思い描いたお店を実現するため、自分も料理も変化し続けてきた

ad hoc(アドック)
高山 龍浩

ad hoc(アドック)高山龍浩

◼修業期間5年でずっと憧れていた独立へ

独立されたのは「シュハリ」から2年後ですよね?

高山氏:
2002年26歳のときに大阪・土佐堀に18席の「トゥールモンド」というお店をオープンしました。独立したい思いと、ちょうど母に病気が見つかり頑張っている自分を見せたかったというのもあって。結婚してすぐだったのですが、妻に手伝ってもらいながらスタートすることができました。
店名の「トゥールモンド」は、「みんな」という意味のフランス語からなのですが、「みんなのお店」になればいいなと名付けました。

しかし当時は、店をオープンさせることがゴールになってしまっていましたね…。店舗運営していくことの難しさ、大変さも思い知りましたし、その中で自分のやりたいこととを両立させていくことがうまくできませんでした。

ビジネスランチ1200円、ディナーはフランス料理をベースにしたアラカルトで一人単価5000円~6000円の料理を出しましたが、料理をどう打ち出していけばいいのか模索していく中で、いろんな事をやり過ぎて自分が一体何屋さんなの分からなくなった時期もありました。

模索していく中で、自分の道はこれだと見つけられたキッカケは何だったんでしょうか?

高山氏:
試行錯誤しながら5年ほどが過ぎたころ、大阪・西梅田のブリーゼブリーゼ最上階フロアにアラン・デュカス氏がプロデュースする「ル・コントワール・ド・ブノワ」がオープンしたのです。大阪の若手シェフのフランス料理を食事しながら、辻グループの校長である辻芳樹さんとデュカス氏が対談するという企画で、うちに白羽の矢が立ったのです。

アラン・デュカス氏に「トゥールモンド」で食事をして頂くという、とてつもなく恐れ多い企画だったのですが、こんなチャンスはめったにないことでもありますし光栄なことでもありますのでお受けしました。

その時に、お店の壁に書いてもらったアラン・デュカス氏のサインは今でも宝物ですね。当時のお店の壁を切り抜いてこのお店に飾っています(笑)

当日、アラン・デュカス氏と中央卸売市場で待ち合わせをし、市場内を案内して実際に僕の店で料理を食べてもらったんですが、もう、これは感激というか感動というか。

この経験もあって、自分が出したい料理や、打ち出したいコンセプトを考えるようになりました。そして、出た答えが、まずは自分自身をリニューアルしよう、ということだったのです。

ad hoc(アドック)内観

具体的にはどういったことを考えられたのでしょうか。

高山氏:
店の改装工事期間中に3カ月フランスに行くことにしました。いままでの貯金をほぼ使い果たし、専門学校時代に行けなかったパリやブルゴーニュ、シャンパーニュ、アルザスなどを巡り現地のレストランで食べ歩きをして、とにかく色んな店を見て回って刺激をもらったり本場の技術や情報のインプットをしたり…。

この時、僕がフランスを訪れていることを知ったアラン・デュカス氏サイドから連絡があり、デュカス氏のお店である「プラザアテネ」に招待して頂きました。タイミングが合わず直接ご本人にお会いすることはできなかったのですが、キッチンの中まで見せてもらえるよう話を通してくれていてさらにスペシャルなディナーとワインをごちそうして頂けるという夢のような体験をさせてもらうことができました。

貯金を使い果たしてのチャレンジというのは思い切られましたね

高山氏:
そうですね…。これが人生のターニングポイントになったのは間違いないですね。思い返すとその頃が”底”というか、僕もそうですが、妻にも辛い思いをさせてしまった時期でした。
妻はもちろん僕を応援してくれていたのですが、妻はそろそろ子どもが欲しいと思っていましたし、でも僕は地に足がついていない状態で所帯を持つことにまだ自信が持てないというタイミングでした。
なんとか自分を確立させたい。そうしなければ、お店も僕自身にも未来がないのではないか。そういう思いで、妻にもなんとか理解してもらい勉強に行かせてもらうことができました。専門学校の時とはまた違った、覚悟の渡仏でした。

帰国後、お店のコンセプトやメニューはどう変わったのでしょうか?

高山氏:
低価格で提供していたランチをやめ、店で出す料理は昼がビストロ、夜は8500円のコース料理に変えました。想像はしていましたが、これまで来店頂いていた半分以上のお客様が離れていき、このスタイルが浸透するまで半年くらいかかったと思います。

そうこうしているうち、様々な雑誌で取り上げてもらえる機会に恵まれ、来店いただけるお客様も増えて軌道に乗せることができました。当時はフレンチもこの界隈で少なかったですし、しかも20代でオーナーシェフをしているという料理人は珍しいと、メディアの方も可愛がってくれてたんじゃないかと思います。当時のそういった時代背景も運がよかったことだと思います。

お店は順調だったわけですよね?どうしてそこから場所も名前も変えて、いまのお店を出すことにされたのでしょうか?

