まずは目標を立てる。そこから逆算して人生を組み立ててきた

ZURRIOLA(スリオラ)
本多 誠一

ZURRIOLA(スリオラ) 料理
写真提供:ZURRIOLA

■旅行でたまたま訪れたスペインに魅了され、スペインに渡る

その後、スペインへ活躍の場を移しますが、そこにはどんな思いがあったのでしょう?

本多氏:
フランスのバスクで、スーシェフをしていたときに、たまたま旅行でスペインのバスクを訪れました。そうしたら、そこはフランスのバスクとはまったく違う世界が広がっていて驚いたんです。

人はおしゃれでしたし、食事をすれば何もかもがおいしかったですし。当時、バスクに三つ星の店がポーンと出てきたり、「エル・ブジ」の表現法が話題になっていたりと、スペイン料理が世界を席巻しようとしていた頃で、まさに「来てる」国でもありました。

僕自身のことでいうと、ちょうどその頃はフランスに渡って4~5年経ち、自分なりにがんばったなと思っていたときで、日本に帰ろうかとも考えていた時期でした。だから1年間だけちょっと見ていこうという軽い気持ちで、スペインのバスクに渡ることにしたんです。

スペインのバスクで働くことになった店は、どのようにして見つけたのでしょう?

本多氏:
フランスのバスクのレストランで働いていたときに、セップ茸を仕入れていたおじさんに紹介してもらいました。彼は、バスク地方のセップ茸をほぼひとりで取り仕切っている人で、広い人脈を持っていて。

スペインに行きたいと話したら、「よーし、任せとけ!」といってくれたんですよ。なぜか、僕は彼にかわいがってもらっていたので(笑)。紹介してもらったのは、星つきレストランではなく、トラディショナルな店でした。

それにはわけがあって、スペインで僕が見てみたい、学んでみたいと思ったのは「原形の料理」だったからです。星つきレストランだと、洗練され消化しきった料理しか見られません。けれど、原形を知らないと消化させることはできないと考えたからです。

ZURRIOLA(スリオラ) メニューをめくる本多誠一

1年のつもりが4年もスペインにいたそうですね。その魅力は何だったのでしょう?

本多氏:
スペインのバスクは、スペインの中でも大きな都市で、経済の流通もあり、お金があって人も交錯している非常に豊かな町なんですね。そうすると自然と文化は栄えるし、いろんなものが集まりますよね。

フランスのバスクにいたときは、これがバスクだと思って日々生活していましたが、スペインに行ってみて、バスクというのはスペインのほうのことを指すんだなと思ったほど、違うものでした。料理の技術のレベルは高いですし、素材の質はいいですし、衝撃的でしたね。

その店では、シェフも務めたそうですが。

本多氏:
スペインのレストランで働き始めて2年が過ぎる頃、28歳くらいでシェフになりました。現地の人から見たら、外国人がシェフになったわけですが、ずっといっしょにやってきた仲のいい子がいましたし、家も仲間とシェアして住んでしましたし、人間関係は良好でした。助けてもらったし志も同じでしたし、この時期にできた大親友が何人もいます。

今振り返ると、僕にとって、とても重要な時期だったと思いますね。スペインでの日々は充実していて毎日楽しかったし、もう永住するつもりだったんですが、30歳までには何らかの方向性を決めようと思っていて、9年間の海外生活を終えました。

9年間の海外修業を振り返って、どんな思いで過ごしていたのか教えてください。

本多氏:
ヨーロッパに渡ったとき、最低5年はいようと決めていました。観光で終えるつもりは毛頭なくて。何か行動を起こしたときに、「体験」だけで終わらせるか、何年かかけて「経験」に変えられるかは、ものすごく重要なことだと思います。

僕は、フランスやスペインにいたという体験がほしかったわけではないので、経験を重ねたいと、現地の人になりきろうとしましたね。フランスにいるならばフランス料理を食べようと、9年間で日本料理店に行ったのはたった2回だけですし、日本語は話しませんでした。

当時は、シェフや仲のよかった同僚の筆跡まで真似してレシピを書いていましたからね。それほどまでに、なりきろうとしたんです。それにより、外国人的なものの考え方をするようになったと思います。

ZURRIOLA(スリオラ) 料理
写真提供:ZURRIOLA

■日本に戻ってからは、自分ができることは何かと葛藤する日々

日本に帰ってきてからは、何をされましたか?

