無料の調理師職業訓練校創設に、2050年の食糧事情の研究。人を育てる社会派料理人

Sur Mesure de Mandarin Oriental Hotel Paris(マンダリン オリエンタル ホテル)
Thierry Marx(ティエリー・マルクス)

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■プロとはこの料理に3万円の価値があるとお客さまの目を見て言えること

シェフの料理はどのようなスタイルですか。

マルクス氏:
現代的な料理で、クラシックとイノベーションが共存しています。素材の味を尊重し、余計な手を加えないこと、食感の工夫、食材の温度を大切にしています。

前進を続けるためにどのようなことに気をつけていらっしゃいますか。

マルクス氏:
アンテナを張り、留まることなく吸収を続け、観察眼を常に持ち続けること。自然についても、社会についても、観察の目を持ち続けること。何かを生み出し続けるために必要なことです。
自分のスタイルが素晴らしいと思ってしまって、他のものを観察しなくなったら長続きはしません。「新しい食材は何だろう、新しいトレンドはどのようなものだろう」と、何事にも関心を持ち、「私のキッチンに届けられる食材がどのようにして作られて、どのようにして運ばれてきているのか」を、気をつけて観察する。自分の仕事が常に活気、躍動感があるよう工夫するのです。
世の中も見つめ続けなければならない。「料理がベジタリアンに傾倒してきているけれども、それはトレンドなのか。奥底には何があるのか」など、クリエイティブでい続けられるために情報収集しますし、魅力的なものをお客さまに提案できるようにしています。シェフは俳優と同じで、お客さまという観客なしには存在し得ません。お客さまを惹き付け続けるためには、お客さまの「このレストランに行きたい」という欲求を生み出す必要がある。新しくて驚きがあって、お客さまの好みで、お客さまの望んでいたものに合っていることが提案できること。これは簡単なことではありませんね。世の中の流れに常に目配りしていなければなりません。

「シュール・ムジュール」がバカンスの間は日本で活動なさっているということでした。それではシェフにバカンスはありませんね。

マルクス氏:
日本では仕事だけではなく柔道や剣道もたくさんしているのです。職業以外のこれらの活動が、私に物事を違った方向から見ることを可能にしてくれてる。私は職業の中に閉じこもっているわけではないのです。
大学も私に多くのものをもたらしてくれています。大学は私の視野を広げ、いい出会いをたくさんもたらしてくれる。私の料理にいい影響がたくさんあるのです。

そんなにたくさんのことを同時にするなんてすごいエネルギーです。

マルクス氏:
スパイラルであることが大切です。そこにはダイナミックさという相乗効果があります。

マルクスさんにとってプロフェッショナルな仕事とはどのようなものでしょうか。

マルクス氏:
お客さまの目をまっすぐ見て「あなたのためにこれを作りました」と言えること。つまり、恥ずかしい仕事をしていないということです。自分の仕事を自分で引き受けているということ。食材をしっかり自分で選び、自分のやり方で調理し、誠実にお客さまに差し出すことができるということ。料理が3万円したとしたら、3万円の価値があるとお客さまの目を見て言えることです。真逆なのが、「良い出来でなかったとしても気にしない」こと。それはアマチュアです。

東京にもお店があって、全て管理するのは難しくありませんか。

マルクス氏:
協力者と仕事をするようになると、そのエスプリ(精神)を協力者とも分かち合うようになります。銀座にいるアツコ(小泉敦子氏)が食材をきちんと選んでいると私は知っていますし、銀座店にいるスタッフは皆私と働いたことのある人たちです。
私もよく日本の店に行きますし、私たちが同じエスプリを持っていることを知っています。お客さまの目を見て「私が食材を選んで調理しました」と言えるようでいないといけないといつも言っています。

自分の仕事の結果は自分で引き受けるのです。アツコは10年以上私と働いている。辻調理師専門学校でも素晴らしい成績を修めましたし、私との仕事の中でも素晴らしい仕事をしてきました。私は長年一緒に働いてくれる協力者にはとても恵まれてきたんです。そして、一緒に働く人にも彼ら自身の表現をする機会を与えることが大切です。私の創作が80%だとしても20%はアツコの作品をお店に出します。自由に表現する機会があることは大切。アツコがもいつかは「自分のお店を持つことにします」と言う日が来るのも自然な流れです。だからこそ、先取りして機会を与えることが大事です。スタッフそれぞれがイキイキと料理を作れる環境を整えることもマネージャーの責任ですよ。彼らを閉じ込めて、ずっとついてくるだろうと考えるのは大きな間違いです。

現在は料理界のどのようなことに関心がありますか。

マルクス氏:
職業訓練についてです。お金のない人のための学校を作りました。フランス国内に5つあります。無料ですが、欠席や遅刻は許されず、内容も凝縮しています。料理とパン2つのコースがあり、12週で集中的に訓練を受けることができます。専門学校に行くお金がなくても私の学校で訓練を受けることができるのです。自分たちの暮らしに満足していない人たちが手に職をつけ、状況を変えるのに役立てることができます。外国人ももちろん参加できますよ。

Sur Mesure de Mandarin Oriental Hotel Paris(マンダリン オリエンタル ホテル)内観

■料理人という職業は自分を幸せにするためにするもの

料理人をしていてよかったと感じるのはどのような時ですか。

マルクス氏:
料理をしているときですね。魚を扱っているときも、集中して食材に向き合っているときも、料理をしているときはいつも幸せ。そういうとき、「この職業に私はずっと情熱を持ち続けるだろう」と感じます。料理から離れて生きることはできません。
火曜と木曜は必ず試作を作るのですが、とても楽しいひとときです。料理をしている時間が幸せなのはもちろんなのですが、誰かと料理についての意見や情報を言い合い、分かちあう時間も貴重です。

若いときは、とてもとても辛い時間もありましたが、私は乗り越えられるといつでも思っていました。いつか自分のレストランを持てるだろうと信じていましたし、自分の会社を持てるだろうとも。なので、先の心配はしていませんでした。お金がなくても、とても小さな部屋で眠る日が続いても、自信は持ち続けていました。

夢はどんなことですか。

マルクス氏:
自分の会社を育て続けること、学校を増やすこと。そしていつか私の小さなレストランを開きたい。8名か10名限定の、私がお客さまの顔を見て、お客さまと話しながら料理をするレストランを持つこと。フランスでも日本でもいいですね。

お客さまと向き合って、目の前のお客さまのために料理を作りたいのです。鉄板焼きのエスプリですね(笑)。この職業の神髄でもあると言えると思います。テクニックが必要で、動きも大事ですし、特にお客さまを前にして正確な仕事をすることが求められる。そしてお客さまは私たちの料理が何か、信頼することができるか、目で見て判断することができる。それはとても素晴らしいことです。

今、56歳ですがまだまだ料理を続けます。料理は私に元気をくれますし、何より私を幸せにしてくれるものなのです。自分が食べたいと思うようなものを自分で作り出していくのが料理人です。料理人という職業は自分を幸せにするためにするもの 。気持ちのいい職業です。悲しい出来事を扱う仕事、言いにくいことを伝えたりする仕事とは違いますし、詩を創作するような仕事です。仕事の内容自体が心地よいものなので、苦になるようなことはありません。

(聞き手・文:安發明子、写真:Hiroki TAGMA(料理はレストラン提供))

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