ありったけの情熱を注げる目標を見つけた幸せ

スペイン料理 アカ(aca 1°)
東 鉄雄

東鉄雄 スペイン料理 アカ(aca 1°)

■本場スペインで見つけた理想の料理。9年間のキャリアを手放し、武者修業に。

小さな店舗を任されて、新しい仕事の魅力に気づいたわけですね?

今までは周りのスタッフに遠慮してできなかったことも、自分の責任でできるようになって、一皮むけたのだと思います。

「ラ・マーサ」では定期的にスペインでの研修があり、何度か本場の料理を見て勉強していたのですが、ある時、今までに経験したことがなかった料理と出会いました。

スペイン料理のテイストは残しつつ、すべての料理がとてもおしゃれで、食べる人に驚きを与えてくれるようなメニューです。「なんてカッコいい料理なんだ!」と思って、もっともっと料理を本格的に勉強したくなりました。

日本に帰ってきてからも料理の専門書を買いあさって、いろんなレシピを見たり、有名なシェフのインタビューを読んで、スペイン料理のことを勉強し直しました。そして徐々に、これまでの「ラ・マーサ」とは違う料理に挑戦してみたくなっていったのです。

めざしたのは、一皿のクオリティに徹底してこだわり、素材も厳選した料理。日本にはなかったスペイン料理を提供するような店をつくってみたら、きっと上手くいくだろうと確信が持てました。

自分がめざすべき理想のスタイルが、徐々に明確になっていったわけですね。

そこである時、自分の考えを思い切って木下オーナーに提案してみたのです。創意工夫にあふれたスペイン料理店を、京都でオープンしてみてはどうですか、と。

しかし、私の理想が必ずしも、オーナーの理想とは一致しません。「ラ・マーサ」をはじめとした木下オーナーの店は、アラカルトが基本です。コース料理を出す店を作るつもりはないよ、とおっしゃいました。

店舗が増え、会社としてスペイン料理店を経営するようになっていましたから、めざす方向が違います。しかし、オーナーに提案を受け入れてもらえなかった後も、どうしても諦めることができません。

せっかく見つけた理想のスタイルです。上手くできる自信もありました。ならば自分でやってみてはどうだろうか。そこで初めて独立を考えました。オーナーに相談したところ「やりたいことをやればいい」と背中を押してくださったこともあり、決心がつきました。

独立に向けて、どんな準備をされたのですか?

やはり、スペインで一から勉強しなければいけないと思いました。ミシュランの星を取っているようなレストランで、実際の仕事を通して技術を磨く必要があります。思い切って家族に打ち明け、当面の生活費だけを用意してスペインに向かいました。

しかし、現地に行っても働くあてがあるわけではありません。見当をつけておいたレストランには、先に英語の履歴書を送っていたので「後は現地で何とかなるだろう」と考えていましたが、とんでもない甘い見込みでした。

どのレストランに行っても相手にされません。ちょうどスペインの景気が悪く、就労ビザも持っていない日本人なんて話にならず、相手に呆れられるようなありさま。

そんな風に途方にくれていた時、ある日本人からレストランを紹介していただけたのは、本当にラッキーでした。藁にもすがる思いとは、まさにあの状況ですね。

そのレストランでは、どんなことを学ばれたのですか?

その頃に流行っていた料理もたくさん見て勉強できましたし、テクニックに優れたシェフの技も目の当たりにしました。

ですが、日本の料理も決して負けていないんだな、と思ったのも正直な感想です。現地の料理は、確かに技術的に素晴らしい部分もあるのですが、素材の良さを引き出すという点では日本も劣っていません。

スペインの良さを取り入れつつも、日本で培った経験や日本の感性を生かせば、きっといい料理が作れると思いました。もっともっと素材にこだわれば、新しい魅力を見いだせると確信しました。

東鉄雄 スペイン料理 アカ(aca 1°)

■オープン3年目でミシュランガイド一つ星を獲得。

そして日本に帰国し、いよいよ自分の店をオープンされるわけですね。

実現したい理想の形ははっきりしました。ですが、現実的な問題は山積みです。一番困ったのが、どこに店を出すかということ。もちろん予算の都合もありますから、そんなにいいい場所では賃料を払えません。

帰国してからずっと探していたのですが適当な場所がなく、いたずらに時間だけが過ぎていきました。そんな時に助けてくださったのが木下オーナーです。

私にとって転機となった店舗である「フイゴ」を閉店させるとのことで、良ければその場所で店をやらないか、と。つまり、この店はもともと私がいた店なんです。そんな経緯を経てようやくオープンできたのが、「アカ(aca 1°)」というわけです。

オープン初年度は、どんな様子でしたか?

とにかく試行錯誤の連続でした。食材にフォーカスを当てて、スペイン料理の良さを引き出そうと思い、最初はスチームコンベクションを導入するなど、新しい料理にも挑戦しましたが、どうも私が思う料理とは違います。

それはそれで上手くできるのですが、ホテルの料理のような堅苦しいものではなくて、もっと大胆なものができないかと思い、炭火で調理するなど工夫を凝らしていき、少しずつ今の形になっていきました。

食材に関しても、経験がない新しいものをあえて使うようにしていました。魚屋さんが勧めてくれる食材はとりあえず使ってみて、ダメならダメで何とかしていくという感じです。

経営の方は順調だったんですか?

料理に試行錯誤すると同時に、売上も考えなくてはいけません。ただ、オープン1年目というのは、どこの店も好調なんです。雑誌の取材もたくさん来てくださいますし、お客様が途絶えることがありません。面白いもので、2年目になると途端に取材の依頼もなくなってしまうんですけどね(笑)。

特に危機感を持ったのが、アラカルト料理で売上を作っていくことの限界です。雑誌に取り上げていただき、毎日予約が入るのですが、まったく客単価が伸びません。他のお客様の予約を断っているような中でも、雑誌に掲載された料理を一皿だけオーダーして帰ってしまうお客様もおられたり…このままではとても続けられないと思いました。

できるだけ早くコース主体にしていかなければ先がないと痛感した1年目です。

スペイン料理 アカ(aca 1°)

方向性を大きく変えるには、リスクもあったのでは?

もちろん難しい選択でしたが、最初は6500円と8000円のコースで提供することに決めました。いまは、コースは12,000円になっているのですが、コストパフォーマンスにはこだわっています。

お店を出す時にミシュランを取れるような店にしたいという想いがあったんです。それで自分なりに獲るにはどうしたらいいかというのを分析して…

まず徹底的に食材にこだわること。コースで食べて欲しい料理を提供し、満足度が高い料理を提供すること。

予算が許す限り良い食材を仕入れて、私がお客様に食べて欲しい料理をできるだけたくさん提供する形です。料理だけでなく、お客様から見える部分にも細かな点まで気くばりするよう徹底しました。

これはあくまで私の想像なのですが、開店したてのお店は5年以内でないと調査員が来てくれないお店になってしまうと思っていたので、自分なりに焦りのようなものもありました。

お金が余っているわけではありませんが、少しでも余裕があれば食器を買い足したり、椅子やテーブルを上質なものに変えたり、利益はきちんとお客様に見える形にして還元することを続けています。先輩料理人の意見もうかがっていろいろ試していった結果、ミシュランの一つ星をいただけるまでになれたのだと思います。

スペイン料理 アカ(aca 1°)

スペイン料理 アカ(aca 1°)

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