この一皿で本当に伝えるべきことは何か

CIEL ET SOL(シエル エ ソル)
音羽 創

音羽創 CIEL ET SOL

■栃木の店が奈良の魅力を伝えるフランス料理店をオープン!? 最初は戸惑った

2010年に帰国。和紀氏がカジュアルなフレンチ料理を提供する「オトワキッチン」を開店するにあたり、シェフとして呼び戻された。2013年からは新たにオープンした「シテ・オーベルジュ」の店舗運営も兼務。「オトワレストラン」の料理長を務める兄・元氏やウェディング事業を担当する妹・香菜氏とともに、地域を大切に活動してきた和紀氏の思いを受け継いでいきたいと意欲を燃やした。「東京・白金台に奈良県がオープンするフランス料理店のシェフを任せたい」と和紀氏から話があったのは、そんなころだった。

なぜ奈良県のお店を任されることに?

音羽氏:
父が「なら食と農の魅力創造国際大学校」開設(2016年4月)のアドバイザーを務めたことから元々奈良県とご縁がありました。奈良県知事の荒井正吾さんからは「客観的な視点で奈良の食材の美点を引き出してほしい」といったお話しをお聞きしました。

僕も奈良県の取り組みを素晴らしいと感じたのですが、心中は複雑でした。宇都宮で任されている「オトワキッチン」や「シテ・オーベルジュ」もようやく体制が整ってきたところ。自分が留守をして大丈夫だろうかという心配もありましたし、僕自身は奈良に地縁もない。栃木の人が奈良の魅力を伝えるなんて無理があるのではと戸惑いました。

でも、父から「難しいからこそ、意味がある。それに、東京には栃木にはない出会いもあるはず。若いうちにチャレンジするのもいいのでは」と言われ、確かにそうだなと。それに、僕の料理で奈良の魅力を表現することができれば、そこで得たことを生かし、ほかの地域の魅力も引き出せるようになるかもしれない。いい成長の機会になるのではと「シエル エ ソル」のシェフをやらせていただくことを決めたんです。

それにしても、奈良の魅力をイチから見つけていくのは大変だったでしょうね。

音羽氏:
いや、もう、どうしていいのかわからなかったです(笑)。まず、食材探しからつまずきました。東京で奈良をテーマにした料理をやるからには、どこでも手に入るような食材を使っていてはお客さまに満足していただけません。もちろん奈良県庁の職員さんたちも協力してくださったのですが、ご紹介いただいた農家さんでは一般的な食材しか作っていないことが多くて。

奈良県で活躍しているシェフとSNSで繋がって農家さんを紹介していただいたりしながら、少しずつ仕入れ先を開拓していきました。

CIEL ET SOL カフェ&ショップ「リヴレ」
ときのもり1階は奈良の魅力を伝える食や工芸品を取り扱うカフェ&ショップ「リヴレ」

■料理を通して地域の歴史や文化、風景をお客さまに感じてもらいたい

「シエル エ ソル」のオープンは2016年1月。最初はお客さまが少なく、夜はノーゲストの日もあったという。責任を感じる音羽氏に荒井知事は「このお店の意味は売り上げだけでは計れない。思いのある人たちが思いのこもったものを作り上げていく手助けを県はしていくべきだし、ここがそういうお店になっていけばいいと思っているので、焦らずにやってください」と声をかけ、見守ってくれた。

お客さまが増えるきっかけのようなものはありましたか?

音羽氏:
これというきっかけは思い当たりません。ただ、メニューの方向性が定まったころからお客さまの反応が良くなったように思います。単に奈良の食材でフランス料理をやるというのではなく、料理を通して地域の歴史や文化、風景をお客さまに感じてもらいたい。ただ、それを具体的にどう表現すればいいのか、わかるまでに数カ月ほどかかりました。

今思えば、「フランス料理」という枠組みに縛られ過ぎていたんだと思います。和の要素を入れても、着地点はフランス料理でなければいけないとよく言われますよね。僕もそう考えていました。だから、大和野菜のことはいろいろと研究しても、味噌や醤油といった和に寄りすぎる素材は使うのが難しいと決めつけていたんです。

でも、奈良で人気のカフェ「くるみの木」のオーナーの石村由起子さんが「シエル エ ソル」の階下にあるカフェ&ショップ「リブレ」をプロデュースされていて、奈良の食材についていろいろ教えてくれました。「この時期にしか作られていないお味噌にこんなのがあるのよ」というようなお話をうかがっているうちに、待てよと。

「シエル エ ソル」のシェフは僕で、自分のフランス料理を追求していくのは大事です。ただ、「奈良の魅力を伝える」というコンセプトに立ち返った時に、この一皿で本当に伝えるべきことは何か。奈良にしかないおいしい味噌があるなら、それを料理で伝えれば、お客さまはきっと喜んでくださる。フランス料理の枠におさまりにくい食材を避けてお客さまに伝えるべきことを伝えず、大和野菜だけを使って満足していては奈良の魅力は表現できない。

そう気づいてからは迷いがなくなりました。もちろん、「和食」を出すようなことはしませんが、今では醤油であれ、味噌であれ、僕自身がいいと思うものはためらわず使っています。

音羽創 CIEL ET SOL

CIEL ET SOL 外観

CIEL ET SOL(シエル エ ソル)

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03-6721-7110
アクセス
東京都港区白金台5-17-10 ときのもり2F
最寄駅 地下鉄白金台駅
営業時間
ランチ12:00〜13:30(L.O.)※火曜ランチ休
ディナー18:00-20:30(L.O.)
定休日
月曜日