無料の調理師職業訓練校創設に、2050年の食糧事情の研究。人を育てる社会派料理人

Sur Mesure de Mandarin Oriental Hotel Paris(マンダリン オリエンタル ホテル)
Thierry Marx(ティエリー・マルクス)

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■不平等でも、自分の手にないものがいくつもあっても、それでも望んでいるものを叶えたいのであれば戦い抜く

キャリアの中でどのような困難がありましたか。

マルクス氏:
私は有名なシェフの教え子でもありませんし、有名な専門学校を出ているわけでもありません。いいシェフの元で働くことができましたが、すごく手を尽くして得たものです。成功している人の中には良い環境で育ち、有名な専門学校を出ていたり、有名なレストランの御曹司という料理人がたくさんいる。なので、私を認めてもらうことはとても難しいことでした。

けれど面白いのは、人生は戦いだと知ることができたこと。なりたい姿があったら、そうなれるように最後まで自分を導いていくということです。私たちはそれぞれ違っていて、人生で得られるものにおいて不平等でさえあります。不平等でも、自分の手にないものがいくつもあっても、それでも望んでいるものを叶えたいのであれば戦い抜くことです。何も諦めてはいけません。

若い頃にマルクスさんが叶えたかったことというのは、グラン・シェフになることだったのですか。

マルクス氏:
いいえ、違います。シンプルに、社会的な生活レベルを上げたかったのです。私の出身はパリ郊外の貧しい地域。ですから、お金のない暮らしから脱したかったし、美しい地域で暮らしたかった、欲しいものが買いたかった。私は今までこのことを忘れたことはありませんでしたし、今でも忘れていません。私たちは自分がどこから来たかは忘れないものです。忘れようとする人もいますが、私は忘れることがないままなので、今でも、あの環境に戻らないため、と思って働きすぎるくらいです。

有名なシェフの元での修業は困難がありましたか。

マルクス氏:
私はずっと柔道などのスポーツをしてきていたこともあって、何も困難とは捉えませんでした。身体的にもスポーツのおかげでいつもいいコンディションで仕事に臨めましたからね。柔道は6才からしていたのですが、そのおかげで同僚も私にはあまりちょっかいを出したり、いじめるようなことはありませんでした(笑)就業時間は確かにとても長いですが、私は自分の希望するシェフと働きたかったのでスポーツで磨いた戦闘意欲でいつも取り組んできました。そうやって欲しいものは実現することができてきたのです。

Thierry Marx Sur Mesure de Mandarin Oriental Hotel Paris(マンダリン オリエンタル ホテル)料理

■脚光を浴びる料理人になるためには、途方もない多くの仕事量、時間的犠牲が要求される

良い料理人になるために大切なこととは何でしょうか。

マルクス氏:
基礎を学ぶことです。あとで自由に創作できるからです。基礎がしっかりしていないと、キャリアが伸びにくくなります。若い人はブイヨンの作り方、魚のおろし方、そういったものを学ぶのがあまり好きではなく、盛り付けばかりしたがります。しかし味覚自体を養うためにも基礎が肝心。なんでも吸収して身につけようという姿勢でいることです。

昔はもっとレストランは時間をかけて料理人を育てていたと聞きます。

マルクス氏:
今は、レストランが望むことを若い料理人にさせていて、基礎をきちんと教えることはしなくなっている。なので、若い料理人はレストランを辞めたとき、 フランス料理のクラシックといえるようなものを作ることができないままです。
なぜかと言うと、そのメゾンの1つの仕事しか担当させてもらっていなかったので、そのメゾンでしている幅広いことについては学べないままになってしまう。
昔はまず基礎から教わっていました。これは大切なポイントです。話題になり続けているシェフ、つまりジョエル・ロブションやポール・ボキューズ(Paul Bocuse)、アラン・デュカス(Alain Ducasse)などは良い基礎をしっかり身につけているシェフたちなのです。

きちんと基礎を身につけているからこそ自由に創作しているのです。基礎を身につけていなければ、誰かの真似をすることしかできません。そして、そのような人は作家、創作家ではあっても料理人とは呼べない。私のキッチンでは全ての工程に携わり、基礎を身につける機会を与えています。魚をおろすことができない料理人は、料理を作れるようにはならないんです。まずは魚、肉、野菜をちゃんと切れるようになることから。

料理の専門学校を出たとしても、料理の道を続けるのは簡単ではないと言われますね。

マルクス氏:
いろいろなことをごちゃ混ぜに考えてはいけません。今の若い人は1つの職業にこだわることなく、いくつもの職業をすることができるのです。学ぶのも早い。脳みそが2つあるとも言える。1つの脳みそはiPhoneの中。必要なレシピがあればすぐに手に入れることができます。レシピはもうあるので学ぶ必要があるのは動作だけ。昔より早く身につけられるかもしれません。
いくつもの経験を併せもっていきたいと考えているので、最初パティシエがしたくて、そのあと料理をして、ちょっと時間がかかるなぁと思ったらそれが天職かどうか見極めます。フランス、日本、あるいは世界中どこの若者も、今は職業経験をいくつも重ねることを好みます。料理をしていても次はパティスリーがしたくなって、その後違う仕事をしたいという、現代社会はそのようなものですよね。

さらに、テレビ番組や雑誌でシェフがスターのように扱われるのを見てきているので、料理人の仕事を美化して考えているところがある。けれど、実際スターのようなシェフになること、彼らに並ぶにはものすごく多くの仕事量、時間的犠牲を要求されるのです。そのことにやっと気がついたとき、この職業を続けることを諦めてしまう。それが、料理の道を続ける難しさです。

むかしと今ではメンタリティの面で違うところはあるのでしょうか

マルクス氏:
私たちの世代はキャリアが欲しかった。仕事で何かを成し遂げるために、何年もかけていた。でも、これからの新しい世代の面白いところは、様々な経験を生きたいというスタンスがあること。良い意味で仕事への犠牲の精神が無い。

職業的な経験も含め、いろいろ経験したいので前向きです。私の世代は選択肢は多くなかった。偶然、私はパティシエ・軍人・料理人と3つ経験したので当時は不可解と思われていましたけどね(笑)今ではそれは普通のことです。

料理の道を続けたい若者をどのように励ましていますか。

マルクス氏:
もし仕事をしていて疲れているなら休めと言います。心配になりますから。でも、肉体的に大変、体力がいると思っている人がいるとしたら、正しい動きを身につけていないか、段取りが良くないかが原因のことも多い。必要のない動きをしすぎているとかね。正確な動きを身につけるにつけ、サヴォワール・フェール(仕事の技)を身につけるにつけ、身体的・時間的な制約から自由になるんです。始め体力がきついと感じるのは、仕事の仕方をまだ十分学んでいないから。一度段取りよく仕事できるようになれば、あとは成長していくのみですよ。

練習を嫌がる人が多いのは、習得にかける時間もインターネットの時間軸で判断するからです。Youtubeで魚のさばき方を見て真似をすればできると思っていませんか?そんなことはありません。実践を積み練習して初めてできるようになるものです。
仕事をする前にあまりにたくさんイメージを膨らませすぎているので実際うまくいかなかったり時間がかかって落胆するのですが、それでも、たくさん実践することが大切なのです。忍耐強くいないといけません。

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