地元や家族から得たパーソナリティを料理の原点とし、世界に発信する

HOMMAGE(オマージュ)
荒井 昇

HOMMAGE(オマージュ)まかないの様子

■チーム力を高めて、二つ星へ

星獲得を喜んで、戻ってきてくれる地元のお客様もいたのではないですか?

荒井氏:
それが、むしろ浅草の地の矜恃というか、星みたいなものがつくと、喜ぶというよりは敷居が高くなったと受け取る人が多いので、地元の人はむしろ遠ざかってしまって。正直、一つ星を獲ったくらいでは、昔のスタイルを知っている人にまた足を向けてもらうには至りませんでした。

海外のお客様も少しずつ増えましたが、やはり大きく変わったのは二つ星を獲ってからです。ミシュランでは「三つ星はそこへ行くために旅行する店、二つ星は遠回りしてでも行くべき店」と言うじゃないですか。だからやはり、二つ星くらい獲らないと、わざわざ食べに来てくれる店にはならないんですよね。

2018年に二つ星を獲得し、そのそうした変化は実感されましたか?

荒井氏:
海外からのアプローチの多さに驚きました。イベントのオファーが増えたり、海外で有名な人たちからメッセージが届いたり、そういう人たちが実際に食べに来たり。

僕が6年前くらいに食べに行って素晴らしいと思った、シャンパーニュにあるホテルのシェフがいるのですが、まさかその人が僕の店に食べに来るなんて、想像もしていませんでしたね。

そうなんですね!二つ星を獲るために、何か工夫されたことはあるのですか?

荒井氏:
スタッフには4年前くらいに「二つ星を目指そう」と話したのですが、そのときに言ったのは、「もうここは二つ星の店だと思って働いてくれ」ということです。

例えば料理のクオリティやお皿の美しさなど、「これが二つ星と言えるのか」ということを、正解がわからないなりに、スタッフみんなで細かく話し合って考えました。

私自身は、今の世界基準が何なのかということを自分なりにリサーチしました。独りよがりではなく、世の中のお店がどういうクオリティで料理を作っているのかを理解するために、海外にも食べに行きました。創作している自分のアイデアのクオリティが、どこに出しても恥ずかしくないようにしなくてはと思ってましたからね。

だからこそ厨房もサービスも、すごく細かい仕事をしないといけなくて大変だったと思いますが、みんなが頑張ってくれたおかげで結果につながりました。

リサーチされた上で、料理に関してはどういうクオリティが必要だと感じられましたか?

荒井氏:
ディテールに対する考えを、どこまで詰めていけるかが大事です。お客様の口の中を想像しながら、料理のフレーバーや食材の切り方など、届けたい表現を作っていかなくてはならないと。今でも、それを常に考えて料理を作っています。

海外にリサーチに行かれるときも、お店は開けられているんですよね?

荒井氏:
今はスタッフも育っていて任せられるので、営業したまま1週間ヨーロッパに行くこともあります。

日本の個人店では、自分がいないときに営業することに抵抗がある人も多いかもしれませんが、海外のシェフでリサーチに行くために店を閉める人は少ない。二つ星や三つ星を獲っている人は、自身が不在でも任せられる組織を作っていることが多いのです。

チームも含めて自分のパーソナリティ、という中でやっているんですね。

荒井氏:
お店として、「僕がいるから100点、いないから60点」では全然意味がないのです。僕がいなくても80点、90点、100点であるためにはどうしなくてはいけないのかを考えなくてはならないんです。

なぜなら、二つ星は僕についているのではなく、「オマージュ」というお店についているのだから。僕がいなくても「オマージュ」は二つ星。その意識を普段からスタッフみんなに持ってもらうのは大切なことだと思っています。

HOMMAGE(オマージュ)厨房

■料理を通して、浅草を盛り上げる

今年、2店舗目であるビストロをオープンされました。なぜ、ビストロなのでしょうか?

