素材の味をきちんと感じる料理を作っていく

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吉田 徹
ORIGIN 吉田 徹

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■好奇心こそが、成長の原動力

編集部:
料理人を目指すようになったのは、いつのころから?

吉田氏:
父が料理人で幼稚園の頃から父の仕事場が僕の遊び場でしたね。継いでほしいということは言われなかったですが、その環境で育ちましたから料理人を志すのは自然なことでした。

編集部:
自分の店を持ちたいと小さい時から思っていたのでしょうか。

吉田氏:
いえいえ、そんなことは全く思っていませんでした。当時は「料理の鉄人」などテレビでも料理人がフォーカスされていて憧れる気持ちはありましたが、いつも忙しくしている父の姿を見て自分で店をやるというのは大変そうだなぁと思っていたぐらいです。ですから学生時代、最初にアルバイトとして入ったのも個人店舗ではなく、レストラン事業を展開するような企業でした。

編集部:
大きな職場の方が、自分には合っていると?

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吉田氏:
そうですね。当時はそのように思い高校卒業後「HOTEL ANAGA」のレストランで働きました。現在「365日」というパン屋をやっている杉窪さんと職場を共にした思い出深いお店です。いろいろと良くしていただきました。

編集部:
高校を出て働きはじめたということですが、社会人生活はいかがでしたか?

吉田氏:
大人の中に子供が1人紛れ込んでいるような、そんな感じでしたね。お皿を洗ったりするだけの仕事でしたが、周りの先輩たちから可愛がってもらって楽しかったです。

編集部:
その会社には、どれぐらいいらっしゃったのでしょうか?

吉田氏:
2~3年ですかね。ホテルレストランに勤務することになり、ルームサービスなども1人で担当させてもらっていました。シーズンオフになると時間を見つけては厨房にあったいろんな料理関係の本を読み勉強していました。

有名なシェフの記事を読んでいるうちに実際のお店にも行きたくなってきて、休日を使って東京の有名店をいろいろと食べ歩くようになりました。そうこうしているうちに、自分も有名な店で働いてみたいなと。

編集部:
すこしづつ心境の変化があったのですね。料理人にとって食べ歩きは大切な仕事の1つのようなものなのでしょうか。食べに行かれたお店でどんなことを感じたり、学ばれたりされるのでしょうか。

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吉田氏:
食べ歩きは単純に食べてみたい、どんな料理を提供するのか知りたいという気持ちだけです。いろんな料理を知りたいという「好奇心」ですね。これまでそのシンプルな好奇心に従って歩んできた気がします。

編集部:
料理人のみなさんは、料理のどんなところに関心があるのか気になります。

吉田氏:
食に関わることなら何でもですよ。京料理も、和菓子も、お茶も。知っていると知らないは大きな違いがあります。フランス料理にしても、有名レストランの料理を知っておかないと正しい比較ができません。たくさんの料理を知って、自分の料理に落とし込めたらいいのではないかと思います。

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■料理を知る前に、社会人として恥ずかしくない人間になる

編集部:
その後、東京で働かれることになられるんですね

吉田氏:
料理雑誌にたびたび登場されていたお店だったのですが、雑誌のシェフのインタビューを読んだところ、ものすごく心に刺さりました。

編集部:
働かせてほしいと言って、すぐに働くことに?

ORIGIN 内観

吉田氏:
はい、タイミングもよかったのだと思います。快く承諾いただきました。

編集部:
印象に残っているエピソードなどはありますでしょうか。

吉田氏:
料理やサービスのことよりも、社会人としてちゃんとしなければいけないということを一番に教えていただきました。

昔の料理の世界といえばちょっと素行の粗いような人が多かったそうです。「料理人=だらしがない人間」といったイメージになってしまっては料理人の立場は向上しません。だから社会人としてきちんとしておくことを指導されたのだと思います。怒られることと言えば、そういっただらしない態度に関することでした。

編集部:
私もいろんな料理人の方とお会いさせて頂くのですが、挨拶と礼節がやはり大事だとお聞かせいただくことが多いです。それに一番私が感銘をうけたのが、職場も整理整頓が行き届きとても清潔なこと。
お客様から見えない場所もここまで綺麗にしているのか。と料理人の方々のモラルの高さを知ることができました。

ORIGIN 内観

吉田氏:
シェフはとても丁寧に教えてくださる方で、分からないことは懇切丁寧に説明していただきました。僕が不出来で、何度も同じことを言わせてしまい怒られることもありましたが、今となっては本当に懐かしいです。

編集部:
どれぐらいいらっしゃったのですか?

吉田氏:
ほんの1年ほどです。情けないですが続きませんでした。シェフはすべての皿に100%を追求するとても意識レベルの高いシェフでした。99%の出来はゼロと同じというお考えでしたから、当時の僕は二十歳そこそこでしたし、そのスタンスに付いていくことですり減ってしまったんです。

編集部:
なるほど…、経歴だけではわからない話ですね。その後、フランスでの料理修業に行かれたのはどういった経緯だったのでしょうか。

吉田氏:
お店も転々とし、料理人としての方向性などに悩むことも増えていた時、フランス帰りのシェフの方にお会いし、自分も海外で修業することに興味が湧いてきました。それまではそこまで海外で修業したいと全く思っていなかったのですが、その方にチャンスがあるならば行った方がいいと言われたのです。

当時の年齢でいうとワーキングホリデーもギリギリでしたから、これを逃せばもう人生でそういうチャレンジもできないと、思い切ることにしました。

編集部:
その時の年齢は?

