「店づくり」は考えない。気持ちのいい空間を作りたい

御料理 壽修
先崎 真朗

御料理 壽修

■34歳で独立。経営が苦しくても守り通した「コース1万5000円」のライン

青山に「壽修」をオープンされたのは2010年11月。34歳の時ですね。開業準備で苦労されたことはありますか?

先崎氏:
役所での手続きや仕入先の確保など開業に必要な段取りは「西麻布 拓」で学ばせてもらっていましたし、修業中から店の規模やスタイルのイメージを固めたり、開業に備えて器を買いためたりと少しずつ準備をしたので、とくに大変だと感じたことはないです。ただ、開業後は資金面で不安が常にありました。東日本大震災の影響もあって、1年くらいは鳴かず飛ばず。お客さんが3日間来ないということもありました。

3日間ですか!それはつらいですね。

先崎氏:
新鮮でないものをお客さまにお出しするわけにはいかないので、余った食材は泣く泣く自分たちで食べるしかない。お陰で、最初の1年で体重が7、8キロ増えました。時間だけはたくさんあったので試作をしたり、プラス思考を心がけてはいましたが、「借金を抱えてお店を開いたのに、このままダメだったらどうしよう」と悩みましたよ。うちは開業時から夜のみの営業で、1万5000円のおまかせ料理1本でやっていますが、当時は「ランチをやろうかな」とか「もう少し価格設定の低いコースを作ろうかな」とか、いろいろと考えをめぐらせました。でも、それではコンセプトがブレてしまうということで、開業時のスタイルを貫きました。

ご自身のコンセプトとは?

先崎氏:
その時期ごとに一番おいしいものを料理してお客さまにお出ししたいんです。そのときに、「1万5000円」という価格が、私の使いたいと思う食材をご用意できるギリギリのラインだと考えました。

選び抜いた旬の素材を使うということだけは、譲れないと。当然、天然物を使うことになりますから、ある程度のコストがかかりますね。

先崎氏:
はい。今は市場に養殖の魚介やハウス栽培の野菜が出回っていて、いつがその食材の旬かわからなくなっているところがありますよね。日本料理の世界でも、「はしり」をありがたがって、旬のものを旬に食べない。鰹や鱧にしても店で出す時期がどんどん早くなって、本当においしい時期にはお客さんが飽きている。修業中からそういう一般的な傾向に疑問を感じていて、お客さんには素材の一番おいしい時に食べてもらいたいと思っています。市場に出回るのは仕方ないにしても、僕たち日本料理の料理人はちゃんと「この食材は今が一番おいしいんですよ」というのを伝えていきたいんです。だから、経営の苦しい時期も食材だけは厳選していました。正直、それができたのは妻のお陰。生活費は妻が仕事をして支えてくれていましたから、本当に感謝しています。

御料理 壽修 先崎真朗

■「おまかせ」を押しつけの料理にはしたくない

口コミで少しずつお客さんが増え、店の経営が軌道に乗ってきたのは開業1年が過ぎたころ。2012年には『ミシュランガイド』で二つ星を獲得し、現在まで維持している。

開業後、現在までにお店の運営として何か変えたことはありますか?

先崎氏:
現在、コースは9品ですが、オープンして2年目まではもっと品数が多かったんですよ。12~13品を今よりも少なめのポーションでお出ししていましたが、もっと1品に比重を置く料理にしたいなと思って変えたんです。

なぜ「1品に比重を置く料理にしたい」と思われたんですか?

先崎氏:
「斗々屋」さんの料理もそうだったのですが、上京後によく通っているフランス料理店がありましてね。そこの料理の素材の魅力を豪快に表現していて、例えば牛肉なら牛肉の味わいを濃厚に感じられて「牛肉を食べている」という満足感がある。日本料理店でよく見られるたくさんの品を少量ずつ出すスタイルよりも、ひと皿に力を込める方が僕の性に合うし、お客さまの記憶にも残るんじゃないかと思ったんです。

ご自身の個性をより強く打ち出されたのですね。一方で、おまかせ料理と言っても、お客さまに合わせて内容を変えてお出しになっています。

先崎氏:
そうですね。好きなものと苦手なものはうかがっておいて、お客さまに合わせてコースを組みます。常連のお客さまですと好みもわかっていますので、品数を減らしてメインの1品のボリュームを出したり、量をたくさん召し上がらない方には小鉢を増やして食材のバリエーションを楽しんでいただいたりと調整をしています。

常連のお客さまですと、夜メニューのようなものも出されているそうですね。

先崎氏:
何度か通ってくださる方には酒肴として2、3品をお作りしたり、ごはんとお造り、焼き物だけお出しするといったこともします。ご要望によっては、炒め物などまかない料理のようなものを出すこともありますよ。

ほかのお店で飲んだ後に、ちょっと立ち寄れるなじみの店を持つというのは、粋ですよね。そうやってお客さまの気持ちを大切にすることで、通ってくださる方が増えていったんでしょうね。

先崎氏:
お客さまの好みがどうあれ、あらかじめ決めたコースしか出さないというお店もあります。でも、僕はそうしたくないんですよ。おまかせ料理というのはもちろん、「店主がおいしいと思うものを責任を持ってお出ししますよ」という「おまかせ」でもあるけれど、お客さんに対して「あなたのおまかせをお作りしますよ」という意味もあると思う。お店のエゴを押しつけるのではなく、やはりお客さまが満足しなければ意味がないですから。

お客さまの存在ありきの「おまかせ料理」ということですね。

先崎氏:
中にはがんこ親父のお店が好きな方もいらっしゃるし、僕の考えがすべてとは思わないんですけどね。「おまかせ料理」を押しつけの料理にはしたくないんです。

御料理 壽修 外観

御料理 壽修

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