料理はラブ・ストーリーのように情熱的なもの

Ultraviolet by Paul Pairet
ポール・ペレ(Paul Pairet)

■頂点としての「ウルトラバイオレット(Ultraviolet)」

昨年ついに「ウルトラバイオレット」がミシュラン三つ星に輝きましたね。今までのご自身の人生の過程、技術、そして料理のアイディア全てがこのお店に総結集されているように思います。早速とはなりますが、これまでの過去のご経歴や、今のご自身に影響を与えている出来事について、お聞きかせください。

ペレ氏:
「ウルトラバイオレット」は、私の人生の全てを注いだ集大成です。私の人生そのものとも言えるプロジェクトです。完璧な出来だと思いますし、私の信じる全てを詰め込んでいます。もしみなさんがシェフでしたら、当店がまさに私の「夢」が現実になったものだ、ということをご理解いただけるのではと思います。

もし本気で何かを成し得たいと思ったら、ゴールに辿り着くまでに幾度となくやってくる全てのプロセスに根気強く向き合わなければいけません。時に障害が発生し、高いハードルが待ち受けています。立ち向かうためには、運と努力と意志の強さのコンビネーションが必要です。

私がもしレストラン界に名を残すことが出来たとしたら、それは間違いなく「ウルトラバイオレット」と共に残ると確信しています。「三つ星」というのは人生の中で名誉なことですし誇らしいですが、これはまだ全ての始まりでしかありません。

レストランを創るには、お金、時間、そしてエネルギーが必要です。忍耐が必要ですし、どこに出資していくかは最善の注意がいりますし、物資もたくさん必要です。ピザチェーンのようにコマーシャルをガンガン流すことで大成するビジネスモデルもありますが、いずれにしても店をオープンさせるということには、計り知れないほどの努力が必要です。

もう少し詳しく教えていただけますか?

ペレ氏:
この職業は、「得る」ことよりも多くを「与える」。これが基本です。正直に言ってしまうと割りに合うものではありません。それがこの仕事の現実であり、美しさでもあります。1日16時間働いたなんていう話は当たり前ですし、この業界はまだまだ体力勝負ですから。料理人の仕事は、体力と精神力を必要とする、ハードなものです。

シェフは仕事を辞めたいと思ったことはありますか?また「ウルトラバイオレット」は三つ星レストランの世界でも独創的なレストランだと思いますが、同店をオープンさせる際は挫折しそうになりませんでしたか?

ペレ氏:
人生にはいい日もありますし、上手くいかない日もあります。ネガティブになる日もありましたが、そういう時には私は1日の終わりに「一体どこに向かっているんだ?」「ゴールを先延ばしにするつもりなのか?」と自分自身に問いかけるんですね。料理の世界でなくとも、成功し幸せになれたかもしれませんが、私のDNAは迷わず料理を選んできました。

また、「ウルトラバイオレット」は、私の失敗の集大成でもあります。
フランスで生まれ育ち、香港で迷い、オーストラリアを訪ね、インドネシアを経由してパリに戻り、イスタンブールへ辿り着いた。そうした全ての経験の積み重ねがあったからこそ、私のグローバル・シェフとして、グローバル・トラベラーとして、そして人としての生き方を作りあげ、オープンマインドになることが出来たのだ、と思っています。
私は1996年から決意と信念を持って、この「ウルトラバイオレット」をオープンするプロジェクトを進めてきました。それはとても幸せな事でしたし、今でも「ウルトラバイオレット」は多くのことを私に与えてくれます。私たちは大きなプロジェクトを成し遂げることが出来ましたが、ここからさらに飛躍、継続し続けていかなければいけません。ただ、「ウルトラバイオレット」なら必ずできる、という確信が私の中ではあります。

