「日本」ではなく「自分」を武器に、世界に挑戦できるお菓子作りをしていく

MORI YOSHIDA(モリヨシダ)
吉田 守秀

MORI YOSHIDA 吉田守秀

■新しいものを作るためには、フランス菓子のベースそのものをしっかりと理解する必要がある。

具体的に、なぜフランスにお店を出そうとしたのですか?

吉田氏:
フランス菓子職人として、フランス菓子を作っていくためには、やはりベースとなるものをしっかりと理解しておく必要があると思いました。やはり、フランス菓子はフランスの文化・歴史・宗教的な背景に基づいているものですから。

最初フランスに行ったときは、フランスのフランス菓子には魅力は感じませんでしたが、その頃には自分がおいしいし面白いと思えるフランス菓子も少しずつ出てきました。それに、マルシェにいけば良い品質の素材がたくさんあって、それを使ってお菓子を作りたいと考えたんです。

本当に心からおいしいと思えるパティスリーは数軒程度だったので、ここで戦ってみるのもいいと思ったのもひとつの理由です。

2013年に「MORI YOSHIDA」をオープンされましたが、フランスでお店を出す時の困難は?

吉田氏:
何もかもうまくいかないことですね(笑)。

たとえば最初は工事が3ヶ月で終わると言われていたんですが、最終的に8ヶ月もかかりました。その間、いろんな問題が発生して追加で料金が発生したりと、本当に大変でした。でも、3ヶ月と言われたら1年以内に終われば良い方とか、そういう世界なので…。

大変だった反面、8ヶ月間とくにやることもなかったのでメニュー構成を考え直したり、レストランやパティスリーを食べ歩いたりと、結果的に重要な期間となりました。

フランスでの開業は営業権の値段が高いことが障壁とされています。

吉田氏:
日本ですでにお店を経営していたので、自己資金での開店で賄いました。日本の会社の資金で、フランスに会社を立てました。開店するときは、いろんな問題があるので、現地の方に協力していただくという選択肢もあったのですが、どうしても自分の色が薄れて自分の考えがぶれるという事態だけは避けたかったので、すべて自分で開店準備を進めました。そうでないと、わざわざ自分の店をパリに持つ意味がないと思ったんです。

MORI YOSHIDA 吉田守秀

■素晴らしい「食」を持つ日本が、「食」をリスペクトしない現実。

ところで、現在はどういったチームでお店を運営されていますか?

吉田氏:
4人の日本人パティシエがいて、販売員が4人、それに中国人の研修生が1人います。入れ替わりはありますけど、基本的にアジア人が多く働いています。

求職者は多いですか?

吉田氏:
場合によりますが、日本の知り合いから「うちで働いてる子がフランスに行くから」と紹介を受けることはあります。また、時期によってはフランスにある日本人向けの求人媒体に広告を載せたりもします。

どういった採用基準?

吉田氏:
「言葉」か「技術」のどちらかがある人を採用するようにしています。というのも、言い方が悪いかもしれませんが、フランスの空気を吸っただけでお菓子がおいしくなると思っている人たちがあまりにも多くて、そういう感覚を持っている方は、まず伸びないと考えています。武器無しでいきなりメジャーリーグに挑戦しているような…。

ただの憧れとか夢だけじゃなくて、真剣にキャリアアップ・スキルアップの意識を持っている人が結果的にうまくいくと思っています。

MORI YOSHIDA 吉田守秀 厨房にて

若い世代は、あまりに安易に外に出ないほうがいいと?

吉田氏:
もちろん、すでに技術なり言葉なりの武器があれば、むしろどんどん外に出るべきだと思います。というのも、日本にいると、残念ながら、お菓子職人というのは社会的に評価される職業ではないという風潮があります。というよりも、料理人含めた食べ物を作る人全般が、ですかね。

フランスを含めた外国では、評価される職業?

