“パリを愛し、パリに愛される”と謳われるカフェのギャルソン。目指すは人間讃歌を体現するサービス

Café de Flore(カフェ・ド・フロール)
山下 哲也

Café de Flore(カフェ・ド・フロール) 山下哲也

■世界の頂点を見たかったからパリへ来た。パリ文化継承の担い手になるということ。

山下氏にとってフランスに来ることの意義とは何だったのでしょうか?

山下氏:
日本でもフランスでも、プロフェッショナルな仕事を、中身を伴ってやり続ければ認められるという自信はありました。

表参道時代に自分だけ歩合制の契約で働き始めた頃から、なんとチップを貰えるようになって、最初は1ヶ月で1000円くらいだったのが、月4万円くらいまで増えて、嬉しいことに他のギャルソンも貰えるようになったり。「君は本物のカフェのギャルソンだね」と言ってくれる常連の東大仏文教授がいたり。僕の場合は表参道時代も世界を見据えていたので、パリの人からしたらどう思われるか?パリで通用するようなサービスとは?ということを考えに考えて、さらに考えて日々の給仕に勤しんでいたからこそ、現在の自分があるのだと思います。

パリに来たのは、世界の頂点の舞台で自分にできることを自分の目で確かめたいという気持ちがあったから。
パリは世界中からあらゆる人が来ます。世界の首都と言われているパリでギャルソンをすることは、それだけ広い世界が自分の目の前に広がっているということ。その中でやった方が厳しいし愉しいと思うんです。仮にサッカー選手だったらJリーグでプレイし続けるのと、イングランド・プレミアリーグやスペイン・リーガエスパニョールでプレイしてみるのとでは世界観が違うと思うんです。世界のトップチームといわれているところでレギュラーでプレイしていた方が、あらゆる意味で刺激的で愉しいでしょう。それに挑戦するか、挑戦しないか。

そのうえ、フランスではカフェの文化そのものを継承している者としてサービスしなければならないという責任がある。パリのエスプリを感じてもらうサービスです。文化の担い手として、勉強して自分のものにして相手に伝えるという仕事。
『パリは……青春を送るのはうってつけの場所だ。それは、男の教育にはなくてはならない時間である。』と僕の大好きなヘミングウェイは書き残しています。

日本のサービスに対する考えを教えてください。

山下氏:
『哲也がもっとしっかりしなきゃダメだよ。もっと前に出て、哲也を目指してサービスする人間がもっと生まれないと』と周囲からはよく言われます(苦笑)。

シェフは既に人気業種だし、ソムリエもフランスに来る人は多いですね。ソムリエもきっと田崎真也さんという存在があるから。サービスも誰かいないと。サービスなら言葉は話せないと、ということはあるにしても、挑戦する人さえ少ないのは意識の高いサービスマンが国内にも少ないということだと思います。歯がゆい。

例えば恵比寿のジョエル・ロブションのメートルドテル宮崎君みたいな個人でお客さんをつくれるサービスマンが増えると、レストラン業界全体がもっと面白くなると思います。日本人は研究熱心で器用だけれど、その気質をちゃんと相手を愉しませられるように体現していかないといけない。いくら知識や技術があっても、的確なものを提供した時点で日本人の美学としては、そこで完結してしまうのかもしれない。けれどそこでちょっとお客さまの心を踊らせる、少しウキウキさせる、テンションを上げさせる、そういう一言だったり、トータルなプレゼンテーションだったり、そういうのが足りないんです。

あとは、日本で「良い」とされているサービスが必ずしも世界のスタンダードではないということを認識する必要があるのかな?と思います。意識改革。日本人だけでなく、もっと視野を広げて世界を見据えるべきで、今後はますますその必要性が強くなると思います。せっかく『おもてなし』という素晴らしい精神があるのですからね。

お客さんがカフェに求めるものは、日本とフランスでは違う気がします。

山下氏:
フランスのカフェは、お客さまのみならず給仕人にとっても舞台であると言えるかもしれません。各人がその舞台を演じる俳優であり女優です。その舞台のタイトルはずばり「人間讃歌」です。

日本では自分たち自らが愉しむという感覚が残念ながら足りないのかな、と思います。
この違いを文化の違い・国民性の違いという一言で片付けてしまってはいけないんじゃあないかな?!

Café de Flore(カフェ・ド・フロール) 山下哲也

■東京で、100年後に世界最高といわれるカフェを創る。

山下氏は東京でカフェをオープンするプロジェクトがあると聞きましたが。

山下氏:
まだあくまでもプロジェクトなので、お手柔らかにお願いします(笑)。カフェの本質を誰よりも理解しているという自負があるので、あくまでも王道で勝負します。

なぜ、パリではなく東京で?

