食材や料理に正直に謙虚に。料理人は料理の最終提供者としての責任がある

祇園 大渡
大渡 真人

祇園 大渡 大渡真人

◼食べ歩きで得た新たな料理の世界。一からの修業し直しを決断

その気づきは働いていたお店にも影響しましたか?

大渡氏:
働いていたお店で出世するのは早かったので、日本料理をきちんと修業できていたわけではありませんでした。
例えば玉味噌(白みそに卵黄・砂糖・酒・みりんなどを加え、弱火で練り上げたもの)は一時間くらい練るといったことも知らなかったですし、ゴマ豆腐も一時間くらい練るんですが、固まればいいと思ってました。
これはあかん、基本が全然わかってないと思い知らされました。

それで、もう一度ゼロから修業し直そうと思い立ち、妻にも相談しました。給料がガクッと下がってしまうけれど、しっかり修業したいと。妻も理解してくれて応援してくれました。

そこで修業させていただくことになったのが宗右衛門町の「本多」という日本料理店です。

僕はソムリエの資格も持っていましたのでご店主の本多さんで活かせたらなと。本多さんは快く応じてもらいました。
本多さんは当時話題の店でとても忙しい店でしたが、いろんなを勉強させてもらいました。和食ってこんなに細かいことするのかとか、お魚ってこういう風に置かなあかんのやとか、お出汁ってこういう風にひかなあかんのやとか、完全に一から就業し直しました。

なぜ「本多」を選ばれたのですか?

大渡氏:
その時代は単品の店が多かったんです。今でこそコースの店が増えてきていますが、当時はあまりなく、その中で「本多」はその数少ないお店の一つでした。

門上武司さんの「京料理おあがりやす」を愛読していたのですが、その本に変遷が書いてあるんです。その本を読んで「コース料理の方が自分の料理の世界を表現できる。」と思いました。

その昔は旦那衆が料理を詳しく知っていたこともあり、自分たちで料理を組み立てて注文するのが通であるとされていましたが、時代も変わり、料理を楽しまれる方も増え、楽しみ方も変わってきました。
その中で、お客様は単品料理のお店で上手に注文できない人が結構いるんだということに気が付きました。
唐揚げちょうだい、天ぷらちょうだい、と。刺身はまぐろでいいや、と。
お客様任せで料理を頼むスタイルだとお店本来の料理の良さを出しきれなかったり、お客様自身もご注文を迷われたりして疲れてしまいます。
こちらから料理をプロデュースしていったほうがお客様にとっても幸せになる。これから絶対コースのほうが求められると思ったんです。

その後、大阪の「津むら」でも修業をされたそうですね

大渡氏:
「津むら」のおやっさんに常に言われたことは、正直に謙虚に、食材に対しても人に対しても常に正直にいないと絶対人に見られてるからと。ですので、まず良い食材を仕入れて、自分で料理のイメージつけて、それから料理をしなさいと。食材にも見透かされると言われたことは今も心に刻んでいます。

「津むら」のおやっさんは、料理は逆算したら絶対ええもんはできない。という考え方。
例えば1万5000円の料理だから原価は5000円。原価5000円だから鯛はこれっていう風にやってたら、絶対にええ料理はできないから絶対に逆算はするなと言われました。

祇園 大渡 大渡真人

その頃は料理というより料理人としての姿勢や考え方を学ばれたのでしょうか

大渡氏:
月に2回は他のお店に食べに行こうと。で、月に1回は「草喰 なかひがし」。1回は話題の店へ。

月2軒食べ歩きするうちの1軒が必ず「なかひがし」だったんですか?

大渡氏:
食べ歩きしてる時に、そのお店のお料理を勉強させてもらうのですが、それよりもご主人の心意気とか、なぜこの設えにしたのか、ここの主人が何をどう考え料理をお出しいるのかを考えることの方が多かったですね。

「なかひがし」はけして豪華な料理ではなく、むしろ素朴な料理がでてきます。草や川魚…。でも「なかひがし」ご主人の中東さんはほんとうに毎朝大原を回って野菜を摘んでおられます、それを大切に八寸を作ってお料理を提供されるんですね。
なかひがしさんの料理はなぜだか心が満たされるんですよ。その秘訣は一体なんだろうと、それを知りたくて毎月通わせてもらっていました。

その答えは見つかりましたか?

