ずっとフランス料理をしてきたからこそ、見える景色が広がってきた

L'eau Blanche(ローブランシュ)
白水 鉄平

L'eau Blanche(ローブランシュ) 白水鉄平

交通事故に遭って覚悟を決めた

「オー グー ドゥ ジュール」に入られてからは、どのような日々を過ごされましたか?

白水氏:
当時、「オー グー ドゥ ジュール」グループは勢いがあって、店舗も増えていくタイミングでした。私は松本シェフがいらっしゃる日本橋の「オー・グー・ドゥ・ジュール メルヴェイユ」(現在は閉店)に入りましたが、オープニングから同じメンバーでされていたので息が合っていて、自分はその中になかなか入れずにいました。

技術的にも圧倒的に足りなくて思うように仕事ができず、歯がゆさを感じていましたね。けれど、ここは何でもやっていい環境でした。「シェフがやることを全部覚えよう」という想いで、料理の世界にのめり込んでいきました。
そんなある日、入社して半年ほど経ったころでしょうか、交通事故に遭ってしまったんです。
薄れゆく意識の中で「めっちゃ迷惑をかけてしまっている」と申し訳ない気持ちになったのを覚えています。意識が戻ったのはベッドの上。背骨を圧迫骨折してしまうという大怪我で、1ヶ月は寝たきりの状態でした。そして、医師から「骨折の場所が少しずれていたら下半身付随になっていたかもしれない」と言われハッとしました。一生の仕事と思って料理の道を志したのに、もっと覚悟を決めないと中途半端に終わってしまう!と自分を奮い立たせるきっかけになりましたね。

約3ヶ月のリハビリを経て「メルヴェイユ」に復帰させていただきました。岡部社長や松本シェフは恩人です。ミクニで種を植えて、まだ芽も出ずにダメになりそうだったときに、水や光、栄養を与えてくださいました。それからは、何もかもが苦にならず、常に料理のことばかり考えていましたね。

福岡に戻るまでの6、7年はテレビもない生活で、帰宅すると料理の本ばかり読んでいました。その後、スーシェフになり、ある日、仕事が終わったときに岡部社長から「九州の博多駅に「オー グー ドゥ ジュール」を出して欲しいという話がきている。白水が博多でやるんだったらこの話を受けるよ。やらないなら出す必要はない。明日までに返事が欲しい」と言われたんです。地元ですし「ぜひやらせてください」と返事をし、博多への出店が決まりました。26歳でした。

L'eau Blanche(ローブランシュ) 白水鉄平

オープンまではどのように過ごされたのでしょう?

白水氏:
オープンまで1年半ほど時間があったので、フランスへ行くことにしました。
知り合いのシェフから「リムーザン地方のオーベルジュへ行ってみない?」と紹介していただいたんです。日本人がいない環境に行ってみたいと考えていたので、「行きます!」と即答。そのお店では、アミューズからデザートまで、特別コースを自分で考え、自分でつくって、お客様に提供させていただく「ムニュ・デギュスタシオン」を70回以上担当させていただきました。

リムーザン地方は山の食材に恵まれた土地。シェフから「鉄平、こんな感じでよろしくね」と言われてから、地下倉庫の冷蔵庫へ行き、その日獲れた食材を見てメニューを決めていくんです。それが凄くよかったですね。というのも、東京で働いていると、当たり前のように欲しい食材や調味料が手に入っていました。だから、その土地のものだけで料理を表現することはすごく勉強になりましたし、今の料理のベースを考えるきっかけになったんです。
何でもかんでもお皿の上にのせたらいいというわけではなく、フォーカスする食材があって、どうアプローチをかけていくのか、それが見えてきたように思います。やっていくうちにお客様からも好評を得て手応えも感じましたし、逆にできないことも確認できましたね。

また、厨房でサポートしてくれるのはフランス人なのですが、最初の頃は言葉の壁があってもどかしさを感じていました。わからない言葉があれば書き留めて、自分の部屋に帰ってから勉強するということを繰り返し。
彼らとのコミュニケーションが取れるようになってからは、自分が思っていた通りの料理を表現できるようにもなりました。休憩中に一緒にサッカーをしたり、休日に自宅に遊びに行ったり。一緒に誰かとつくるためにどのように伝えればいいかを学べたことは、日本に帰国してからもやれるという自信にもつながりました。結局、約10ヶ月をフランスで過ごして帰国しました。

L'eau Blanche(ローブランシュ)

フランスから帰国し、博多での挑戦が始まる

ついに「オーグードゥジュール メルヴェイユ 博多」のオープンですね。

白水氏:
はい。今でこそ若いシェフは増えていると感じますが、当時28歳でシェフを任されたというのは、抜擢だったはずです。福岡に戻ると厨房も決まっていて、それまでの繋がりで親友も一緒に働いてくれることになるなど、最高のメンバーが集まりました。
自分も28歳でしたし、支配人も29歳。とにかく若いメンバーで、早く自分たちの料理やサービスを表現したいという気持ちでいっぱいでした。そんな私たちに任せてくれた会社の決断は凄かったと思います。東京以外での初出店ということで注目度も高く、いろんなお店のシェフが食べに来られてもいました。その中で「オーグドゥジュール」の看板を汚すわけにはいかないという気持ちは常に持っていましたね。
お店の売り上げはとてもよく、お客様が常に入っている状態。予約も取りづらく、グルメサイトでは1位の評価を得ていました。当時の自分は、髪を刈り上げて黒のコックコートを着て、ちょっといかつい感じだったんです。だから、お客様のところへご挨拶に行くと「つくっている人と料理のギャップが面白い」と言っていただくことも多かったです(笑)

「オーグードゥジュール メルヴェイユ 博多」では、どのような料理を作られていたのですか?

