パリで二つ星を背負う覚悟。個性をまとい、現状に満足せず、歩み続けるサムライ

Passage 53(パッサージュ 53)
佐藤 伸一

Passage 53(パッサージュ 53) 佐藤伸一

■現状に満足はできない。常に次のステージを見据える。

今後の目標はありますか?

佐藤氏:
もっといい店作りをして、もっといい料理を提供したいですね。

北欧にある「ノーマ(NOMA)」とか、イタリアにある「オステリア・フランチェスカーナ(Osteria Francescana)」とかに行くと、やっぱり料理がおいしいし、サービスがよかったり、エンターテイメント性があって何かしらの感動がある。そういう、もっと人々の心を動かせるお店にしたいという目標があります。

そのためにはやはりできることをコツコツと、地道にがんばっていくしかない。料理以外のこともそうです。今そこにあるイスが例えば1脚で15万円ほどするとします。これを、もっと素敵な空間を演出するために、1脚30万円のイスに変えるとしましょう。20脚必要だから、これだけで全部で600万円もの費用がかかってしまいます。

そんな大金を日々の売り上げから捻出するのはそう簡単ではない。でも、いい店を作っていくというのは、お金もかかる。こうしたことは、1歩ずつ進んでいくしかないのです。それでも地道に努力をしていけばそういった目に見える形で成果として返ってくる。だから、がんばれます。

5年後はどのステージに立っていると思いますか?

佐藤氏:
何も変わっていないと思います。もちろん、お店の規模が大きくなってたり、単純に売り上げが伸びていたりと、そういう変化はあるかもしれません。でも、自分はどこのステージにいても現状には満足できずに、常にその次を見る。だから、今の時点からするとすごく成長しているかもしれないけど、そのステージに立ったら立ったで、また満足できないものが必ず出てくる。もっと大きなものが見えて来ると思う。だから、不変、じゃないでしょうか。

佐藤シェフは非常にストイックな生き方をされていると感じるのですが、今まで、ご自身に満足されたことはありますか?

佐藤氏:
段階的にはもちろんあります。ミシュランに評価されたのもそうだし、単純に売り上げが伸びたのもそう。

プライベートで言えば、インテリアが趣味なので有名なデザイナーのテーブルやイスでも、本当に気に入ったものを頑張れば購入できるようになりました。もちろん、半年とか1年とか苦労して貯めてですよ。

でも、自分が20歳のころはそういうことはやりたくてもできなかった。だから、今まで自分が積み重ねてきた努力がこうやって目に見える成果として現れるのはやはり嬉しい。

あと、料理人としてはやっぱり日々の営業でお客様から「美味しかった」という言葉を貰えるのが一番嬉しいです。

ついこの間、日本のホテルで650人規模のイベントを行わせていただきました。初回は慣れないゲスト数のために満足できるクオリティに至らないところもあって、食後に挨拶をしても無言でお帰りになったお客様もいらっしゃったのに、今回は「また次回やってください」と直接お礼を言われました。本当に嬉しかったです。

Passage 53(パッサージュ 53) 佐藤伸一

■フランスに来るならそれ相応の覚悟を。能力が足りなければ貯金をしてくるべき。

 今の厨房はどういうチームで回されていますか?

佐藤氏:
私の他に日本人が3名、フランス人が3名、イタリア人が1名います。私以外は全員30歳以下です。

採用をされる際はどのようなところを見られていますか?

佐藤氏:
やる気ですね。ただ、どうも私には面接をする才能が無いようで、「自分やる気あります」と言われて実際に採用してみると、すぐに辞めてしまいます(笑)。

だから、基本的には来るもの拒まずなのですが、まずは2,3日の見学や、1週間程度の体験を提案しています。そうすることによって、お互いに合う・合わないが見えてきますから。

でも、面接の時点で給料の相談をしてくる人は基本的に避けていますね。フランス語も話せないレベルで「給料はいくらもらえますか?」「家賃が700ユーロなので、最低1500ユーロは必要だ」などと言ってくる人がたまにいますが、それってやっぱり違うと感じてしまう。

もちろん、お金をケチりたいわけではないですよ。日本から修業に来て、フランス語は話せないのに能力が平均程度だとしたら、一般的な給与をもらえないのが普通です。三つ星や二つ星で経験があってよっぽどの能力があれば別ですが。

今まで8年間お店をやって、研修生も含めて100人以上の料理人が短期・長期含めてうちのお店で働きましたが、その経験から意識の高い人、仕事のできる人は例外なく給料の交渉などしない人たちでした。もちろん、一生懸命働いて結果を出してくれた人は評価してこちらから給料を昇給させていきます。

お金がなければそれなりにお金を貯めてくるべきだし、家賃が高いなら、ルームシェアをするなどして工夫をすればいいんです。武勇伝ではないですけど、私は15平米の部屋に3人で暮らしていたことがあります。時代が違うと言えばそれまでですが、一人一部屋なんて贅沢でした。快適で楽しいフランス生活をするために来ているわけではなく、初めはフランス文化や料理を学ぶために来ているのですから。

初めから待遇を求めすぎず、覚悟を持ち、困難を乗り切る工夫をすること。成功するためには、それが必要なのではないでしょうか。

現在働かれているお弟子さんたちは、厳しい状況を乗り越えて来た方々なのでしょうね。今後、彼らにはどのようになってほしいですか?

佐藤氏:
もちろん、朝から晩まで大変な思いをしているから、みんな成功していってほしいです。ミシュランで星を取ったり、有名になったり、それが全てではないけれど、目に見える実績を積んでいって欲しいですね。

あとは、自分の個性をつかんでいってほしいです。うちで5年ほどスーシェフをやってくれた檜垣という料理人がパリでイタリアンレストラン「ランコニュ(L’INCONNU)」というお店をパリ7区に2年前に開きました。独立当初はPassage53に似た料理が出てきていましたが、徐々にそれが抜けてきて、本人らしさが出てくるようになりました。もちろん、うちで覚えたやり方が自分で正しいと思っていたから最初はそういう要素が出てくるんだと思いますが、そうやって自分の個性を見つけてくれると嬉しいです。私がそうであったように。

本日は長い時間お付き合いいただきありがとうございました。

佐藤氏:
いえいえ。もっといろいろと聞いていただいても大丈夫ですよ。料理人が大変だってことが伝わりすぎて、若い子たちが「やめておこうかな」ってならなければいいですけど(笑)。

(インタビュー・文:マエダジュロウ、写真:Yurina NIIHARA)

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53 passage des Panoramas 75002 Paris
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日曜、月曜