Passage 53(パッサージュ 53) 佐藤伸一

パリで二つ星を背負う覚悟。個性をまとい、現状に満足せず、歩み続けるサムライ

Passage 53(パッサージュ 53)
佐藤 伸一

■かっこよさ、憧れ、未知の世界。始まりは至ってシンプルだった。

北海道のご出身だとお聞きしましたが、一番最初に料理人になろうと思ったきっかけは何でしょうか?

佐藤氏:
一番最初はやはり母と父の影響だと思います。自分で料理を作ることも食べることも大好きな両親だったので、自然と「食」に対する興味をもつようになりました。

その後、料理人になろうとしっかりと自分で決めたのは、調理師学校に入る時でした。もちろん、料理への興味が一番のモチベーションでしたが、実はそれと同じくらい、机に向かう「勉強」というものをそれ以上したくなかったというのもあります(笑)。調理師学校でも勉強はするにはしますが、いわゆる大学とかでやるあの「勉強」が嫌だったんです。

その時すでにフランス料理人を志していたのですか?

佐藤氏:
なんとなくそういう考えはありました。でも、調理師学校は和食、中華、栄養学などを一通り学ぶ場所だったので、学校で専門的にフランス料理を勉強していたわけではありません。寿司なんかも学びましたね。

自分がフランス料理人になろうと本格的に決めたのは、実際に働きはじめてからです。進路をある程度決めなければなりませんでしたから。

フランス料理を選んだ理由はすごく単純で、ただ「かっこいいな」って思ったから。帽子が長いしね(笑)。あとは、フランス料理の未知の味に対する憧れもありました。フォアグラとかキャビアは日本の日常ではなかなか食べる機会がありませんでしたから。

日本での修業時代、自分に影響を与えた人物は?

佐藤氏:
現在、札幌で「ル・ミュゼ(Le Musée)」のシェフをされている石井誠シェフです。彼がエノテカ札幌で料理長をされていたころ、私はその下で働いていました。石井シェフと彼の作る料理は衝撃的でした。

というのも、当時、大きなホテルで料理人としてスタートしていたんですが、業態的に、どうしてもそこにいる料理人は圧倒的にサラリーマン的であることが多かったのです。料理で自分を表現しようとするわけではなくて、あくまで与えられた仕事として調理をする。もちろんそれが悪いことではないですよ。学ぶことはあるし、ホテルという大きな規模の業態だから必要なことでもあります。

そんな中、石井シェフは「自分はこういう作品を作りたい」という哲学をもって料理をしていたんです。人生で初めてそういう料理人に会ったので、「すごいな」と思いました。

■22歳で渡仏。待ち受けていたのは自分の非力さと日本人に対する評価の厳しさ。

その後、22歳で渡仏されたのですよね。

佐藤氏:
はい。フランスに来たのはちょうど2000年のことです。フランス料理を作る以上、フランスの現場を見ないわけにはいかないと考え渡仏したのですが、そう簡単なものではありませんでした。

と、言いますと?

佐藤氏:
もちろんみなさん大変だと思うんですけど、フランス語はできないし、当初は労働許可証は無いしで、「働く」という観点から考えて日本にいたときより圧倒的に不利だったんですよね。

その他に苦労したことは?

佐藤氏:
なかなか自分を認めてもらえなかったことです。たとえば、背が高かったり、顔がイケメンだったり、それなりの存在感、貫禄がある人が世の中で認められやすいっていうのが普通ですよね。でも、自分は背も小さいし、顔も童顔だし、周りからはアジア人の中学生くらいにしか思われなかったんじゃないかな。そんな状態で良い仕事をもらうためには、よっぽど自分が仕事ができるんだってことを見せないときついものがあった。

今でこそ、現地では日本人の料理人っていうと無条件に信頼があります。むしろフランス人オーナーなどから「日本人のスーシェフはいないか?」って、最初から良いポジションを提案してくれることもあるくらいで。でも、当時はそんなこと、まったく考えられなかった。

大変な環境の中でやられていたんですね。それでも、フランスに出てきてよかったと思いますか?

佐藤氏:
もちろんです。本場のフランス料理を学べたっていうのもありますけど、それ以上にここでの経験があったからこそ、自分の「個性」を手に入れることができました。

「個性」ですか?

佐藤氏:
はい。自分がフランスに来たころからでしょうか。フランス料理の世界は少しずつ変わってきていたんです。料理に求められるものも変化してきました。変化とは、フランス料理を食べる人々が、より強く、シェフの「個性」を期待し、味わうようになってきたということ。

たとえば、うちのレストランにフランスの伝統的な料理であったり、誰もが知っていて他のお店でも食べられるような料理を食べにいらっしゃるお客様は、実はほとんどいません。

むしろ、他のレストランでは味わうことのできない、このレストランだからこその味、「佐藤伸一」の料理を食べに来てくださる。

そんな私の個性は、フランスで現場に入り、多くの人に影響を受けたからこそのもの。料理は自分を映す作品です。外に出ていろんなことを見て積み重ねた経験こそが、魅力的な「個性」が醸成されるのに必要なのです。

Passage 53(パッサージュ 53)

お問い合わせ
+33 (0)1 41 33 04 35
アクセス
53 passage des Panoramas 75002 Paris
営業時間
12:00-13:00
20:00-21:00
定休日
日曜、月曜