白水氏:
フランスで地元の食材を使うことを学んできましたし、福岡でも地産地消という言葉も浸透し始めていました。土地のものに対して愛着を持ち、その食材を使っていくことを考え、帰国後は、生産者に会いに言ったり、市場で話を聞いたりしていました。
道の駅に行ってみて、いい生産者はいないかと調べたりもしました。魚や野菜は、東京時代に比べると、圧倒的に美味しいと感じましたし、鴨やビネガーなど、東京よりもリードタイムがあるジレンマはあったものの、土地のものを探すことの面白さを感じていました。

また、自分に対して1ヶ月に1回メニューを変えることを課していて、独創性のある料理を生み出すことにも力を注ぎました。美味しいのは当たり前。ほかとは何かが違う、驚きを提案できるお店づくりをしていきました。オープンから丸4年。最高の料理とサービスで、お客様に喜んでいただくことができたと思いますね。

L'eau Blanche(ローブランシュ) 白水鉄平&佐々木利雄

ともにお店を開くことになった佐々木利雄さんとは、どのように出会ったのですか?

白水:
私が「ミクニ」に入った頃、20歳か21歳の頃に出会いました。一緒に食事をしたり、飲みに行ったり。その当時から「いつか一緒にお店をしよう」という話をしていたのです。以来、交流はずっと続いていて、私が福岡に戻った頃、佐々木さんは東京・神楽坂で「神楽坂しゅうご」を営まれていましたが、いろいろなタイミングが合い、10数年前に話したことが現実になることになりました。

店名の「ローブランシュ」は、フランス語で「白い水」という意味です。自分の名前ということもありますが、清らかでしなやかな水の流れは、それまで自分がやってきたことにリンクしています。2016年の3月にはオープンする予定でしたが、ずれ込んでしまい4月になりました。オープン日は4月6日水曜日。そう。4(し)6(ろ)水(みず)の日なんです。もう運命ですよね(笑)

佐々木利雄

フランス料理をやってきて、本当によかった!

「ローブランシュ」では、どのような料理やサービスを提供されているのでしょうか。

白水氏:
基本的なところでいうと、レストランという箱で、来てくださるお客様に最大限に喜んでいただき、幸せになっていただき、元気になっていただきたいという信念を持ってやっています。
料理に関しては、ずっとフランス料理をやってきて、これまでも楽しいと思っていたけれど、フランス料理の凄さ、奥行きが見えてきて、さらに楽しくなってきましたね。

また、今でも週に一度は生産者を訪ね、この土地だから提供できる料理を追求しています。2017年にはフランスレストランウィークのフォーカスシェフに選んでいただいたり、フランス発祥の食育プロジェクト「味覚の一週間」の一環で子どもたちに味覚の授業をさせていただいたりと、活動の幅が広がってきました。味覚の授業では、子どもたちにマヨネーズの作り方を教え、一緒にタマゴサンドをつくったんのですが、凄く喜んでくれて。
数日後、子どもたちから手紙が届いたのですが、「いつか白水シェフのもとで勉強してシェフになりたい」と書いてくれる子もいました。嬉しかったですね。
こんな喜びを感じられるのも、フランス料理に携わってきたからこそ。20歳で料理の世界に入り、あと数年で40歳を迎えるわけですが、これまでフランス料理をやってきて本当によかったと思いますね。

L'eau Blanche(ローブランシュ)

素敵ですね。そんな想いを胸に、今後、どのような未来を描いていますか?

白水氏:
今、レストランとして考えているのは、「居心地の良さ」と「エレガントさ」を追求すること。若手と言われていますが、今年37歳になります。シェフになったのは28歳なので、もうすぐ10年が経ちます。これからは、このお店を1ランク、2ランク上の店へと高みを目指していきたいです。

また、一方で海外で試したいという気持ちもあります。海外へ出るのか、ここに来てくださる海外のお客様を満足させるのかはわからないですが、1日1日を大切に積み重ねていけば、チャンスに巡り会えるのではないかと思っています。今、この瞬間の連続が、未来に繋がっていくのではないでしょうか。

そういえば、少し前に三國シェフがお店に来てくださったんですよ!
博多に戻ることになったときに挨拶に伺ったときは「まだ早い」と言われ、「ローブランシュ」をオープンすることになったときは「もっと有名になってから来い」って言われました(笑)。レストランウィークでお会いしたときに、ようやく認めていただいた気がして。初めて笑ってくださって、一緒に写真を撮っていただきました。

料理の世界って、成長していることに気づかないんですよ。私の場合は、じっくりと頭の中で考え抜いて95%までイメージさせたものを作っていくものと、それとは別に食材を触った瞬間にこうしよう!と閃くものがあります。前者はシャボン玉を膨らませていくイメージ。ゆっくり吹いて、うまくいかないと破裂してしまう繊細なもの。後者に関しては“やんちゃな料理”と呼んでいるんですけど。こんな風に料理を楽しめるようになったのもここ最近のこと。いつの間にか、そういう楽しみ方ができるようになっていたことに、自身の成長を実感することができています。

これからも、フランス料理を通して、人々を幸せにしていきたいですね。それが私の生きる意味かもしれません。

(聞き手・文:寺脇あゆ子、写真:中西ゆき乃)

L'eau Blanche(ローブランシュ)テーブルセット

L'eau Blanche(ローブランシュ)外観

L'eau Blanche(ローブランシュ)

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092-752-2122
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