高山氏:
「トゥールモンド」をオープンして10年目くらいから、自分も料理人として変化していましたし、それに合わせ料理も変化していきました。そうすると次に空間もその変化にあったもの。その変化してきたものに馴染むお店にしていきたいと思うようになりました。しばらくしてこの場所で出店できるチャンスが巡ってきたので、移転することを決心しました。

内装は「シュハリ」で働いていた時に知り合った同世代のデザイナーさんにお願いし、インテリアや空間すべて自分の好きなものにこだわりました。店の名前もラテン語で「目的を持って」「特別な」という意味を持つ言葉をフランス語読みで「adhoc(アドック)」に変え、2014年にオープンすることができました。

新たなお店をオープンして、前の店と大きく違う点は何でしょう?

高山氏:
料理、サービス、インテリアなどすべて含んだ空間です。お客様に食事をして頂くのに心地よい空気感を大切にしています。ですから料理が主役になりすぎない、あくまでお客様の「ad hoc」での時間を心地よく、幸せに感じてもらうための、料理はその1つの要素だという捉え方をしています。

「ad hoc」は20席ほどのお店ですが、キッチン5名とホール3名でまわしています。仮に急にスタッフが抜けても同じクオリティとサービスで料理が提供できるためにはこのくらいの人数が必要ですし、いい意味でスタッフがサイクルしていくためにも少し余裕をもった体制にしています。

ad hoc(アドック)高山龍浩

料理やお店が変化していく、その根底にはどういった思いがあるのでしょうか。

高山氏:
僕は5年周期ぐらいで変化を求めたり、やりたいことが出てきているような気がするのですが。その根底にあるのは、自分のお店を持ちたいというところからスタートし、理想のお店を実現したい。という自己実現に向けてこれまで進んできたように思います。

よりよい料理を提供したいと、料理のクオリティと共に、単価も上がっていきました。今までのお客様をもちろん大事に思ってはいますし、変えるときにはきちんと説明しますが、単価を上げるとこれまでの三分の二ほどのお客様はやはりご来店されなくなってしまいます。それでも自分が手がけたい料理、実現したいお店に向けて進んできました。
その時々は変えることによる不安もありますしお客様の反応なども怖いのですが、結果として自分のやりたいようにしてきてよかったと思っています。

高山シェフは若くして独立されましたが、独立についてはどのようにお考えでしょうか。

高山氏:
独立することがすべてだとは思いません。僕自身も経験したことですが、お店をやり続けるということは大変なことです。僕はその時の時代の波も味方してくれたところもあったと思います。今はどうでしょうか…。
また単純に料理人として向いているけれど、オーナーとしては不向きだというタイプの人も少なからずいるはずです。
ホテルや企業のような大きな組織の中で店を切り盛りしていくのもひとつの料理人としてのスタイルです。

まずは好きなことを見極めて、なぜそれが好きなのか分析することが大事だと思っています。特に若いうちは任されたことを実直にこなし、信頼と信用される人になること。そしてそれぞれの立場で段階を経ていくうちに、道は自ずと拓けていくものだと思います。

ad hocがオープンして4年ですが、これからはどんなことにチャレンジしたいですか?

高山氏:
まずは「ad hoc」を強い店にすることです。スタッフも徐々に頼もしくなってくてれいるので、ケータリングや東京でのイベントなど、今まで受けることができなかった仕事を少しづつ受けさせて貰えるようになっています。スタッフにも普段とは違う経験を積ませることで新たなチャレンジもできるようになると思います。
無理に店舗展開するつもりはありませんが、人が育っていけるお店になれば自ずとそういったことも視野に入れれるようになるかもしれません。

振り返ってみると、料理に限らず様々なことに興味を持ち、お店の空間にもこだわれるようになりました。
いまは家具作りなんかもいいなと思ったり(笑)。父が靴職人でしたから職人の血が自分にも流れているかもしれませんね。

(聞き手:市原 孝志、文:白石 亜矢子、写真:岡 タカシ)

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お問い合わせ
06-6225-8814
アクセス
大阪府大阪市福島区福島1-1-48
JR東西線「新福島駅」から徒歩3分
営業時間
lunch / 12:00~13:00
dinner / 18:00~20:30 (last order)
定休日
水曜日
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