旨いものを作れば、お客様は来てくれる。シンプルだから、この世界は面白い

懐食清水
清水 俊宏

懐食清水014_R

■料理への目覚めをくれた、「1冊の本」との出会い

2016年4月からは、北新地の新注目スポットへと移転され規模を拡大。着実にステップを重ねておられる清水さんですが、独立されたのは随分早かったそうですね。

清水氏:
大阪・島之内に自分の店を構えたのが、ちょうど30歳の時です。料理の道に入ったのが、四年制大学を卒業して調理師学校に1年半通った後で、ちょうど25歳。修業期間4~5年で独立というのは、この業界ではかなり早いと思います。

料理人という仕事に興味を持ち始めたのは、大学4回生の時。当時、就職先をどうしようかと悩んでいた時に、あるテレビ番組で、「辻調グループ創設者の辻静雄さんの半生をモデルにした伝記小説が面白い」と紹介されていて、もともと本嫌いだったのに読んでみたいと思ったんです。それが、海老沢泰久さん著の『美味礼賛』だったのですが、料理の世界の奥深さに引き込まれ、夢中で読みました。

そうして卒業後は、もともと実家が魚屋だったので昼間は家業を手伝い始め、「魚を売るには料理を覚えた方が、お客様にいろいろとおすすめしやすいな」と、夜間の調理学校に通い始めたんです。すると、勉強しているうちに料理がどんどん面白くなって、実家を継ぐのを辞めて、日本料理の世界に入りました。

その後、どのように修行を積まれていったのですか?

清水氏:
まずは、調理師学校の紹介でホテル内の日本料理店へ入りました。ただ、古典的な料理を大事にされている店で、食べておいしいと思うことができなくて…。「自分が好きな料理だと思える店で修業をしたい」と考え、色んなところを食べ歩きました。

その当時、一流シェフと挑戦者が料理で対決するフジテレビの人気番組『料理の鉄人』が最盛期の時で。番組を見ていて、心斎橋の割烹『鶴林(現:鶴林よしだ)』の店主・吉田靖彦さんの創作性の高い料理に心惹かれました。早速、店に赴いて料理をいただいて、それがとても挑戦的でおいしかったんです。惚れ込んで、自分が料理人であることを明かして、「勉強させてください」と定期的に通って食べ続けていました。そうするうちに、「うちに来ないか」と誘って頂き、二つ返事で門をくぐりました。

『鶴林』では2年間修業しましたが、吉田さんからは料理の発想力はもちろん、気遣いについても勉強させてもらいました。例えば、左利きのお客様が座られたら全部左向きにお箸やお料理を出すなど、サービス業の非常に基本的なことです。
カウンターの店の醍醐味は、目の前で調理された出来たてのおいしい料理がいただけるところですから、お出しするタイミングやちょっとした心遣いが大きく問われますよね。最初は、お客様が求めておられることになかなか気付けなくて、よく叱られたものです。
その後、吉田さんから有馬温泉の旅館『中の坊 瑞苑』に修業へ出され、最後の2年間は料理の味を決める煮方のポジションを任せてもらい、それで自信もついて、1998年、30歳の時に独立をしました。

懐食清水

■独立後3~4年は、1週間で2名予約の時期もあった

開店場所を、大阪・島之内に決められた理由は何かあったのでしょうか。また、独立する時、周囲の反応はいかがでしたか。

清水氏:
島之内に決めたのは、タイミングもありますね。知り合いから「店舗が空いたけど、お店をしないか」と声をかけられて。資金もそこまでなかったので居抜き物件を生かす形で改装して。喫茶店のようなところで、当時は洋風の店構えでしたね。

自分で店をやることは、最初は母親から反対されました。でもちょうどその頃、今の妻と出会って、半年も経たない内に結婚を決断しまして。今思えば、この人となら一緒に店をやっていけると直感的に感じていたのかもしれません。「一緒にやってくれる人がおるなら、何とかなるやろうからやってみなさい」と、結婚を機会に母も独立を認めてくれました。
手前味噌ですが、妻は気立ても良くて従業員の面倒もよく見てくれ、頭がよく回るので資金繰りなど経営面は全部任せています。周りからも、「彼女がいなかったら、店は回ってないな」とよく言われます。店を運営する上で私が最も信頼しているパートナーですね。

10年以上修業を積んでようやく料理長や独立という世界の中で、異例のスピードで自店を構えられ、苦労も多かったと思いますが。

清水氏:
そうですね。最初の5年間…いや10年間は何もできなかったですね。今のようにお客様に評価いただける料理が出来るようになったのは、この3~4年の話です。
新しい店が出来たぞ、とふらっと入ってくださるお客様はいても、リピートしてくださる方はほとんどいませんでした。単純なことで、料理がおいしくなかったんです。もちろん当時は修業先で最後は煮方を任されたという自負はありましたし、自信を持って提供していました。しかし、圧倒的に経験が足りていなかったんでしょうね。

オープン当初は、1週間で予約2名という時もあり、それが4年半ぐらい続きましたよ。ずっと赤字でした。実家や妻にも援助してもらって、何とかやりくりしました。自分一人だったら潰れていたと思います。今でも思い出したくない苦しい時期ですが、料理人を辞めたいと思ったことはなかったです。料理の他に、生活していくための武器を持っていませんでしたし、何より料理が好きでしたから。辛いという感情より、何とか乗り越えようという気持ちの方が勝っていました。

懐食清水

お問い合わせ
06-6343-3140
アクセス
大阪市北区堂島浜1-2-1 新ダイビルF1
地下鉄長堀橋駅から徒歩10分
京阪大江橋駅から徒歩5分
営業時間
11:30~12:30(前日までに要予約) 17:00~21:00(LO)
定休日
日曜