追い求める味を思い描くには、そのレベルの料理を知らなければならない。

直心房 さいき
才木 充

直心房さいき

■日本料理の世界に魅了されるきっかけになった師匠との出会い

大学時代はどのように過ごされたのですか。

才木氏:
京都にはいて欲しいという父の希望もあり、最終的に同志社大学に入学しました。とはいえ、家にこもっていたら葛藤していた中学時代と何も変わらないので、アルバイトに明け暮れました。結局、お好み焼き店やバーの接客など飲食店が多く、ほぼ実益を得るような形ではありましたが。その中でも今の仕事に生きていることは、働く上での心構えですね。色んな環境で色んな人と接しながら、お客様にもっと喜んでいただくには、どうしたらいいかを考える姿勢が身につきました。これは、飲食業だけじゃなく、どんな仕事においても大事な、根っこの部分だと思います。

当時は、料理人の道を歩むことに抵抗を感じていたものの、現在は非常に生き生きと料理と向き合っているように感じます。転機はいつだったのですか?

才木氏:
卒業後に預けられた最初の修業先で、職人の世界に触れたことですかね。幸運にも業界の第一線で活躍されていた村上一さんに師事させていただきました。盛りつけから器の使い方、食材の選び方、生かし方…すべて目から鱗が落ちるようなものばかり。日本料理ってこんな世界なんだ、この先にある日本料理の素晴らしさを知りたくなったんです。

というのも、実家の「さいき家」は、坪ほどの地に畳の宴会場を備えた大箱の料亭でした。主に冠婚葬祭や催事などの仕出しがメイン。おいしさやおもてなしの追求というよりは、スピーディな配膳やスタッフへの的確な指示出しなど、いかに効率よく店を回すかが大前提の商売でしたから。美味しくなければいけないけども、満足して頂く捉え方が少し違ったような気がしていた。

結局、その後、村上さんの勧めで新潟や神戸でも研鑽を重ね、トータルで6年半ほど修業に出ていたと思います。他の店で働き食べあるきをする中で、ギャップを感じながら、自分なりに満足感に対するスタイルがだんだん確立されていきました。

直心房さいき 才木充

■28歳で実家を継ぎ、42歳で移転・リニューアルへ踏み切る

その後、ご実家にはどのような経緯で戻られたのでしょうか。

才木氏:
父はかなり癖の強い人間で、ぶつかることは分かっていたので本当は実家にはまだまだ帰りたくないと思っていました(笑)。でも29歳の時、店の子が辞めるからと呼び戻されました。私の将来を考えてじゃなく、人が足りないから呼び返すというのは、自分が歯車の一つとして考えられていることを痛感して、正直言うと複雑というか納得いかない気持ちでしたね。人が増えたらもう1度、外に修業に出直そうという気持ちで戻りました。

しかしながら結局、私の父が還暦で引退するまでは、「さいき家」で若主人として働き、引退後は3代目としてぼちぼち商売をしていました。そうしていよいよ建物の老朽化が進み、知り合いの設計事務所や工務店の方からの勧めで、外壁から全部直すことを考え始めました。しかし木造ではなく重量鉄骨だったので、いろいろ手をかけると4億円ほどかかると分かり、さすがに飲食店単体の利益では採算が合わない。

どうしようかと考えあぐねていたところ、知り合いから今の場所を紹介されたんです。自分自身、この先どのような店をしていきたいか考える岐路に差しかかっていたことも重なり、移転を決断。父も「お前がそう思うなら」と背中を押してくれました。

新しい出発にあたり、ご苦労された点は。

才木氏:
移転にあたって、料理や店のスタイルもすべて一新することにしたので、これまで「さいき家」の味をご愛顧くださっていた方からは、「わしらどうしたらええねん」という声が絶えませんでした。宮内庁から直々に依頼をいただいていた、えぼしぎ(祭り)の仕出しなども任されていましたし、その地域の方々には料理をほとんど私たちが届けていたので、ひたすらお世話になった方たちに頭を下げてまわりました。

また、今の場所も築60年ぐらいの建物だったので、徹底的に改築する必要があり、素材から細部の作りまでこだわり抜いたのでなかなか大変でした。カウンターや玄関の踏み石などは、祖父の代から使ってきたものを持ってきたものです。これまで代々継がれてきた歴史を、自分の代で手放すべきではない。今でも気持ちを奮い立たせてくれるものになっています。

代々受け継がれてきたものを守ったり義理を通したりというのは、時にしがらみに感じられる方もいるようですが、私は背負っているプレッシャーであると感じると同時に、自分だけで独立した人にはない心強い「ブレーン」であり、特権であると考えています。

リニューアル後、お客様の反応はいかがでしたか。

才木氏:
もともと「さいき家」とは客層も異なる店で、特にその時代のお客様が来られるということではなかったので、今でも1組、2組おられるぐらいです。ですのでオープン当初は、軌道に乗るまでは2年程は苦戦しました。店の外に看板を出したり、必死にいかにお客様に来て頂くか考える毎日でした。次第に、「○○さんの紹介で」と予約の電話をいただけるようになり、繰り返し来店してくださるお客様が増え始め、自分の思い描いていた通りに、ようやく店が回り始めたのは開店3年目の頃でしたね。

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