吉田氏:
29歳でした。そのまま6年も過ごすことになるとは当時は思っていませんでした(笑)

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画像:店舗提供

■誰もが食をリスペクトするフランスの食文化

吉田氏:
まずはニースのレストランで働いて、その後はパリに行きました。パリ中のレストランに手紙を書いて、束で郵便ポストに投函したのを覚えています。

編集部:
急な渡仏で準備もできなかったのではないかと思います。言葉は苦労されたのではないでしょうか。

吉田氏:
全然フランス語も分からなくて、結局5件のレストランから返事をいただいたのですが、電話口で話をしても何も分かりません。相手のレストランにとってはいい迷惑だったと思います(苦笑)。下手なフランス語で日本人が手紙を送ってきて、電話してやったら全然話が通じないわけですから。

編集部:
それでも働き口を見つけることはできたのはすごいです。
フランスで6年間いれたというのは、フランスが性に合っていたのでしょうか?

ORIGIN グラス

吉田氏:
慣れるまでははやりストレスも感じましたし、決していいことばかりではありませんでした。下宿先の下水はすぐに詰まるし、鍵も壊れるし。でも、フランスは他人に干渉しない国ですから、自分で何でもやる習慣が身につきました。それと日本でのキャリアを一度ゼロに戻して働けたのも良かったですね。

編集部:
フランスでカルチャーショック受けたようなことはありましたでしょうか

吉田氏:
フランスでは、誰もが食にこだわり、手間を惜しみません。普通の主婦のおばあさんが肉屋さんに行って、この部位はどうやって食べるのがいいかを聞いたりします。それに対して肉屋の主人も丁寧に教えるんですね。

そういうカルチャーが当たり前のように根付いている国ですからフランス人が家庭でも料理にこだわり、料理に対するリスペクトの精神を持っている姿を間近で見て、一般層の料理に対する見方が全然違うと感じました。

編集部:
食に対する姿勢というか、取り組み方が違うということですね。

吉田氏:
ちょっとしたホームパーティをする時も、庭にキャンドルを用意して、きちんと雰囲気から作っていくんです。食事を囲む時間と場をとても大切にする国民性は、本当に素晴らしいですね。

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■身の丈に合った目標をクリアすることで、次の目標が見つかる

編集部:
いつのタイミングでフランスから日本に戻ることを決断されたのでしょうか?

吉田氏:
目標を達成できた時です。実はフランスへ行く前に、ある目標を立てていました。アラン・デュカス氏が特集されている料理本を見て、いつか自分もカッコいいシェフになりたいと、その出で立ちに憧れました。日本人がシェフになるのは無理だと聞かされていただこともあり、有名レストランでスーシェフになることを目標にしました。
その目標が「フォーシーズンズホテル ジョルジュサンク パリ」のレストランで叶い、フランスの次を考えた時に、日本で日本の食材で料理したいと思えました。

編集部:
パリの一流ホテルのレストランでスーシェフを務められていたことは本当にすごい経歴ですね。

吉田氏:
ホテルの総支配人たちが集まる前で料理とプレゼンをして、「素晴らしかったよ」と言ってもらえた時は、まさに夢が叶った瞬間でした。

編集部:
これは辛かったなというようなエピソードはありますでしょうか。

吉田氏:
もちろんありました。言葉も話せない東洋人ですから、馬鹿にされることも少なくありません。でも、フランスでは英語しか話せない人間も馬鹿にされるんです。スーシェフになってからも大変で、上司がアジア人ということで嫌味を言う部下もいました。

編集部:
そういった状態からスーシェフになる。というのは大変なことだと思います。

ORIGIN 内装

吉田氏:
しかし、実力があれば評価されるというのもフランスです。
ですから、コンクールなどには積極的に参加して、実力をアピールしました。フランス人なら2日ぐらいで仕上げるレシピの解説書を、2ヶ月ぐらいかけて書き上げたりと苦労もありましたが、たとえアジア人であっても良い料理は公正に評価してくれました。パリの2つ星レストラン「ジャン フランソワ ピエージュ」でもスーシェフとして働いていたことがあります。

編集部:
お話をお聞きすると、目標設定がすごくよかったように感じました。その目標設定がうまくできていたからこそ様々なチャレンジに繋がったと思います。

吉田氏:
フランスという環境。憧れを目標にしたことで次の進む道が拓けてきたのはたしかだと思います。自分でいうのもなんですが、「ジョルジュサンク」でスーシェフを張れたのは自分でもとても誇らしいですし、すごいことを経験できたと思っています。

編集部:
吉田シェフの仕事に対する意欲の源泉は何ですか?

