestaurante.com.pe/
営業時間
ランチ / 12:45~15:15
ディナー / 19:45~23:15
定休日
日曜日