山下氏:
日本人だから。やっぱり自分の夢を実現したいですからね。実はその昔表参道時代に「次に東京でオリンピックが開催されたらカフェを創る」と周囲に語っていたんですよね(笑)。

だから滝川クリステルちゃんが「お・も・て・な・し」のプレゼンテーションで2020東京オリンピック開催が決定した瞬間、覚悟を決めたというか、渡仏した時と同じ様な意志を孕んだ予感に駆られました。

フランスを愛しているしフランスに全てを与えてもらったけど、フランスに憧れがあるわけではない。みんな誤解しているけど、フロールのギャルソンになることが夢であったことはない。僕はフロールという世界最高のカフェで勝負したくてパリに来た。その意味においては自分がこの目で確かめたかった景色はもう見た。それに、最近は僕がカフェ・ド・フロールの一番いいギャルソンだと言われる。正直複雑な心境ですよね、フランス人の常連さんからそう言われるのは。自分がフランスを好きだから尚更。

世界を魅了する文化を持っているのに、それを担うギャルソンがいないことが哀しくて。サービスの質だけでなく、全体として「これがパリのギャルソンだ」と感じさせる人材がいないということです。

山下氏が創るカフェでは日本でフランスの文化を正確に体現したいということなのですが、具体的にはどのようなことを考えていらっしゃいますか。

山下氏:
20年前だったら外国の真似でも良かったのかもしれませんが、日本人の良さ、日本人の感性、日本のいいところとフランスのいいものを合わせたものを創るつもりです。外観と内装はフランスのクラシックなカフェ、サービスは日本人よるア・ラ・フランセーズ、そしてメニューにはおにぎりがあるみたいな!?結果として、フランスへの恩返しになるものにしたい。

「人間って素晴らしい」ということ、温かみ、人と人との関係。日々殺伐とした中で人間的な温かみを感じる空間。サルトルは「カフェは避難所である」と言っていたんだけど、まさにその通りで、一人では生きていけなくて、人のぬくもりだったり、人がいるとこに行くことによって日々の潤いにしている人たちがいる。そういう場を創ることに意義があるんじゃないかと思います。

日本は自分のテーブルで確立してしまっているものが、フランスは横のテーブルとのつながりもあったりします。同じ時間同じ空間を分け合い、ちょっとした拍子に話しかけたり、それがカフェの良さでもあります。

日本はお店の人もあまりお客さんに話しかけないけど、話してもいいという環境を創造して、そこで生まれるお店の一体感。お客さんがエントランスから入ってきたら、店内にいるお客さん全員が一瞥くらわせる様な心地よい緊張感のあるカフェ。お客さまにとってもそこが舞台になるようなカフェ。それはパリを愛しパリに愛される僕なりのアンチテーゼであり、パリのカフェへのオマージュでもあります。

スタッフの人選が要ですね。

山下氏:
募集中ですよ(笑)。原宿・表参道界隈のカフェに従事していた同年代の仲間が集結したらあらゆる意味で面白いんですけどね。お互い今日まで色々な人生経験を積んできたと思うので。そんななかに20歳ぐらいの生意気な少年がいたら最高です。

経験は大事です。今でも一時帰国したら必ず行く、25年以上通っているとんかつ屋さんがあるのですが、ご多分に漏れず今は観光客が多いんですよ。でも、そこで昔から働いているおばちゃんは英語を一言も話せなくても、誰よりも的確だし、どんなお客さまもさばける。サービスとはそういうことです。

「ローマは一日にして成らず」ではないですが、すぐに結果が残せるものではないので、本人もそういうスタンスでいてほしいし、お店もそういう余裕を与えてほしい、お客さまにもサービスマンを育ててほしい。継続性です、1年2年ではできないものです。サービスは若くてできることは限られていますしね。

表参道時代に毎日エスプレッソを出していたお客さまがいて、ある日オレンジジュースを注文したから「風邪でも引きました?」と初めて話しかけて、それから少し話すようになって。その方は今でもパリに来ると必ずフロールに会いに来てくれます。お客さまにとってはいつも見てくれて自分の好みを分かってくれる、そんな些細なことが嬉しかったりするんです。ちょっとしたことでお客さまの心がつかめたり。日々の積み重ねで突然できることじゃない。

60歳までギャルソンをしますか?

山下氏:
渡仏した際は生涯フロールでギャルソンして引退したいと考えていましたが、東京にカフェを創ったら総支配人としてお店に立つことになるのでちょっと後ろ髪を引かれる思いです。でももしかしたら、本当に60歳までフロールでギャルソンをしているかもしれませんよ?!(笑)それはそれで、人生です。

Café de Flore(カフェ・ド・フロール) 外観

Café de Flore(カフェ・ド・フロール)

お問い合わせ
+33 1 45 48 55 26
アクセス
172 Boulevard Saint-Germain, 75006 Paris
メトロ4番線Saint Germain des Près
営業時間
7:30〜25:30