荒井氏:
一番の理由は、地元浅草のお客様にも楽しんでもらいたいから。星を獲得することを目指すがゆえに、地元から距離が遠くなってしまったところがあったものの、地元に根付く店というのも創りたいですから。

ありがたいことに、こっちだったら来れると言って来てくれています。ビストロの方は、創業当初のあの感じで、地元とのつながりを持ちながら浅草の良さを発信していける店にしたいんですよね。

かつては単価を上げる中で地元のお客様が離れていく苦労も経験されていますが、やはり浅草に対する思い入れは強いんですね。

荒井氏:
フランスでは、自分の地元のために働くのが美徳。有名なお店もシェフの地元にあるんですよ。マルコンシェフのお店も小さな村にあるのですが、その店がミシュランの星を獲ることで町が栄え、三つ星になれば世界に知れ渡るわけです。それってやはりすごいですよね。フランスのそういうところが素晴らしいなと思って、感化された部分はあります。

リニューアル時に掲げた「浅草をひとつの地方として捉え、そのテロワールを料理に表現する」という目標のために頑張りたいというのもありますし、また、オープン当初に自分を評価してくれた人たちに「自分の見立ては間違っていなかった」と思ってもらいたという気持ちもあるんです。

結局、今の僕やお店があるのは、これまでに辞めていったスタッフやお客様も含めて、色々な人たちの協力があったから。だから、「オマージュ」に関わってくれたすべての人たちが、誇りを持って語れるお店であり続けたいと思っています。

そうだったんですね。そういえば、奥様もスタッフとして入られていたり、お子様もビストロの厨房に顔を出されたりしていますが、ご家族と一緒に店を作るというのは意識されているのですか?

荒井氏:
そうですね。夫婦でお店をやるのはお互いに苦労もありますが、でもやはり、僕らは2人で1人なのかなと感じています。協力がないとできないですし、任せられるからこそ色々挑戦できるというのは大きいですね。
家族を思う気持ちはお客様へのおもてなしにも結び付きます。

僕のお店では、お客様にはやわらかい気持ちで過ごしてもらいたいんです。他の二つ星や三つ星のレストランに漂うような緊張感のある雰囲気ではなく、もっと独特な、個人店ならではの雰囲気にしたい。だって、大きい店と同じステージに乗っかったって仕方ないわけですよ。全く別のアプローチで考えていかなければ、抜きんでることはできません。だから接客はアットホームで構わないと思っています。

資金力があるわけでもないし、ソムリエもいない。マダム以外のスタッフは若くて経験も未熟。だけど、それでも二つ星がつくという現実を多くの料理人に知ってもらいたい。みんなが目指す必要はもちろんないけれど、可能性がないわけではないし、できないことではないんですよ。

HOMMAGE(オマージュ)荒井昇 厨房

■ジャンルの枠を超え、パーソナリティで勝負する

元々フランスから日本に戻られたときに、日本ナイズされたくなかったとおっしゃられていました。一方で、ミシュランの星を獲得された今、日本だから食べられるフランス料理を作りたいという意識が芽生えるようなことはありませんか?

荒井氏:
それについては、二つ星を獲るために海外を意識し始めたときに、大きく変わりました。

厳しい真実を言うと、フランス料理という「ジャンル」で、日本人は永遠にフランス人に勝てない。だからこそ、「ジャンル」ではなく、「シェフ個人の料理」で勝負しなければ、世界では戦えないと思う。

今、僕の店には海外から食べに来てくれるシェフもいますが、その人たちはフランス料理を食べに来ているのではなく、「ノボル・アライのフランス料理」を食べに来ているんです。

パーソナリティが大事とは言え、形式がある中で個性を出していくのは難しい話ですよね。

荒井氏:
それぞれの能力が思いっきり問われます。型通りのフランス料理を作り続けるのも、すごく大事な使命だし、そういうお店も私は素晴らしいと思います。ですが、「オマージュ」には、これまでいなかったような客層を世界に広げていくことを意識したい。そのためには自分のパーソナルな部分でも勝負しなければならないと、僕は思っています。

ただ、間違えてほしくないのは、別に全員が世界レベルを目指さなくても良いということです。僕は「星を獲れたら良いな」という想いがあったからそれに挑んだだけで、幸せの形は人それぞれ。だから、評価されることよりも自分の作りたいものを作り続けるのが幸せという人は、それを追求すべきだと思います。

お店の在り方や目指す方向性を決めることは、自分の人生の選択をすることなのですから。

(聞き手:齋藤理、文:向井雅代、写真:清水知成)

HOMMAGE(オマージュ)内観

HOMMAGE(オマージュ)内観

HOMMAGE(オマージュ)外観

HOMMAGE(オマージュ)

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