本多氏:
日本には、大親友のひとりであるスペイン人とともに戻ってきました。彼がちょうど1か月後に日本で研修することになっていたので。その働き先が、山本征治さん(※1)がオーナーシェフを務める日本料理店「龍吟」でした。

友人は日本語がほとんど話せなかったので、顔合わせの席に僕が保護者代わりについていったんです。そうしたら、山本さんに「ところで君は何してるの?」と聞かれて。

そこで僕の語学力をかってくれ、龍吟に来ないかと誘っていただいただきました。日本料理なんて今まで経験したことないし、当時は日本の食材はもちろん、和食用語さえもわからない状態でしたが、これらを学ぶには厨房に入るのが一番だと考え、お世話になることにしたんです。龍吟では、山本さんのヨーロッパ遠征のときに通訳として同行するほか、厨房にも入り、焼き場担当として1年半ほど働きました。

※1:山本征治氏については、Foodionのインタビュー記事を参考
https://foodion.net/interview/yamamotoseiji/

龍吟を辞めてからは、どうされたのでしょう?

本多氏:
実は、日本に帰ってきたときは、どこで何をするかまったく決めていませんでした。若くして日本を出ていたのでやりつくした感もあり、半年くらいゆっくりしてこれからのことをじっくり考えようと思っていたからです。

もともと、そう考えていたので、龍吟を辞めてどうしようかと、ほんの短い期間ですがバイトをして過ごしていました。そんなとき、「サンパウ」(※2)の東京店で働いていたフランス人のシェフから、「人を探しているんだけど、誰かいい人いない?」と連絡があったんです。

そして、偶然にも、その電話の一週間後に、僕はサンパウに予約を入れていました。そんな偶然が重なり、スタッフとして誘われ、ここなら自分の力を発揮できると思い、働かせてもらうことにしました。

※2:「レストラン サンパウ」
スペイン・カタルーニャの伝統料理をベースに、現代的な感覚も取り入れた創造性豊かな料理が楽しめる店。本店はスペインのカタルーニャ地方の中心地にあり、本店を開いたカルメシェフは、料理人出身ではなくベテランの主婦。努力と感性で開いた店というエピソードとともに、スペイン国内でも評判を呼び、2006年には三つ星を獲得。東京店は2004年にオープンした。

サンパウでは2年半働いたそうですが、その後はどうされたのでしょう?

本多氏:
サンパウで働いて、1年半くらい経ったころから、徐々に独立を考えるようになりました。

物件も具体的に探すようになり、スーシェフを務めた後、サンパウは2年半で辞めました。そして、いざ新規オープンに向けて準備を始めたわけですが、実はオープン予定日は2011年3月25日だったんです。

オープンに向けて準備が進むなか、あの東日本大震災が起きた。でもスタッフも決まっていたし、店はほぼできていたし、やるしかないと、店は4月15日に開けました。でも、はじめの2年間くらいは本当に低空飛行で……。

時間があると、ついいろんなことを考えてしまい、迷ったりするじゃないですか。今考えると、料理の方向性が決まっていなかったんだな、それではお客さんにも伝わらないだろうなとわかりますが、当時は悩む日々でした。

そこから抜け出したのは、どういうきっかけからですか?

本多氏:
迷っているときって、流行っているからとか評判がいいからとか、ついつい誰かの真似をして、模索をしてしまいがちなんですよ。僕も迷って悩んで、自分の方向性が迷走したりもしました。そんなとき、なぜ店名を「ZURRIOLA」にしたのかと自問したんです。

由来は、スペインのサン・セバスチャンで働いていたときに住んでいた家の、目の前にあったビーチの名前から取ったものです。あのときの気持ちを忘れずに、この先一生やっていこうという思いでつけました。それを思い起こしたら、経験してきたこと以外のものは出せない、できることは今持っているものしかないとわかったんです。

それに加えて、海外のお客さんに、「日本のフレンチと寿司屋は、みんないっしょだ。その理由は、SNSの画像だけを見て真似しているからだよ」といわれたことも、トンネルから抜け出せたきっかけのひとつですね。

少し年齢を重ねた料理人の店に行くと、どこも「自分の料理」を作っています。そこにはっとさせられたんです。こうしたことから、僕が食べておいしいと思うから出すということが、すごく大事だと気づいたんです。今までやってきたことを思い出し、「あれがおいしかったな。こうしたらもっとおいしくなるんじゃないかな」という考えで取り組むようになりました。

それからですね、徐々に上向きになっていったのは。そして、こうしたことを徹底していたら、ミシュランの二つ星が取れたんです。これがすべてではないですが、評価を得られたということは、いい方向性なのかなと自信になりましたね。

ZURRIOLA(スリオラ) ワインなどのお酒とワイングラスが並ぶ

ZURRIOLA(スリオラ) 外観

ZURRIOLA(スリオラ)

お問い合わせ
03-3289-5331
アクセス
東京都中央区銀座6丁目8−7
東京メトロ「銀座駅」 A1、A2出口から徒歩3分
JR「新橋駅」銀座口から徒歩7分
営業時間
ランチ11:30~13:00 (L.O.)
ディナー18:00~21:00 (L.O.)
定休日
月曜日