大陸をまたいだ、シェフの冒険。料理は人生を反映した物語である

Amber(アンバー)
Richard Ekkebus(リチャード・エッケバ)

Amber(アンバー)Richard Ekkebus

■香港のマンダリンオリエンタルへ。理想の舞台を設計する。

リチャード氏:
マンダリンオリエンタルは、飲食部門に力を入れているホテルグループですし、ザ・ランドマーク・マンダリン・オリエンタルホテルをオープンするタイミングでした。どうせやるなら古いマンダリンの歴史を引き継ぐ、というような形ではなく、ホテルの全権を委任してもらい、自分の料理のDNAをここで生み出していきたいと思ったのです。しかし、当時ホテルが話をしていたのは、私だけではありませんでした。師でもある、ピエール・ガニェール、「ファット・ダック」のへストン・ブルメンタール、そして私でした。

何度かホテルの上層部向けに料理を作りました。黒酢を使った豚肉やマグロに醤油とメープルシロップのソースをかけたものなど、当時の自分の料理のスタイルを一番表現していると思うものを提供したのです。その結果、自分の料理が認められ、このプロジェクトは君のものだと言われた時は、本当に嬉しかったです。

料理だけではなく、ホテル全体のマネジメント経験が豊富だったことが、私が選ばれた理由だったのではないかと思います。

ホテルがオープンする1年前にバルバドスでの契約が終わり、そこからホテルの飲食部門を全部考えました。レストランだけでなく、バーも、ルームサービスに至るまで、全部です。

構想を練っていた2005年当時の香港での主流は、とても古めかしいスタイルのレストランでした、サービススタッフも蝶ネクタイをした堅苦しいサービスでした。しかし、私は自分のレストランでは、ちょっと大きめのボリュームでエッジの効いた音楽をかけて、スタッフがそれぞれのキャラクターを出したサービスを提供したいと思っていました。

アンバーのインテリアのデザインにも、こだわりがあったとか。

リチャード氏:
私はアール・デコのデザインが好きなのですが、その時期はちょうど香港の黄金時代と重なります。
そのことを伝えて、内装は、以前から知っていたデザイナーの、アダム・ティハニー(Adam Tihany) に頼みました。
彼はラスベガスのチャーリー・パーマー(Charlie Palmer)のレストラン、「アウレオール(Aureole)」で巨大なワインタワーをデザインし、ワイン・エンジェルと呼ばれるスタッフが上から吊り下がるロープをつけてそれを取りに行くというような、ドラマティックなデザインで知られています。
私も自分のレストランを、このようなドラマのある場所にしたいと思ったのです。

例えば、天井の高さにこだわりました。ホテル側は、ここを本当に有名なレストランにしたいと言いました。私は「香港のように混雑した町で、ラグジュアリーを表現したいなら、最も必要な要素はスペースだ。天井の高さを2階分使って吹き抜けにすべきだ」と言いました。
同席した不動産業者は、「このシェフは香港のスクエアフィート単価をわかっていない」、と笑って歩き去りました。次の打ち合わせで、デザイナーのアダムが加わり、私に賛同してくれて初めて、この吹き抜けが実現したのです。

Amber(アンバー)壁一面のワインセラー

■香港で、理想の食材を求めた結果、辿り着いたのは九州。西洋と東洋の味覚の違い。

これまでも、その土地ならではの料理を表現されて来ましたが、香港ではどうされたのですか?

リチャード氏:
オープンは2006年。料理に関しては、モーリシャスの時と同じように、地元の食材を使おうと考えたのですが、蓋を開けてみると、これがうまくいきませんでした。地元の魚のグルッパや、XO醤などを使ったりしたのですが、「グルッパを食べるなら、中華料理店で食べる」と言われたり、「読解不能なダヴィンチコードのようなメニュー」と言われたこともありました。
実際に、香港の地元の食材は、限られた種類の中国野菜と魚だけです。そこで、オープンから2年経った頃、私は自分のバックグラウンドをもう一度振り返ってみることにしました。4つの大陸でキャリアを積んできた自分だからこそ、グローバルな食材を使って、もっと自由に料理をしたいと思ったのです。

そうして日本の食材に行き着いたのですか?

リチャード氏:
食材も地元産にこだわらず、近くで良質のものを探しました。その結果、日本とオーストラリアに行き着きました。

オーストラリア・タスマニアには素晴らしいものがありました。しかし、香港への直行便の便数が少なく、また時間がかかるために、海辺育ちの自分にとって、特に魚介類は、満足いく状態で届かなかったのです。

そこで、九州に食材の調査に行ったのですが、食材の品質が素晴らしく、ここの食材を使おうと思ったのです。まず、九州は香港から2時間しかかからない上、週に6便飛行機が飛んでいて、朝6時発の飛行機で九州を出た魚が、8時は香港に着き、厨房に12時に到着する。これは理想的でした。

食材を探しに、日本にもよく訪れていらっしゃるそうですね。

リチャード氏:
日本産である、というだけでなく、生産者に会い、赤ウニや野鴨など、香港にいる人たちが日本に行かないと食べられないような、貴重な食材を仕入れることにしました。

当時は毎月日本に行って生産者に会っていましたし、今でも、2〜3ヶ月に一度は日本に行っています。
そして、日本の食材を、フレンチのテクニックで料理するというのは、香港の人たちに広く受け入れられるようになりました。
それと同時に、味付けも工夫しました。

アジア人の味覚はヨーロッパの味覚と違うのでしょうか?

リチャード氏:
当初、私の作る出汁は、とても塩辛いと言われました。そこで、塩を減らして行ったのですが、それでも塩辛いと言われる。ついには塩を入れるのをやめたのですが、それでも塩辛いと言われて頭を抱えました。
なぜだろうと考えてみて思い当たったのが、旨みです。私の作る出汁はアジアの人には旨味が強すぎたのです。その理由は、西洋人と東洋人の、咀嚼の仕方の違いです。西洋人よりも東洋人の方が、食べ物をすり潰すように噛むので、食材からの旨みや塩分を感じやすい。

そこで、5年ほど前から、私はほぼフレンチのフォンやジュを使わず、日本の出汁を取るのと同じ方法でスープストックを作り、味のベースにしています。昆布やしいたけからの出汁だけでなく、肉の出汁を取る際には、塩を振った牛肉を豚肉を乾燥させた干し肉の塊を作り、鰹節を削るようにして削ります。昆布の出汁を取った後にそれを加えて、しばらくしてから漉して使っています。

出汁は味がしっかりしているけれど軽い。こんな風な肉の出汁をどう作ればいいか、と考えた末に思いついた方法です。

Amber(アンバー)内観

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