地道な努力の積み重ねと他者への気配りなしには物事は達成できない

Au 14 Février Saint-Amour-Bellevue(オーキャトーズフェヴリエ サン・ヴァランタン)
浜野 雅文

Au 14 Février Saint-Amour-Bellevue 料理

画像提供:Au 14 Février Saint-Amour-Bellevue

■この地でレストランを経営する意味

浜野シェフのお料理は女性的であると表現される事があるそうですね。シェフのお料理と、その哲学についてお聞かせください。

浜野氏:
クラシックなフランス料理が好きです。フランス料理はソースが命だと思っています。私の料理にはフレンチの肝であるソースにはフルーツを合わせています。これは味わいをさっぱりと爽やかにさせるためだけではなく、ワインとのマリアージュをさせる為でもあるのです。

ワインもぶどうというフルーツからできています。フルーツ同士なので相性がいいのです。時にはワインの味の記憶を辿って、そこから料理を作ることもあります。
サントーバン(Saint-Auban)村のマルク・コランの白ワインを飲みながら魚料理を食べた時に、これがマリアージュというものかと感銘を受けました。料理人はワインを知っていなければならないでしょう。

最も近くにある三つ星のレストラン「ジョルジュ・ブラン」のスタッフも「味わって来い」とジョルジュ・ブラン氏から言われているようで、度々来てくれます。シェフご本人も自ら電話予約して来店してくださいました。
私の料理は、風味をグラデーションさせています。庭では食用花とハーブを育てていて、皿にはそれを使っています。ソースに合わせるのは私の料理の武器ともいうべきフルーツ。フルーツや花をよく使っていることもあり、見た目だけでなく味わいも含め女性的だと言われます。「Cuisine féminine(女性的な料理)」と自ら定義していて、それを目指しています。

私は、同じ色の食品は親和性が高いと考え、色のグラデーションと味のグラデーションを同時に行っています。例えば、ブーダンノワール(豚の血を主材料とするソーセージ)と薔薇とグロゼイユ(赤すぐり)を合わせたりします。
一皿には5要素以上を取り込み、これ以上足せないくらい足しています。食べる場所によって一口ずつ味が違うことを目指しています。また、見えないところに味を打つようにしていて、時にはスプーンの裏にコンフィチュール(ジャム)などをつけておくこともあります。
私はコースしかやりません。なぜなら、アラカルトで選んでもらうと通して食べた時に要素やソースが被ってしまうことがあり、それを避けて欲しいからです。
最も長いコースメニューでは11皿を出しているのですが、食材ベースで見た時に常に全て別のものがそれぞれの皿に載るように、どの皿も重なる事がないよう気をつけています。一年に8回変更しているのですが、ソースのベースには常にフルーツを合わせていますから、デザートに使われている食材と決して重ならないよう十分注意しています。
コースのミーティングは綿密にしていますし、パティシエとはキッチンで常に話していますね。

シェフがレストランにおいて大事にしていることは何でしょう?

浜野氏:
美味しいのと良い食材を使うことは当然なこととして、見た目、驚き、演出(雰囲気づくり)を大事にしています。レストランはトータルで考えなくてはなりません。お客様からは、「美味しかった」と言われるよりは、「楽しかった」と言われたいです。「いい時間を過ごしたよ」と言ってもらえるように日々努力しています。

レストランは料理だけではなく、人が重要だと思います。レストランに来るお客様は人に会いに来ているという側面がありますから。サービスが非常に重要で、それをアシストするのが料理だと思います。
サービス中に私が料理を客席に運ぶ際も私がシェフであることはお客様に言わないようにしてもらっています。調理場は四人体制です。もしそこからシェフである私とお客様の会話が始まってしまうと料理出しやサービスのタイミングがずれてしまいます。その可能性を減らすためです。しかし、お客様がお帰りになる際のお見送りは必ずしています。もちろんお店には毎日必ずいます。レストランとはこうあるべきだと思います。私自身も、シェフが常にそこにいるレストランが好きです。

シェフのお料理のインスピレーションの源となるのは何でしょう?

浜野氏:
福岡県糸島市という自然豊かな場所で生まれ育ったので、人混みが嫌いです。そのせいで美術館にも興味がなく、せっかくフランスにいるのに実は一度も行ったことがありません。
その代わり、美しい風景を見るのが好きですから時間がある時には一眼レフのカメラを片手に車で近隣の美しい小さな村々を周っています。もう100箇所以上周ったのではないかと思います。
様々な構図で同じ場所の写真を撮り、位置、立体感、色使いをよく観察します。構図による美しさの違いを比べることで美的感覚を養っています。こうして美しい風景を見ることが料理のインスピレーションの源になることがあります。

Au 14 Février Saint-Amour-Bellevue 浜野雅文

■共に働く人々に日々伝えている事

フランスに来た当初に苦労されたことはございますか?

