「知りたい」という欲求の積み重ねが、一流料理人への道を切り拓く

玄斎
上野 直哉

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■浪速割烹の礎を築いた父の背中。

お父様が浪速割烹の先がけ『㐂川』の創業店主ということで、料理の世界に入られたきっかけは、やはり家庭の環境だったのでしょうか?

上野氏:
実は子どもの頃は、父から料理人になりなさい、ということは一切言われませんでした。ただ、父も料理人ですし、9つ年の離れた兄も私が物心ついた時には既に料理の道に進み始めている特殊な環境でしたので、たまの外食も、毎回大人が行くようなところで、自然と和食の世界に触れていましたね。
特に父は大変な勉強家で、店が終わって家に帰ってきても、書斎で料理の勉強を続けるような人でした。休日、奈良にでかけるぞ、と言われて「鹿を見られる!」と喜んでいたら、連れていかれたのは美術館(笑)。そのおかげで、芸術分野…特にうつわには随分小さい頃から興味を持ち始めていました。職業の強制はされませんでしたが、土壌は自然と作られていたんだと思います。

自分の意思ではっきりと料理人になると決めたのは、中学生から高校生にかけての頃。漠然と電車の車掌さんになりたいなんて憧れはありましたが、いざ進路を決めるとなった時に、自分が料理の道以外考えられないことに気付いたんです。

料理の修業を始められたのは、高校卒業の後ですか?

上野氏:
私は調理師学校には行かず、卒業後すぐに京都の老舗料亭『菊乃井』さんで村田吉弘さんに師事し、庖丁もろくに握ったことのないところから料理のイロハを教えてもらいました。料理店の2代目3代目は、だいたい別の地域の名店と言われる場所で修業を積むというのが慣例です。父が当時、ある出版社の編集長におすすめの修業先を相談したところ、「京都なら3代目を迎えた『菊乃井』が、勢いがある。伸びている店で修業するのがいいんじゃないか」と勧められたそうです。『菊乃井』さんといえば、小学校5年生の時に私も食べに連れてもらっていて、どの席で何を食べたのかも鮮明に記憶に残っているほどの心地の良い店でした。そんな素晴らしい店で修業できるというのは、非常に有難いことでしたね。

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■「面白い」を見つけられるまで、まずはこらえる。

日本料理の下積み時代は非常に厳しいイメージがありますが、実際に修業されてみていかがでしたか?

上野氏:
諸先輩たちの時代に比べたら、まだ私たちの時代はやさしい方だったと思いますが、それでも今思えば、厳しかったですね。とにかく、朝から晩までずっと働き続けて、最初の3ヶ月で十数キロ痩せましたから(笑)。ただ、今考えると、要領の悪い動きをしているんですよね。先輩の手にかかれば、3分の1の時間で済むような仕事ですから。手際も悪いから時間もかかり、そうすると睡眠時間も減って疲れてさらにスピードが遅くなる悪循環でした。

辛い修業時代、同世代の仲間たちが辞めていくこともある中、踏ん張り続けられた原動力は何ですか?

上野氏:
1年、2年では何もできない、ということが、父の姿を見ておのずと分かっていたんです。というのも、私の父は、もともと河内長野の山奥で備長炭を作る家の七人兄弟の長男坊として生まれて、本当は絵描きかコメディアンになりたかったそうですが、家族を養う責任があると、特別に興味もなかった料理の道に進み、そこで、「好きにならないと続かない」と料理を勉強し続けて、色んな知識を覚えて、好きになっていったらしいですからね。

下積みの時代はまだまだ半人前で、料理を作る行為まで至らないので、途中で面白くなくなって、辞めてしまう人間も多い。でも将来、自分で店を持つことを考えたら、修業時代の1日1日をどれだけ濃密に過ごせるかが、ライバルとの力の差として出てきますよね。若い子でも、料理の面白さが見えたところまでいくと、その後はずっと続けられると思います。私も自分のペースを掴んで、料理の楽しさが見えてきたのは、修業から3年経った頃です。焦って結果を求めると、大事なものを見失ってしまうと思いますね。

その後、ご自身の店を持つまで、『菊乃井』で5年、ご実家の『㐂川』と、のべ10年ほど研鑽されたわけですが、上野さんにとっての師匠は?

上野氏:
やはり、自分を育ててもらったのは、『菊乃井』の村田さんと父の二人ですね。村田さんは、料理人としての技術もそうなんですが、ちょうど人間形成の時期となる18歳からお世話になっていますから。社会人としてのルールや、人としての在り方、料理人とはなんぞやというところから教えていただきました。師匠ですが、ある意味、親代わりみたいな方。今でも敬愛していますし、お会いできると嬉しい気持ちになります。

父は、今の私の料理の世界観をつくった師匠です。料理の信条として、鯛一匹あれば、上身だけじゃなく、内臓から頭まで全部おいしくいただけるように余すことなく使い尽くす、素材を慈しむ心を大事にしており、なにわ野菜の普及と伝承にも力を入れていました。その考えは私も引き継いで、外せないテーマの一つになっていますね。

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