天ぷらには守りつづけるべき基本がある。正統派を貫く天ぷらの求道者

天ぷら 京星
榊原 俊徳

天ぷら 京星 厨房に立つ榊原俊徳

■「京星」のこだわり。天ぷら職人としてのこだわり。

「京星」のこだわりについて詳しく教えていただけますか。

榊原氏:
「京星」ならでは、ということでしたら、やはり祖父と父から継承した「油」と「自家製の塩」ですね。油と塩の配合に関しては、私以外、誰も知りません。すべて私の頭にだけあります。身内である妻も昨年末に亡くなった母にも教えていません。

私なりのこだわりは、お客様にゆっくりと料理を楽しんでいただくことです。店はカウンターのみで9席あります。出来立ての本当にいいタイミングで料理を提供したいので、カウンタースタイルにこだわっています。

それから、9席ありますが貸し切りでなければ満席になるまで予約を入れることはありません。2人で1組のお客様であれば、3組までの予約です。パーソナルスペースと言いますか、間に1席分の余裕を作ることで、誰にも邪魔されずに料理を楽しんでいただけるようにしています。

今年の6月に店を全面改装しまして、ずいぶんと使い勝手が良くなりました。設計士さんと何度も打ち合わせをして全面的にリニューアルしました。その時に、よりお客様に質の高いサービスを提供できるよう、10席から9席まで減らしたのですが、まだ9席でも多いかもしれません。天ぷらに集中し過ぎて、お客様の声が耳に入っていなかったりするものですから…。

「天ぷらは難しい」とよく言われますが、なぜでしょう?

榊原氏:
難しい質問ですね。本当に難しい。素材によって扱い方が全く違いますし、同じ素材でも個体差がありますからね。油の温度、加熱時間などの調整は、あくまでも経験によって培われた「感覚」で判断するしかありません。

ちょっとおかしな言い方になるかもしれませんが、私たち職人は油の中にも目があるんです。もしかしたら、この感覚は料理人の中でも、天ぷら職人だけのものと言えるかもしれない。他の料理にはない特殊な感覚が「天ぷらは難しい」と言われる理由なのかもしれません。

油の中の情報は、右手に持つ菜箸からも伝わってきます。食材をつかんだ時に、微妙な火の通り加減が分かります。こういう部分はマニュアル化できませんし、言語化できない感覚というのがやはり必要になってくるのだと思います。

榊原さんが考える「天ぷら」とは、どんなものでしょう。

榊原氏:
天ぷらというのは、基本的に「野菜」と「魚介類」で作るものであって、肉などの鳥獣類を使ったものとは違います。高級ランクの牛肉などいろんな素材を油で揚げたものがありますが、私の感覚で申せばそれらはすべて「揚げ物」であって「天ぷら」ではありません。

いろいろと創作するのは構わないのですが、奇をてらい過ぎるのは良くないと思っています。シンプルに素材の味が分かるつくり方を、丁寧な仕事でやっていく、というのが私の天ぷらです。

新しい天ぷらの発想というのは、考えようと思って考えられるものでもありません。ある日、突然頭に浮かぶものです。そのアイデアをお客様に提供できるレベルまでもっていくのですが、あくまでも天ぷらの基本を守りながらの試行錯誤です。これまでに培ってきたものを土台にしながら、新しいものに挑戦していくのが、本来の在り方だと思っています。

「京星」と他の店との違いはどんなところにありますか?

榊原氏:
天ぷらだけでお客様に満足いただく点です。天ぷら屋と言いながらも、天ぷら以外の料理をコースの中に取り入れているところが珍しくありません。造りがあったり、炊き合わせがあったりすると思います。もちろん、それが悪いということではありません。

これは個人的な考えですし「京星」としての矜持として、やはり天ぷらで勝負しないといけないと考えています。
お客様は天ぷらを食べにいらっしゃるわけですから、天ぷら以外の料理をお出しするというのは、私にとっては「天ぷら」から逃げることになってしまいます。最初から最後まで、天ぷらだけで勝負してこそ天ぷら屋としての価値があると思っていますし、それだけに注力するからこそ、天ぷら職人としての成長があると思います。

「京星」では1コースで18品ほどの料理を提供しますが、すべて天ぷらです。お客様を飽きさせないような構成を考え、飽きさせない技術でつくっていきます。他の料理に逃げてしまうのは楽ではあると思うのですが、それはやりません。だからこそ、いまだに難しいのです。

天ぷら 京星 ミシュランコーナー

■世界に広がる「tempura」について思うこと。

お弟子さんを取ることはありませんか?