浜野氏:
フランスに来て最初の3ヶ月の研修では自信を失い、悔しくなりました。日本でやってきたという自負があったのにそのままでは通用しなかったからです。仕事ができればいいというわけではないのです。言葉が大事です。ですから、学生ビザを取りに日本へ帰国。リヨンブルーという私立の語学学校に入り直してみっちり6ヶ月昼夜語学の勉強をしました。

シェフとしてレストランを経営されてるなかでのご苦労はいかがでしょうか

浜野氏:
リヨンでスーシェフとして「ラ・プラージュ」で働いていた頃は、常に失敗がありました。オーダーが電話のみの仕入先には、留守電にメッセージを吹き込まなくてはならないのですが、何度やってみてもレモン(フランス語でcitron(シトロン)の発音が悪いせいでレモンだけが届かない日々が続くこともありました。

地元のお客様をターゲットにしているので、2月は繁忙期で人が入るのですが、平常期の平日はなかなか人が入りません。一つ星でも常に満席、とはいかないのです。
金土日は満席になることが多く、席数が限られているので残念ながら予約をお断りすることも多いのですが。お客様はワイン生産者さんや週末にゆっくり食事をしようとご家族で来られるフランス人の方が多いです。日本人は1ヶ月に一人来るか来ないかです。

なぜ人里離れたこの地にお店を開けようと考えましたか?

浜野氏:
語学学校にいるときにこの地に来て以来、この美しいサンタムールベルヴュ村が気に入ってしまったのです。
100パーセント純粋にローカルな場所で自分の料理でフランス人を相手にどこまでいけるかを試したかったのです。ですから、大都市に興味を持ったことはありません

社員さんにはどういった指導をされていますか。

浜野氏:
せっかくフランスに来ているのだから、のちに日本に帰るにしても恥ずかしくないよう間違いのないフランス語を書くように指導しています。注文確認も必ずフランス語でさせています。食材は辞書で調べてでもフランス語で書かせています。環境のせいにはさせません。

社員には日曜日にフランス語の活用や語彙のテストを実施しています。点数が悪ければ単語を50回書かせるなどさせ、語学を疎かにしないように指導しています。
レストランの厨房以外ではフランス人とだけ関わることになります。この村では昔ながらの近所付き合いも多く、気づくと家の前に誰かがくれたに違いない野菜だけがポツンと置いてあったりもします。私たちはフランス語を話すしかないよい機会に恵まれていると思います。

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採用はどのようにされていますか。また、採用面接時は候補者のどういった点を見ていますか。

浜野氏:
社員は全部で6人から7人で、全て日本人です。 日本人だけのチームでもフランス人に評価されるレストランが経営できるということにこだわっています。採用活動にはSNSを活用しています。募集をかけるのはSNSですが、メールや電話だけで決めるのではなく、実際に面接もしています。ワインが好きな方だとこの地で働くことを楽しめるでしょう。

人柄が大事です。採用するときに最も気をつけているのは候補者の人柄です。知ったかぶりをしてしまう人はすぐに見抜けますしボロが出ます。社員には正直でいることを重視させるために「恥をかきなさい」と言っています。壁にぶち当たっても怯まずに逃げずに学ぶ姿勢とやる気があることが大事です。そうして基礎をしっかり身につけないと、応用はできないものなのです。

これは仕事のことだけではないのですが、物事をどう考えてどう生きるかが重要です。「あと15分で何ができるか」と「あと15分しかない」と、どのように時間を捉えて考えて動くかで人生は大きく変わります。試用期間の間には、残り勤務時間15分の時にわざと5分で終わる仕事を振り彼らの様子をみます。「あと15分もある」と捉えるのか、「あと15分しかない」と捉えるのか、「他にまだ何かできるか」と考えるのかを見ます。彼らの考え方と彼らがどう動くのかを見るのです。

私の座右の銘は「物は考えよう」「やるしかない」ですから、ポジティブシンキングな人と働きたいです。「やるしかない」という言葉は私のお店の調理場にも掲示しています。「ラ・ロシェル」時代に飾ってあった言葉で、下を向きそうになった時、見上げてその言葉を見て自分自身に言聞かせ、自分自身を奮い立たせていたことが何度もありました。どんなに辛く苦しい時でも見れば心が前向きになれる言葉です。私にとって本当に大切で不思議と力が湧いてくる言葉なのです。

フランスに来て料理人として働きたいと考えるシェフへのアドバイスをいただけますか?

浜野氏:
待遇を求めすぎてはいけないということです。日本で通用することは、当然のことながらフランスでそのままは通用しません。また、フランス語が話せないともらえる仕事は限られています。それに、見て覚えるだけでは理解が不足します。仕事の後のコミュニケーションの時に質問して言葉で説明してもらって学ぶことは沢山ありますから。

これからの展望をお聞かせください。

浜野氏:
やりたいことや本来やりたかったことはまだ30〜40パーセントしか達成出来ていないと感じています。これからはテラスを広くし、お客様が食前と食後に過ごすサロンを用意したいです。可能なら個室(6~8人用)も作りたいです。二つ星が先に取れてしまったということもありますが、近い将来に工事をしてさらなるハイクオリティな空間を作りたいと考えています。

(聞き手:石黒 陽子、文:石黒 陽子、写真:Pierre-Olivier)

Au 14 Février Saint-Amour-Bellevue 内観

Au 14 Février Saint-Amour-Bellevue 外観

Au 14 Février Saint-Amour-Bellevue(オーキャトーズフェヴリエ サン・ヴァランタン)

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