街場のレストランのシェフが高級ホテルのシェフに転身。料理人の新たなモデルケースを目指す

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宮崎 慎太郎

Azure 45(アジュール フォーティーファイブ) 料理

写真提供:アジュール フォーティーファイブ

■ホテル未経験の料理人がホテルのシェフに就く意味

2014年の春、ザ・リッツ・カールトン東京の「アジュール フォーティーファイブ」のシェフに就任されました。突然の転身で、周囲も驚かれたのではないですか?

宮崎氏:
そうかもしれませんね。新丸ビルの「オーグードゥジュール」では7年連続でミシュランの一つ星をいただいて店も順調だったのですが、自分では行き詰まっていて限界も感じていたんです。

それで一度リセットしたいという気持ちが強くなり、常連のお客さまへの告知のつもりで2014年1月にSNSで「4月に辞める」と宣言しました。それを見て、ザ・リッツ・カールトン東京のGM(総支配人)とスタッフの方々が食事に来てくださり、ホテルのレストランのシェフとなって同じような料理を出してほしい、とオファーをいただいたのです。

SNSでの宣言とは大胆ですね。そこから、大手のホテルから、街中のレストランシェフに直接声がかかるなんて驚きますね。

宮崎氏:
確かに、日本のホテルは料理部門でも会社組織という側面があるので、外部からトップに立つ人間を招くことはとても珍しいことだと思います。今回は、たまたまザ・リッツ・カールトン東京のGMが、街場のレストランで活躍するシェフを招こうとチャレンジしてくださった。

とはいえ、最初にこのお話を聞いたときは、決まらないだろうなと思っていました。正直言って、僕はザ・リッツ・カールトン東京というホテルを詳しく知らなかったし、やはり街場のレストランとホテルではまったく違う世界なので、自分がそこに身を置くのは難しいなと感じていたんです。

それでも受けようと思った決め手は何だったのでしょう?

宮崎氏:
日本では珍しいパターンだからこそ、受けるべきだとも考えたのです。

そもそもフランスでは勢いのあるシェフが、街場とかホテルとか関係なくヘッドハンティングされるのはよくある話なんです。実力があればよりよい職場にステップアップできる環境がある。だから現場のモチベーションも上がり、業界全体の活性化につながっているんです。

でも日本は、街場とホテルの料理人はほとんど交流はないし、街場のレストランの料理人がホテルに転職するなんて、ほぼ考えられません。

それでも僕がもし、ホテルのシェフになって成功したと認められれば、日本のホテルも街場のシェフを抜擢しようという流れができるかもしれない。世界中のネットワークをもつホテルで、ミシュランの星をもつ日本人シェフが増えれば、料理人の社会的地位は確実に上がるし、業界も活性化していくはずです。そうなってこそ、ミシュランが日本に上陸した意味もあるのでは、とも思いました。

それでは、最初からミシュランの星を獲得するという目標が前提だったのですか?

宮崎氏:
もちろんです。入社して早々、一緒に働くスタッフに「今年中にミシュランの星をとりたい。今日、まさに調査に来るかもしれないし、皆もそのつもりで緊張感をもってやっていきましょう」というような挨拶をしました。

本格的に私の料理を出せるようになったのは7月からだったので、さすがにすぐには難しかったのですが、翌年の2016年以降は3年連続で一つ星を取得しています。

Azure 45(アジュール フォーティーファイブ) テーブルセット

■料理とサービス、すべてを変えるつもりでレストランを改革

見事に当初の目標を達成されたのですね。それにしても、もともとホテルにあったレストランを宮崎シェフのカラーに染めるには、ご苦労もあったのではないですか?

宮崎氏:
店のメニューを僕が作ったものに刷新した時点で、料理もサービスもすべてを変える気概をもって取り組みました。

少しずつでは絶対変えられない。「すべてを改革する」と決めたら、一気に変えないと駄目なんです。その点、調理場のスタッフは僕と一緒に働くわけですから統制はとれるのですが、問題はサービスとの連携でした。

サービスのスタッフは、「ザ・リッツ・カールトンは好きだけどフランス料理には興味がない」という子もいたし、「これまでとやり方が違う」と言われることも多かった。そこは「僕は星をとるためにここに来たのだから、とりあえず納得いかないかもしれないけど、ちょっと言うことを聞いてくれないか?」と押し切りました。そうはいっても、いろいろな人がいますから最初はお互いに様子を探りながら、という感じでしたね。

調理場とサービスのチームワークを徐々に築いていったのですね。

宮崎氏:
チームワークという意味では、もともと調理場とサービスの仲がすごく悪かったのが大きな問題でした。

調理場がサービスに対してその日の気分で不満をぶつけているような状況だったので、まずは直接サービスに文句を言うのは禁止して、自分を通してもらうようにし、そこからコミュニケーションの強化を図りました。

サービスのスタッフには、言い方も含めてすごく気をつかいましたね。皆、それぞれ経験を積んできたプライドもあるので、一人ひとりに手紙を書いて僕の思いを伝えたこともあります。どうしても合わないと、多少は人の入れ替りもありましたが、半年くらい経つとだいぶ連携がとれるようになりました。

街場とホテル、両方を経験したシェフにとって、それぞれの魅力とは?

宮崎氏:
街場の小さな店では、料理だけ作っていればいいわけではなく、予約の対応や洗い物まで、一人で何役もこなさなければいけないから忙しいけど、純粋に料理を楽しんでいましたね。

そのときどきの自分のインスピレーションで、ありえない素材の組合せとか、面白い盛り付けとかに挑戦したり、常連のお客さまに対するパフォーマンスは存分に表現できていました。その点は、今は少しできなくなっていることかな、とは思います。

一方、ホテルのレストランは、なんといっても贅沢な空間と手厚いサービスが魅力。そういう意味では、もっとプレゼンテーションに幅をもたせられるはずなので、さらにホテルだからこそ可能なことを追究していきたいです。

また、調理場でも仕事の分担が明確で、労働環境も整っているのもホテルならでは。そのぶん何度も試作を重ねたり、サービスのスタッフに料理を説明する時間がとれるので、今は自分の料理を突き詰めて、一皿の完成度を高めることに集中したいと思っています。

最後に、今後の目標をお聞かせください。

宮崎氏:
当然、ミシュランガイドの三つ星の獲得が目標です。一つ星をいただけたのはもちろん嬉しかったですけど、そこにとどまっているようではいけないと思っているし、そういうプレッシャーを常に自分に与えながら努力していくつもりです。そのためには、まずは二つ星を確実に獲っていきたいですね。

(聞き手:齋藤 理、文:村山 知子、写真:刑部 友康)

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