吉田氏:
そうですね。まず、現実的な話をしますと、いただける給料の額が違います。たとえば、日本含め、モスクワやイスラエルなどいろんな国でデモンストレーションや講習会をすることがあるのですが、日本のオファー額はその他の国の半分ぐらいだったりもします。

どうして日本って素晴らしい食文化を持っているのに、食べ物をクリエイトする人を尊重しないんでしょうか。背広を着て計画を練っている人の方が偉いというか。ですが、そこはやっぱり両者対等でやっていかないと絶対にうまくいかないと思います。

これがフランスだと、「アイディアを出す」「クリエイティブなことをする」という行為にお金を出すのが当然だという環境があります。だから料理人とかパティシエは医者レベルのステータスになったりもする。

これが日本だとどうしても、「え?原価がこんなに安いのに、こんなにお金とるの?」といった具合に、「創造性」にお金を払う文化が薄いように思います。

日本人のパティシエがフランスにお店を持つことは、キャリアとしてどう思いますか。

吉田氏:
正直、人によると思いますし、まだなんとも言えません。日本の中でキャリアアップして日本でお店を出すっていうのも、一つの道としてとてもわかりやすくて良いと思います。

ただ、自分が日本でお店をやったときは、静岡県という環境もあったのかもしれませんが、なぜだか自分の意志で自分のやりたいことをやっているようには思えなくて、だからといって静岡の人が東京にお店を出すのもなんだか面白くないなと思って、フランスに来ました。

ただ、これが正解だったかどうかなんて、あと10年か20年は続けないと答えは出ないと思います。だから、パティシエとしてのキャリアを考える時、大事なのはどこでやるのかを初めに考えるのではなくて、何年後に何になっていたいのかを真剣に考えることだと思います。何年後に何をしたいのかが明確にわかっていれば、今日何をすればいいのかがわかるし、どこで学んでどこにお店を出すべきなのかが自然とわかってくるはずです。それをしないで、ただ淡々と毎日お菓子を作っているだけでは、面白くないと思うんです。

MORI YOSHIDA 吉田守秀

■「日本人」としてフランス菓子を作るとき、「日本」ではなく「自分」を意識する。

吉田さんには今の日本のパティシエ業界はどのように見えますか?

吉田氏:
そうですね、それなりに盛り上がっているようには見えるんですが、50代前後のトップパティシエと言われている方々がここ10年間ずっとトップであり続けている気がします。

フランスだと、若手のパティシエがポンっとメディアに出てくるんですが、日本ではそれが無いですね。それだけ、日本のトップパティシエの方々がすごいパワーを持っているし、魅力的ということかもしれません。しっかりとしたロジックとパッションを持っていて、だからみんなそれに付いて行くのかなと。

吉田さん自身は、どういうロジックとパッションを?

吉田氏:
自分は、まずパリにしっかりと軸足を置くつもりです。そうやっていく中で、日本との絡みも持ち、同時に、フランス人に対して「日本人が作るお菓子って面白いよね」って思わせるような活動をしていきたいなと思っています。

日本人が作るお菓子とは?

吉田氏:
よく、自分が日本人だと知ると、抹茶や柚子は使わないのかと聞かれることがあります。ただ、そういった日本の食材を使うと、正直、誰にでもできるお菓子になってしまうと思っています。それじゃ、フランスでやる意味もないし、「MORI YOSHIDA」がやる意味はないな、と。

だからぼくは、甘さのトーンだとか、お菓子作りのテクニックだとか、そういう自分の中に蓄積された感覚と技術を全面に出してお菓子作りをしたいと思っています。

もちろんぼくは日本で育った日本人なので、自分を出していくうちに、自然と「日本」という要素も滲み出てきます。たとえば、季節になると、自分は苺のショートケーキを作ったりします。テクニックは日本のものだけど、ベースとなる食材はフランスなので、まさに「日本人が作るフランス菓子」って感じでとても面白いと思うんです。

日本の食材を一切使われていないですね。

吉田氏:
たまに、要望があって期間限定でやったりはしますけどね(笑)

ただ、基本的には、フランスの食材だけをベースにフランス菓子を作ろうとしています。そもそも、フランスでお店を開こうとしたとき、粉もバターもフルーツもフランスの食材がうまいからフランスでやっていきたいっていう気持ちがあったんです。

最後に、若いパティシエの方々へ一言お願いします。

吉田氏:
そうですね、正直、表面上だけ「おいしいお菓子」を作るだけだったら、たとえばうちで1週間学べばできるようになると思うんです。ただ、そのお菓子がなんで作られるのかという理由だったり、背景だったり、あるいはなんでこういう商品構成でこういう味なのかってことをわかっていないと、「面白いお菓子」は作れるようにならないと思います。だから、コンクールとかでは勝てたりするけど、「面白いお菓子」まで辿り着ける子はなかなかいないな、と思います。なぜ、そのお菓子が作られるのかまで考えたうえで、真のお菓子作りをしてみてほしいです。

(インタビュー・文:マエダジュロウ、写真:Yurina NIIHARA)

MORI YOSHIDA 吉田守秀

MORI YOSHIDA 外観

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