榊原氏:
受け入れたくないわけではありませんが、本気で門を叩いてくる人はいませんね…。
過去に外国の方で何度か修業をさせてくれという話はありました。
日本語ができる人に代筆してもらった手紙と履歴書をいただき、熱意は伝わってきたのですが、過去の経歴を見てみると、たった3ヶ月とか4ヶ月でいろんな料亭を転々としているんです。

私たち料理人の感覚から言えば、そんな短期間では何も学べません。少なくとも1年は経験して、四季の変化を通して料理を学ばないことには、とても修業できたとは言えない世界です。たった数ヶ月ほど修業しただけで「京星で学んだ」と言われてはかないません。

同様に、海外からのお客様も多いのではありませんか?

榊原氏:
とても増えました。実感としては3〜4割ぐらいが海外からのお客様でしょうか。特にミシュランガイドに掲載いただくようになってから増えました。海外のお客様の中にはリピーターとしてご来店して頂く方もいっしゃいます。
寿司と同じように、天ぷらは日本料理を代表するものとして、「tempura」の呼び方で通じる数少ない料理です。世界で認められているのは本当にありがたいと思います。
また、海外のホテルなどから現地で「天ぷら」を披露してほしいという招待を受ける機会もあります。

天ぷら 京星 榊原俊徳 外観

■三代つづく老舗を守っていく意味。

今後の目標について教えてください。

榊原氏:
まずは健康であること。「京星」は、私と妻だけの店ですから、他に代役になってくれる人はいません。健康に気を付けて、しっかりとお客様の期待に応える仕事をしていきたいと思います。今は特に店を大きくしたいとか、新しい店を出したいとは思っていません。
申し上げたように、天ぷら屋は熟練の職人がいないことには成り立たない商売ですから。

カウンター越しに料理をお出しして、本心から「おいしい」と言っていただけることが、何よりも大きなやりがいです。お客様の反応を目の前でダイレクトに感じられますから、ほんの少しも手を抜けません。
それに、天ぷら一本で勝負している店ですから、質が悪ければお客様にだってすぐに分かってしまうと思います。最高の1品を、最適なタイミングで、心ゆくまで楽しんでいただける店であることを、これからも守っていきたいですね。

四代目に関しては、今は何とも言えません。というのも、子供がまだ本当に小さいんです。彼が大人になるまで、あと20年は私が頑張らないといけません(笑)。
ただ、三代つづいた「京星」を私が途中で終わらせるわけにはいかないと思っています。自分で立ち上げた店なら自分の勝手でたたむこともできるのでしょうが、私の場合はそうはいきません。「京星」の味を楽しみにしてくださっているお客様がいらっしゃる限り、その期待には応えつづけていきたいですね。

最後に、これから飲食業界で働く若いみなさんにメッセージを。

榊原氏:
寿司でも、天ぷらでも、どんな道も好きでなければ続けられません。世の中はいろんな魅力的なものがあり、ついつい目移りしてしまいがちですが、好きになった道を信じて進んでいって欲しいですね。
私の場合は、冒頭でもお話をしたように他の選択肢というものがなく、目の前の仕事に一生懸命にならずにはいられない状況からのスタートでした。でも、それが良かったのだと思います。不眠症になるほど悩み、プレッシャーに押しつぶされそうになりましたが、今日まで26年間にわたって天ぷら職人の道を歩いてこられたのは、この仕事が好きだったからです。
若いみなさんにも、いろんなプレッシャーやストレスに悩む時が、きっとやってくると思います。でもその道は、最初に自分が好きで進んだ道であるはずですから、その気持ちを思い出していただきたいです。

(聞き手:市原 孝志、文:上田 洋平、写真:逢坂 憲吾)

天ぷら 京星 内観

天ぷら 京星 入り口

天ぷら 京星

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