“パリを愛し、パリに愛される”と謳われるカフェのギャルソン。目指すは人間讃歌を体現するサービス

Café de Flore(カフェ・ド・フロール)
山下 哲也

Café de Flore(カフェ・ド・フロール) 山下哲也

■プロフェッショナルな仕事を、中身を伴ってやり続ければ認められる

サービスの仕事は続かない人も多いと言われていますが。

山下氏:
サービスの仕事は形に表せないものだから、達成感を感じづらいのかもしれません。評価もされづらいので続きにくいのかなと思います。

始めて一年や二年で得られるものはないと思ったほうがいい。肉体的にもきつい仕事だし。続けていくにはマニアックな個人的な歓びをサービスの中で発見していくことです。僕はそれがあるから続けてこれたと思ってます。

愉しむこと。けれど、「楽」と書く「楽しむ」は嫌い。決して楽ではないから。でも続けていれば愉快な愉しみは得ることができるよ、と言いたい。普段自分が出会えない人に出会えたりするし、いろんなジャンルの人に出会えるという意味でも面白いし。

サービスマンは、個人の人気の有無が目に見える仕事ですよね。

山下氏:
確かに、人気の有無が明確にわかってしまうという点においても厳しい世界です。ただ、他のサービスマンとの競争や比較をポジティブに捉えるべきだと僕は思います。

大事なのは、各々が自分自身の個を磨くことです。サービスマンとしての自分の長所・短所は何なのか?を日々の仕事のなかで考えに考え、他の誰のものでもない自分だけのスタイルを確立する。まったく個性の違うサービスマンがいるお店は面白いし、それはまるでシンフォニーが奏でる音楽の様にお客さまを魅了するものです。

コンクールなどはあったりするのでしょうか。

山下氏:
カフェのギャルソンという世界にはコンクールとかはないんですが、むしろそのアマチュアっぽさが好きです。100人のお客さまがいれば、100人最高のギャルソンがいる世界だと思う、それがいいなと思っています。例えばメートルドテルは世界大会があってサービスが評価されたりもしますが、その人が一番お客さまを楽しませているかと言ったら、それは必ずしも直接はイコールではないと思う。結局はお客さまが決めることだと思います。

技術を磨くために心がけてきたことはありますか。

山下氏:
反復作業。この1つのグラスをどう持つか、どう置くか。そのためにはこのグラスを自分のものにしなければならない。幸運なことに、表参道のフロールで使っていたものとパリで使っているものは同じなので、20年間同じものを触っているので、自分のものになっています。ドリンクを用意するセッティングも、見なくても全部お店のロゴを正面にセットするよう体が感覚で微調整できて、人間の肉体はすごいと思います。それは僕がすごくこだわって、すごく意識してきたからで、一人一人のお客さまに給仕するとき、このようにしたらこのように見えると考えながらしてきた結果、自分なりに極めたものは今では無意識の中で美しくできるようになっています。

日本人は器用ですが、きれいなサービスで終わってしまう。きれいで、清潔で心地は良くても、美しいというのはまた違う。美しいものは人の心を打つものです。美しい仕事をして初めて感動を生むと思います。

Café de Flore(カフェ・ド・フロール) 山下哲也

■古き良き時代から学んだ、洗練された立ち振る舞いを演じる

山下氏には師匠や影響を受けた人物はいますか?

山下氏:
引退したカフェ・ド・フロールの総支配人フランシス・ブサール氏。彼のフロールという舞台にかける情熱とかエスプリとかは、脈々と自分の中に引き継がれて流れています。師匠とは言わないまでも、いろんなギャルソンのいいところをそれぞれ必ず観察して、いいところを自分の中に取り入れているから、いろんな人の影響を受けています。

ギャルソンとしての立ち振る舞いなどは、他のギャルソン以外には何を参考にされているのでしょうか?

山下氏:
僕は料理学校やホテル専門学校などに行ったわけでもないし、独学なので、おそらく王道とは違ったアプローチをしてきてるんですよね。フランス人俳優アラン・ドロンの歩き方を真似てみたり、立ち居振る舞いは60年代70年代のフランスやイタリアの映画から学んだり。古き良き時代の良さを大切にして自分の役作りに役立てています。

プロとして哲学にしているようなことはありますか?

山下氏:
サルトルは「フロールのギャルソンは、フロールのギャルソンを演じている俳優である」と言っていますが、「フロールのギャルソンてどういう役なんだろう?」と考え、舞台に立つためには役を理解しなければならないし、役作りをしなければならない。そこはすごい大事。ギャルソンはフランスの文化そのものなんだから、そこの自覚は大事だと思います。

「お客さまは神様である」という言葉の本当の意味は、そもそも歌手の三波春夫さんが「自分の舞台は神様の前だと思って自分の最高の舞台を演じなければならない」という意味で言ったといわれています。

僕も、「もしかしたら誰も見ていないかもしれないけれど、常に最高のものを見せなければいけない」という意味でこの言葉を捉えて日々仕事しています。感覚としては「魅せて見せる」あるいは「見せて魅せる」という感じ。

変に『お客さまを喜ばせよう』と思わない方が良いんじゃあないかなと僕は思います。あくまで自分の中で最高の仕事をする。その結果としてお客さまに良いと思ってもらいたい、僕はそういったアプローチです。

自分が最高のパフォーマンスをするのは、あくまでも自分の歓びのため。結果的にお客さまの愉しい時間を演出することができたらという気持ち。乱暴な言い方をすると、僕は自分の快楽を求めて給仕している。自分の理想を追い求めた結果、エレガントなサービスと言われたり美しいと言われたりして、感動してくれるお客さんがいる。そもそも、サービスしている人間が愉しそうにしていなかったら、そのお店でいい空気は流れないだろうし、お客さんも居心地いい時間を過ごせないと思います。自分のパフォーマンスで最高の舞台を見せようという気持ちに尽きる。舞台のために準備があり仕込みがある。

舞台で自分のことを100パーセント表現する。それ以上でもそれ以下でもないですね。舞台に上がる前に準備することとか、舞台が終わった後、次の舞台に備えてするべきことをするとか、そういうことに対してはすごいプロフェッショナルにしています。

Café de Flore(カフェ・ド・フロール) 外観

Café de Flore(カフェ・ド・フロール)

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+33 1 45 48 55 26
アクセス
172 Boulevard Saint-Germain, 75006 Paris
メトロ4番線Saint Germain des Près
営業時間
7:30〜25:30