“パリを愛し、パリに愛される”と謳われるカフェのギャルソン。目指すは人間讃歌を体現するサービス

Café de Flore(カフェ・ド・フロール)
山下 哲也

Café de Flore(カフェ・ド・フロール) 山下哲也

■仕事で得られる歓びのため、常に役者であり続ける

毎日の生活でも、常にプロ意識を感じていらっしゃるのですか?

山下氏:
そうですね。僕は週休2日で働く一週間、寝る時間も起きる時間も食べるものも全部決めています。自分のベストコンディションで毎日を送りたいから。僕はこれを「偉大なるルーティーンワーク」と呼んでるんだけど、ルーティーンを崩されることが大嫌いだし極力避ける。それが僕のポリシー。

何かを犠牲にしているという捉え方をする人もいるかもしれないけれど、僕にとってはギャルソンをしているときが快楽だから、一日24時間をそのために費やしたい。睡眠時間が短いのが嫌いだから、仕事を始める時間から逆算して寝る。決めた時間に起きてシャツにアイロンをかけて。予定外のことが発生すると機嫌が悪くなります(笑)

また、フロールで錚々たるお客さまたちを迎えているから、その事情とかは知っておかないといけないとは思っています。フランスのゴシップ誌も読んだりとか。自分の仕事に対して大切だと思うことは全部してる。だから自分にとってオンとオフってなくて、オフはあくまでもオンの時に100パーセントの自分を出せるため。食べるものもすごく気にしているし。いろんなことに好奇心を持って過ごしている。

仕事をする5日間に関してはスイッチが入ったままだなんて、すごいですね。

山下氏:
オンとオフとかはないですね、好きなこととかも。僕は趣味がなくて。いわゆる“無趣味のすゝめ”です。南フランスに行って日焼けしながらヴァカンスを楽しんでも3日まで、4日目はもう飽きてくる。じっとしているのが嫌になる。仕事大好きというか、病いです(笑)。

「仕事の中のマニアックな歓びがあるから続けられる」と言ったけど、それを見つけたのが、大学4年の時なんですよ。

表参道の向かいのカフェ・デ・プレが1998年1月末に閉店になって、お客さんがみんなフロールに流れてきたんです。大学4年の同僚はみんな卒業旅行や就職で辞めていって、残された僕は26日間休みなしで昼12時から夜中12時まで働いてた。1人で30テーブルくらい担当して。当時から自分で追求していたのが「より速くより強くより美しく」なんですが、五感を極限状態で給仕しているなかで不思議な感覚を味わったんです。無我の境地で、意識せずに身体が勝手に動いて、その境地でギャルソンするといつも気持ちがいいんです。

Café de Flore(カフェ・ド・フロール) 山下哲也

この快楽って何なんだろう?以前にも体験したことがあるな、と感じました。何かというと、高校3年のときのサッカー都大会決勝のときで、そのゲームで僕は生涯最高のプレイをしたんですが、そのとき相手の学校のブラスバンドの音楽が途中から聞こえなくなって…

ギャルソンしていて一番いいときって自分の頭の中で音楽が聞こえ出すんです。その感覚が忘れられなくて、いつも出会えるわけじゃないんですが、いろんな要素が組み合わさって、かつ、ある程度忙しくないとならない。

ファッション・ウィーク期間中の怒濤のなか、あるいは真夏お客さまの大半がテラス席に陣取るので室内席は人気も疎らでフロールの二階と一階を両方独りで担当している時etc.に至福の音楽が聞こえてくる。絶好調のときは何がどこでどうなっているかをちゃんと身体がわかっているんです。そして、感応した身体が最高のパフォーマンスを為してくれる。そのときの快楽は半端なものではなくて、他のことなんてもうどうでもいい。他のこと全部どうでもいい。この時間のために他の時間はあるようなもので。これが、僕なりの愉しみになっているわけなんです。

■ギャルソンは、個人としてのスターを目指していける

サービスの魅力とは何なのでしょうか?

山下氏:
自分との戦いだということですかね。サービスの何が好きかと言ったら、自分の肉体しか頼るものがない、裸一貫で勝負できる、勝負しなければいけないというところです。その中で大切なことは、厳しくても大変でも、自分が愉しいと思えるかどうかです。

その一方でフランスのギャルソンたちはどこか子どもっぽくて、そこがチャーミングだったりしますが、そもそもギャルソンという仏語は「少年」ですからね。ある種の遊戯心はたいせつです。例えば新しいお客さまが来たときに自分の身体の向き1つでお客さまを自分の担当している席の方に誘導する。ある種のゲームで『お客さまに分からない様にエレガントにする』というルールのなかギャルソン同士張り合っていたりする。

では、その中でもカフェのギャルソンの良さとはなんなのでしょうか?

山下氏:
まず前提として、ウェイターとギャルソンの違いは、ウェイターは受け身で、ギャルソンは能動的であることなんですよね。システム的な違いもありますが。歩合制だと、稼げなかったら自分がダメということ。だから自分のためにしている仕事という意味合いもある。ウェイターは仕える、待つ、ウェイターという意識だと愉しさも半分なんじゃないかなとぼくは思ってます。

レストランはエキップ(チーム)で動きますね。僕はレストランのサービスは正直言うと、あまり興味ないんです、変わり者なので(笑)。個人を磨きたいんだったらカフェが良いということだけは断言できますね。

Café de Flore(カフェ・ド・フロール) 外観

Café de Flore(カフェ・ド・フロール)

お問い合わせ
+33 1 45 48 55 26
アクセス
172 Boulevard Saint-Germain, 75006 Paris
メトロ4番線Saint Germain des Près
営業時間
7:30〜25:30