■「赤ちゃんの目」で世界を見る

ペレ氏:
重要なことは平等主義であることです。例えるならば「赤ちゃんの目」のような無垢な心で見つめることです。
以前、缶詰にされたイワシと新鮮なイワシについて、どちらが劣っているなどということはなく、単にその2つは違うだけだ、という話をしたことがありますね。
缶詰のイワシは、(時々サバやマグロのこともありますが)私にとってピーナッツみたいなものです。バーなんかでよく見かける塩がついていて、食べ始めたらやめられないアレです。

大抵の食材はより新鮮でそのままのほうが高価ですが、缶詰のイワシには新鮮なイワシと違わぬ魅力があります。面白いでしょう。そういった食材はいくつかあります。缶詰だからと偏見を持たず、フラットに食材を評価し、採用することは大切にしていますね。「ウルトラバイオレット」のメニューAでは、フランス人の冷蔵庫には必ず常備されている「プレジデント・ブランド」(フランスのスーパーで一般的に販売されている大衆向け乳製品メーカー)のカマンベールチーズを使っています。

シェフはスーパーの商品も高く評価されているのですね

ペレ氏:
私はスーパーマーケットをとてもリスペクトしています。もちろん、食材はより自然なものが良く、出来るだけ人工的でないほうが良い、というのは理解していますし同意もしますよ。スーパーの商品、どれもがうちの店で採用されるわけではありません。しかし、私はスーパーマーケットが担ってきた膨大な供給の価値を忘れつつあるのではと思っているんです。例えばですが、もしも、みんなが自分で牛を育てなければいけなくなったら、どうします?まさか!そんなことできっこありません(笑)!

みんながみんな、良いレストランで出されるような食材にありつけるわけではありません。だから、私がスーパーマーケットをリスペクトしている理由は、多くの人に同じように高いクオリティのものを提供し、それを保っているという所です。もちろん、加工のされ方などについては、まだ課題が多くのある商品もあります。しかし物事はより良くしていけるのです。ポイントは、物事をよく考え、見極めることです。

画像提供:Ultraviolet

「赤ちゃんの目」を持つというコンセプトはあなたの中にどういった影響を与えていますか?

ペレ氏:
何かを認めるためには、誰しも少し大人になる必要があります。音楽で例をあげましょう。私はずっとクロード・フランソワが好きでした。(クロード・フランソワ:1960年代~1970年代に人気を博したフレンチ・ポップ・シンガー。)彼は変わった人なので、だれかに「何が好きなの?」と聞かれたら、「クロード・フランソワが好き。」と言うには少し勇気がいります。俗っぽいですからね(笑)料理も同じことです。あなたがマクドナルドのハンバーガーがとにかく好きだとしても、それを自分で認めて人に伝えるのに、なんとなく躊躇してしまうことはありませんか?

一方からはあまり評価されないことだったとしても、そこには価値があるものです。私の場合は、声を大にしてラッフィング・カウのチーズ(ラッフィング・カウ:ヨーロッパや北アメリカで広く売られているプロセス・チーズ。)が好きだと言いますけどね!
私の人生で何よりもずっと好きなものかもしれません。そして今でも大好きです。

同じものでも、好きな人とそれを嫌いな人がいるというのは、当然のことだと私は思います。私は箱(=あり方の例え)の内にいたい訳ではなくて、箱の外に出ようとしている訳でもない。でも箱の中にただおさまってもいられない。箱と言っても色んな箱があり、何が正しいかは日々変わっていくのです。特に料理の箱は無限に広がる可能性を持っていて、それは年々変化しています。

世の中の流行にも賛成しますよ。地産地消にも悪くないです。素晴らしい。むしろ最高です。
いま私は上海にいますが、地産地消できるかって?もしこの地で人々に聞いて回れば、何か見つかるかもしれませんが、半径5km以内で見つけようと思ったら、相当大変です。マクドナルドくらいしか見当たらない(笑)
流行は理由があって広がるものです。流行が悪いわけじゃない。でも、ただ流行に流されているだけでは、風刺画に描かれるだけです。でも「流行には興味ない」と言い切ってしまうのは、もったいない。自分で好き嫌いを見極めることが大切だと思います。

Ultraviolet by Paul Pairet

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