パリで二つ星を背負う覚悟。個性をまとい、現状に満足せず、歩み続けるサムライ

Passage 53(パッサージュ 53)
佐藤 伸一

Passage 53(パッサージュ 53) 佐藤伸一

■プロとしての責任を果たすために、人生最高の仕事を意識し続ける。

今では、日本人で初めてのフランス現地の二つ星シェフとして躍進されていますね。

佐藤氏:
ミシュラン・ガイドに評価をされたことは、1つのステップとして自分の現状を確認することができたから、純粋に嬉しかったです。

レストランを運営するにあたって特段に意識していることはありますか?

佐藤氏:
レストランのチームには「今この瞬間の仕事が人生で1番良いものになるように」と言っています。

この仕事は、何度も同じ料理を作ったり、お皿を洗い続けたり、単調な作業の積み重ねで成立しています。だからこそ、意識してやらないとただの流れ作業になってしまう。でも、私たちが提供するものは決して流れ作業から生まれてはいけない。このレストランでは、ランチだと飲み物まで含めて大体2万円弱、ディナーだと3万円以上いただいています。お客さまはこれほどの料金を出して食事をされる。だからこそ、我々は毎回全力を出さなくてはならない。

たとえば、お皿をウォーマーから取り出す時だって、きちんと意識してやらないと指の指紋で汚してしまったりします。それが、もし初めて星付きのレストランにいらっしゃったお客様に届いたら?そのお客様は落胆し、2度と星付きのレストランなんかに行かなくなってしまうかもしれない。たった1点の指紋だからいいやと思う気持ちがすべての結果に出てしまう。だからこそ、どんな単調な作業でも、プロとして常に全力を出さないといけないんです。

もちろん、毎回毎回人生で最高の仕事をするなんてのは不可能に近いかもしれない。でもそれを意識しているかしていないかで、必ず差は出てきます。

■フランスでのレストラン経営には、現実的な困難が待ち構えている。

それだけ全力でやられてる中、つらいと思うことはないのですか?

佐藤氏:
つらくはないですけど、悩みは毎日抱えていますよ(笑) 。

どんな悩みですか?

佐藤氏:
悩みがありすぎて答えにくいんですが、そうですね…。今の最大の悩みは、「自分がフランスにいる」ってことです。

さっき、フランスに来てよかったと言ったのに、逆説的で申し訳ないんですが、フランスでレストランを経営するということは、想像以上に大変なことも多いのです。

たとえば、どんなところが大変なのでしょうか。

佐藤氏:
いろいろとあります。たとえば、もうこのお店をオープンしてから8年も経ちますけど、腐りかけの野菜や、1週間前の日付の魚介が届いたりするんですよ。1週間前の魚介、です。もちろん、業者の社長さんにも何回も注意をしたけれど、注文を受けたおばちゃんのせいだの、商品を準備した人が悪いだの、トラックの運転手が悪いだの、責任転嫁の嵐。

日本であればあり得ない話ではないでしょうか。けれど、フランスではこんなことがよくあります。注文を受けた商品をしっかりと顧客に届けるっていう仕事ができていないということ、つまり、プロ意識の欠如を垣間見ることがフランスでは毎日です。

うちは、メニューが1本ですから、1つの食材がダメというだけで、コースから1品減ってしまうほどの影響を受けます。本来は起きてはならないこと。しかし残念ながら、日本にあるような日常の隅々まで行き届いたプロフェッショナル意識というものは期待できないですね。
まあ、この緊張感の無さがフランスの良さなのかもしれません。ですが、自分は神経質な日本人なので、やはり気になってしまいます。

他には……、そうですね、働いても働いても、売り上げの大部分を国にもっていかれるところでしょうか。

税金ですか?

佐藤氏:
はい。義務だから払うのは当然なんですが、それにしてもいろんな名目を連ねられて多額の税金や莫大な社会保障費を払わなきゃいけないように思います。それで何か見返りがあればいいけど、大きな見返りが国からあるわけではないですから(苦笑)

たとえば、何人もの失業者がこの社会保障で生活できるくらいの金額をこのレストランや個人として収めています。それなのに、街を歩いていたら失業したホームレスの人たちから「アジア人!」と罵られたりするのは、やる気を削がれます。フランスで生きる人間として、決して少なくないお金を国に払っているんですけどね……。

生活保障の手厚いフランスならではの悩みですね。

Passage 53(パッサージュ 53) 料理

■それでもフランスの食材で目指す味を作りたい。

さまざまな悩みを抱えながらだと思うのですが、今後、フランスを移動されるご予定は?

佐藤氏:
今のところは無いですね。他の国に行きたいという気持ちはもちろんありますよ。東京とかニューヨークとか、すごく景気が良く見えるし、香港とかシンガポールも客単価が良いと聞きます。フランスは、税金が高いことに加えて、テロが起きてから日本やアメリカからの富裕層の来客が顕著に減って、今は直接売り上げに響いています。

それでも、フランスにいようと思う理由は?

佐藤氏:
フランスの食材が素晴らしいから。この食材でなければ、自分の目指したい味が作れない。それくらい、素晴らしいんです。だから、今のところはフランスにいます。

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