吉田氏:
単純に好奇心です。自分はまだまだと感じますし、他の活躍している料理人の方々と比べると劣等感も感じることもありますが、そのなかでも自分の考えや経験が少しずつ形になっていくと、これまでの自分は間違っていなかったんだなと思えます。

ORIGIN 雑誌記事

■素材の味がきちんとする料理を作っていく

編集部:
その後、帰国されてから「ORIGIN」をオープンするまでは、どのような経緯を辿られたのでしょうか?

吉田氏:
以前、働いていた会社の社長とお会いすることがあり、空いている店舗があるからそこでやってみないかと声をかけていただいたんです。それがたままた大阪でした。

編集部:
どういうお店にしようとか、具体的なコンセプトはありましたか?

吉田氏:
きちんと素材の味が伝わる料理を作りたいと思っていました。例えばフランスでは、お菓子ひとつをとっても添加物をあまり使いません。クッキーであれば、きちんと小麦の風味が感じられて、安いお菓子でも素材の味が分かります。

そういう素材の味がきちんと伝わる料理ができるのであれば、店はどんな形でもよかったんです。屋台でもいいし、お弁当屋さんでも構いませんでした。

編集部:
フランス料理にもこだわるつもりはなかったと?

吉田氏:
そうですね。ちゃんとした料理を作りたいという考えだけでした。

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編集部:
吉田シェフの料理はどういった料理なのでしょうか。

吉田氏:
うちではあまり使われないような食材を使います。普通のエビよりはザリガニを使ったり。最初は受け入れてもらえるまでが大変だろうなと思っていました。

編集部:
そういう素材は、吉田シェフが使いたいから使う?

吉田氏:
別に奇をてらっているわけではありません。普通においしいんですよ。東京の方にはブラックバスを使うレストランもあります。ジビエや外来種を嫌う方もいらっしゃいますが、食材として消費することは、とても大切であると考えています。

偉そうにメッセージを込めているつもりはありませんが、もし僕の料理を食べて「おいしかったし次も食べてみたいな」という気持ちになっていただけたら嬉しいですね。

編集部:
そうですね。まだまだそういった食材を口にしたことがない人は多いと思います。

吉田氏:
食べていただける機会が少しでも増えれば変わってくると思います。外来種などを食材として消費することが、環境面での問題解決にすぐに効果があるとは思っていません。でも、食べていただくことにはそれなりの意味があると思っています。

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画像:店舗提供

■素材感に重きを置き、極限まで食材ロスを無くす

編集部:
今後、このお店はどのようにしていきたいといった展望はお持ちですか?

吉田氏:
日本にはいろんな食材がありますから、興味があるものはできるだけ試していきたいと思っています。おもしろい食材を広告や新聞で見つけたら、自分から電話して取り寄せます。

私の料理を通して、産地に興味を持ってもらえたり、産地とのコラボ企画などができるとおもしろいですね。僕が関わることで、何か新しいものが生まれないかなと期待しています。

編集部:
このお店が、アンテナショップのような役割を担うのもおもしろいかも知れませんね。

吉田氏:
そうですね。単なるレストランとして機能するだけではなくて、この場所がいろんな人に利用されるといいと思います。

編集部:
そのために、普段からいろんな食材に関心を寄せていらっしゃるわけですね。

吉田氏:
大切なのは、きちんと現地に行って食材を見極めることだと思います。残念な話ではありますが、ブランドだけが先に有名になって、中身が伴わない食材も少なくありません。いろんな産地がブランド化を図っていますが、実際に食べてみると他の産地との間に大した違いがないというケースも多々あります。そういうブランディングに惑わされないことが、料理人も消費者のみなさんも必要なことだと思います。

編集部:
情報に惑わされないで、本質をきちんと見極める。ネットで簡単に情報が手に入る現在だからこそ、大切にしないといけないですね。

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吉田氏:
現地に行けば、生産者のみなさんの思いにも触れられます。その思いと、料理人の腕と経験が上手く合わさればいいのではないでしょうか。料理人のクリエイションが先走ってしまってはいけません。そうなってしまうと、欲しい部位だけを使って、他の部位は無駄にするといったことが起こります。

編集部:
せっかく料理に使うのであれば、最後まで無駄なく使うことが大切であると。

吉田氏:
年々、漁獲量が減って欲しい魚が手に入りにくくなっている時代です。そうした問題はこれからもっと深刻になっていくはずです。そんな時代に、使いたい素材だけを使うのではなく、それぞれの素材や部位を無駄にせずおいしく食べる料理を作っていきたいですね。

編集部:
これからの時代に、料理人が求められることですね。

吉田氏:
ガストロノミーも、決して美食を追求するだけではないと思います。料理に新しい価値を生み出そうすることだと思っています。例えばすべての食材、いまは食材として認識されていないものをおいしいと思ってもらえる料理ができれば、無駄な食材ロスなども変わっていくかもしれません。

編集部:
これから楽しみですね。

吉田氏:
期待に応えられるよう我々料理人も頑張っていきますから、ぜひ応援してください!

(聞き手:市原 孝志、文:上田 洋平、写真:松井 泰憲)

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