大陸をまたいだ、シェフの冒険。料理は人生を反映した物語である

Amber(アンバー)
Richard Ekkebus(リチャード・エッケバ)

Amber(アンバー)料理

■リチャード・エッケバス氏が追い求める、現代の料理のあり方。

フランス人でない、ということはフランス料理を作ることに影響すると思いますか?

リチャード氏:
宇宙飛行士になって月に行きたいと思った時に、(NASAの打ち上げ基地のある)ヒューストンで生まれる必要はありますか?今は中国で生まれて、宇宙飛行士になる人だっていますよね。フランス料理を作るためにはフランス人でなくてはいけないでしょうか?中国語が喋れるようになるためには中国人でなくてはならないでしょうか?
誰もが言葉を解釈することができるのと同じように、誰でも料理を解釈することができると思っています。

ガニェールから習ったストーリーテリングの重要性。今、表現したい料理の形とはなんでしょうか?

リチャード氏:
日本の食材は使っていますが、出汁の手法以外に日本的なところはありません。自分の料理は、あくまでもフレンチです。調味料に関しては、ごくわずかに隠し味として醤油を使う程度で、わさびを使ったりすることもありません。

例えば、エスコフィエと聞いて、誰もが「クラッシックフレンチ」を思い浮かべるでしょう。だけれども、エスコフィエの古い本を開くと、インドのスパイスの使い方をインド人のシェフから学んで、カレーのスパイスを使っているのです。つまり、新しいものに心を開いて、自分の物語を形作るために使ったわけです。だから私がフレンチに日本の出汁を使ってはいけない、ということはないでしょう。

もし誰かが、私の料理が伝統的でないというならば、何が伝統なのでしょうか?エスコフィエがカレーを使って伝統的であるならば、私が出汁を使っても伝統的なフランス料理でいられないことがあるでしょうか?

私たちは自由なのです。だからあなたのストーリーを作って行けばいいのです。もちろん、世の中には純粋主義者はいますし、彼らのことは尊重します。しかし、私はグローバルな世界の申し子ですし、これは私の物語で、私の人生が反映されているものです。

では、そういった視点から、これからの料理はどうあるべきだと思われますか?

リチャード氏:
現代において、塩やバターたっぷりのエスコフィエの料理をそのまま食べるというのは合理的ではないでしょう。
フレンチ自体も変わってきています。例えば、現代フランス料理の牽引役であるフランス人シェフ、ヤニック・アレノも、新しいものに対してオープンです。
わさびなど、日本的な食材を使うだけでなく、アンバーでも使っている手法ですが、コールド・クラリフィケーションというやり方で、野菜のストックを凍らせてエッセンスを抽出するような、新しい手法で軽い出汁を使うようになってきています。

私の考えでは、現代の料理はフェミニンであるべきだし、食べた後にお腹いっぱいになりすぎて、眠くなるようなものではいけないと思っています。
だから、私のレストランではほとんどバターやクリームは使っていないのです、
それは生活様式によるものです。昔のフランスの田舎では、肉体労働が主流でしたが、近年の仕事はコンピューターの前に向かう労働がほとんどです。
軽くて、健康的で、時間をかけずに食べられる。これが現代料理の在り方だと思います。

昔は4-5時間もかけて料理を食べるのが普通でしたが、娯楽の多い現代は、9皿のコースを1.5時間で食べたい、というようなニーズの方が高いです。

また、品種改良などにより食材自体が美味しくなっていることも忘れてはいけません。例えば、肉をとても完璧に焼くことができたら、肉そのものにしっかりと旨味とジューシーさがあるので、ソースで旨味を加える必要はないでしょう。例えば備長炭のようなもので軽く炙れば十分だったりします。

Amber(アンバー)Richard Ekkebus

■未来の世界はどうなっているのか。2020年代の料理を考える。

これからの目標はなんですか?

リチャード氏:
来年の夏に、3〜4ヶ月アンバーを閉めて、改装する予定なので、もっぱらそれに集中しています。12年間、アンバーは成功してきました。あと12年後の世界を想像して、どうやってその世界の中で成功するか、ということを考えていきたいのです。
例えば、2020年代の世界がどうなっているのか。テーブルリネンというのは、大して汚れていない大きな布を毎回洗濯するため、環境を汚染するものでもあると考えると、本当に未来のレストランに必要なものなのか。そんなことを考えています。レストランを、もっとサスティナブルにしていきたいのです。

あとは、ティーペアリングにも興味があります。中国といえば中国茶だったので、始めた頃に一度やったのですが、フレンチに来てお茶が飲みたくないと言われました。まだ受け入れる基盤がなかったのだと思います。しかし、今は変わりました。必ずしもアルコールを飲むとは限りません、人のチョイスがもっとヘルシーになったからです。
中国風の茶道、日本の茶道の抹茶で締めるのも良いですよね。
お茶には消化を促進する作用もあるので、健康にも良いと思います。

そして、60歳になったら、のんびり釣りでもして過ごすつもりですよ。

それでは最後に、これからのチームのあるべき姿とはなんでしょうか?どんな風に若い人を育てていきたいと思いますか?

リチャード氏:
私の厨房で育った若者が、ミシュランの星を取るようになってきています。私に取ってそれは何よりも嬉しいことです。自分の受け継いできたものを伝えていけていると感じるからです。

私は、レストランというのは進化し続けないと行けないと思っています。若い人を教える際には、コーチングの意識とメンターとしてのトレーニング、二つの要素が必要です。厳しくなければいけませんが、同時に楽しい環境でなければ、1日14時間も集中するのは難しいでしょう。

今、インターネットで探せば本当に色々な情報が載っています。私は若い人たちに、それに載っていないものを伝えたいと思っています。
例えば、全員が責任を理解して、チームで動くチームスピリットなどは、何かを読んでわかるものではありません。実際に体験してみないとわからないものです。

私は、素晴らしいメンターと呼べる人たちと出会えてラッキーでした。最近は若い人に忍耐力が足りないという話をよく聞きます。若い人へのメッセージとしては、数ヶ月で色々なレストランを転々とするのではなく、お互いに理解し合える師匠の元で、3年くらいは働くことが大切だということです。

レストランをもっとサステイナブルにすること、継続的に進化させることをこれからも考えて行きます。そして自分の受け取って来たものを、若い人たちに伝え続けて行きたいですね。

(インタビュー・文・写真:仲山 今日子、料理写真:店舗提供)

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