和食の視野を広げるために、あえてフランスで3年修業。逆境を乗り越えた、信念の料理人

京料理 みつや
松村 知典

京料理みつや 松村知典

■料理人として致命的な病に侵されて。

京都で働かれた後、どのような流れで大阪に来られたのでしょうか?

松村氏:
北新地に、母に連れられて初めて本格的な和食を食べた思い出の店があるのですが、そこで料理人を募集していて働くことになりました。ただここで事件が起こってしまって…(笑)。

実はその店はクラブの様な営業形態で、営業も夜遅くて深夜3時頃まで。そして多くのお客様がたばこを吸われるので、もともと気胸(※)を何度も繰り返すほど気管が弱かったこともあり、ひどい喘息になってしまったのです。そしてついには、鼻と舌が全く利かなくなってしまいました。病院のMRIで調べたところ鼻の中は真っ黒で、医者にも「このまま直ることはないだろう」と言われてしまいました。
※ 胸の膜に穴が空くなどの理由で、胸の中で肺が圧迫され、縮んでしまった状態となる病気。

鼻と舌が利かなくなってしまった以上は料理人として仕事ができませんので、店を辞めて、知り合いの魚屋をバイトで手伝ったり、百貨店の魚屋でバイトしたり。本気で料理人を辞める覚悟をしていました。ちょうど京都にリッツカールトンホテルができる時だったので、サービスに転向しようかと考えたりもしましたね。家族がいましたから死ぬことまでは考えませんでしたが…正直、どん底でした。

そんな時、北新地の店にお客様として来ていた今のオーナーから、「一緒にお店をやらないか?」という連絡をもらいました。病気で急に店を辞めることになったので、親しくさせていただいていたお客様には手紙を出していたのですが、みなさんとても心配してくださっていたみたいです。

誘ってもらった時は「鼻と舌が利かなくなってしまったので、もう板場は辞める気だ」とお伝えしたのですが、僕の子どもや家族のことまで心配し、考えてくださっている言葉にとても心を動かされました。そこで「もし鼻と舌が直ったら、一緒に店をやりましょう!」と答えました。その後は生活環境を整え、道でたばこを吸う人がいたら避けて歩いて…と生活を徹底的に改善し、無事に鼻と舌を直すことができて、今の店を立ち上げることになったのです。

京料理みつや 料理
写真提供:みつや

■店の共通目標は「ミシュラン一つ星」!

現在の店はどのような形で運営されているのでしょうか?

松村氏:
オーナーは元々、料理業界の方ではないので店のことは一任して頂いております。僕も色々な店で働き、料理業界外の方と一緒に仕事をした経験がありましたので、オーナーとは店の方向性をしっかりと共有できる「共通認識」を持たなければならないと考えました。そこで一番わかりやすい目標として「ミシュランで一つ星を取る」ことを第一目標に掲げることにしたのです。

立ち上げた年にその目標を達成することができましたので…それには正直、ちょっと驚いています(笑)。共通目標を決めておくと店のイメージが作りやすく、具体化しやすいと思いますね。そして今の目標はこの店をしっかりと軌道に乗せること。わずか9席しかありませんので、「毎日満席にする!」という意気込みでやっています。

あと立ち上げ時に本当にお世話になった方がおりまして…大阪の玉造にある居酒屋「ながほり」で2か月間修業をさせていただきました。十年以上前から「ながほり」にはよく食べに行かせてもらっていて、大好きなお店。ずっと「ながほりさんで働きたい!」という気持ちがあったのですが、なかなかタイミングが合わなかったのです。店を立ち上げる間に2か月、時間が持てることになったので「修業するなら今しかない!」と。オーナーに無理を言って「ながほり」で研修させてもらう時間をいただきました。

京料理みつや お造り
写真提供:みつや

そして「ながほり」の店主・中村さんに連れられて、なかなか訪ねられない酒蔵を一緒にまわらせてもらったり、加賀蓮根や山葵などの農家さんを訪ねたり…。僕は素材の知識が浅かったので、こうして農家さんを訪ねて話を聞くチャンスを得られてとても勉強になりました。そして僕の力だけでは仕入れできない貴重な酒や魚、野菜なども沢山紹介してくださって……それが今の「みつや」の大きな力になっています。だから「ながほり」の中村さんは僕の大阪の師匠。一本芯が通っている方で本当に尊敬しています。

京料理みつや 外観

京料理 みつや

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