大渡氏:
まだはっきりとは分かりませんが「おもてなしの心」なのかなと思うんです。
僕が店を始めた当時、お客様は1週間に2人とかありましたから。で、悩んでるときに中東さんが飯食いにいこうって誘ってくださいました。
その時胸の内をあかすと「3年間うちの料理食べてどうやった?」って聞かれ。
「いや、おいしいのはもちろんなんですけど、それより心を満たしてくれるんです」と。
そうすると「例えば2月頃であれば、僕はつくしを昼はひとり1個、夜は2個。だから12個と48個で60個を、毎日雪の中から探すんだよ」とおっしゃるんです。
僕にとってのおもてなすってことは、そういうこと。今日採れなかったからいいや、寒かったからいいやってのはしたくないと。

「大渡君につくしを採りに行けと言うわけではないけれど、君にとってのつくしは何なのかを考えてみたらどうだろう」っと。
それで、「なかひがしさんでは味はもちろん、僕はそのことに感動してたんだな」と気づきました。じゃあ、うちに来ていただいたお客様の2時間半とか3時間を最高に幸せになってもらおうと考え方を変えたんです。

祇園 大渡 内観

◼大阪の料理人が京都・祇園に店をOPEN。原価度外視で料理に向き合う。

34歳で独立されてお店は順調だったのですか?

大渡氏:
店やるときって、結構「やってやるぞ!」みたいな。京都でひと旋風起こすぞ!みたいな気持ちあったんですが、京都の人は誰もうちのこと知らないし、大阪の人は週末しか来ないし惨憺たるものでした。

独立する時にも中東さんにご助力いただき、業者さんもご紹介いただいたりしました。
「なかひがし」で使われている竈や窯も同じものです。
ですからオープンした初日、器覚倶楽部のメンバーが来てくださり、その中に中東さんがいらっしゃったのですが

「君とこの料理は京料理やないんやな」
「君のとこで焼かれた鮎はかわいそうやな…」っと。

今ではそんなこと言った覚えないけどな~と笑い話になっていますが、当時は中東さんにそれを言われてしまって、もうめっちゃくちゃショックで、後片付けも出来なくなったくらい落ち込みました。

今のままではいけないと目が覚めて、もう一度鮎の焼き方を研究しまし、自分の料理を見つめ直しました。次の日からもう一度「津村」の料理を軸にし、自分らしくお料理をしようと。
あの一言がなかったら今はなかったんじゃないかと思っています。

祇園 大渡

そこから大渡さんの店は変わりましたか?

大渡氏:
使いたい食材を使う。自分らしい表現をしよう。京都だからって京料理する必要ないんじゃないかと。

「すぐになくなってしまったけどすごい美味しいお店があった。」と言わせてやろうと思って思いっきった料理をしたんです。そしたらだんだんとお客様が足を運んでくれるようになってきて(笑)
うちは京料理の店ではないので、最初お茶屋のお母さんとか女将さんとかが面白がっておいでくださいました。この祇園のこの場所で京料理でなかったことが功を奏して「なんか面白い店できたよ」みたいな感じで口コミが広がったんです。

「もう潰れてもいいから思いっきりやってやろう!」って思われたのが成功した理由ですね

大渡氏:
本当にオープン当初は暇で、あと何日でつぶれるか計算ばかりしていました(笑)
ただその時思っていたのは、原価率30%の暇な店と、原価率60%の繁盛店なら、後者のほうが勝負できるんじゃないかと思っていました。
欲を出して稼ぐことは考えず、家族養えて、従業員養えたらそれでいいんじゃないかと。

原価の見える料理って自分もお客様もやっぱり冷めてしまう。全く考えないのはダメですが、数字ばっかりを見てしまうと、食材を買う時に「じゃあこっち…」となってしまいます。
見えないところにお金をかけるという判断が、お客様と対する時の判断力にもなると思っているので、本当に自信がないと「今日一番いいの選んできました!」と、と僕は言えないので。

奥様の反応はいかがでしたか?

大渡氏:
「自分でやりたいこと決めといてつぶれるとか、何を考えてるの」と。それまですごく僕を支えてくれましたからね。
それもあって、しっかりやらないとあかん!と覚悟決めました。店が軌道に乗るまで人件費をかけるわけにいきませんから、すべて一人でこなして、この店で寝泊まりしてということを3年続けました。

そうこうしているうちにお店もありがたいことに繁盛していき、「大将とこのお店で働きたいって言ってるやつがいるんだけど預かってくれへんか」と声かけていただいたりして、1人増え、2人増え、今は3人うちで働いてもらっています。

祇園 大渡 外観

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