地道な努力の積み重ねと他者への気配りなしには物事は達成できない

Au 14 Février Saint-Amour-Bellevue(オーキャトーズフェヴリエ サン・ヴァランタン)
浜野 雅文

Au 14 Février Saint-Amour-Bellevue 浜野雅文

■フランスへの旅立ち。きっかけを与えてくれたのは、ある人のある一言

日本での修業の後、フランスへ修業に出られましたね。何がきっかけだったのでしょうか。

浜野氏:
ある日、お客様に「あなたの得意料理は何ですか」と聞かれたのです。その時自分には得意料理がないことに気づかされ打ちのめされました。そこで、フランスで「自分の料理」を確立させようと、フランスで3年間研修することを決めました。

東京にいるうちに事前準備としてフランス語の勉強は週に2時間個人レッスンを受けました。その後学生ビザを取得してリヨン市内の私立の語学学校へ登録し、全日制の学校で語学学習漬けの日々を送りました。
しかしこの学校では研修と学業を並行してできません。やはり料理をしたかったので研修ビザを取得できる学校に登録するため日本に一度帰国し、研修もできる学生ビザを取得し直して再渡仏しました。リヨン市内で昼は学校、夜と週末はレストランで研修をしました。研修先は「ニコラ・ルベック(Nicolas Le Bec)」と「ラ・プラージュ(La Plage)」です。

「ニコラ・ルベック」にいた頃は、こんなに働いたことはないというほど働きました。彼はとても情熱的な人です。言葉が厳しいのでフランス人の同僚たちが次々と辞めていきました。しかし仕事の後や仕事をしていない時はとても陽気で気さくな人でした。彼からは料理の影響も受けました。
「ラ・プラージュ」は実は自ら望んだ修業先ではありませんでした。私が別のレストランに提出した履歴書を見たシェフが連絡をくれたのです。ですから、シェフから「うちで働かないか」と突然電話が来た時はとても驚きました。カジュアルなビストロということもあり、修業先に不適切だとの他者からの意見もありました。しかし結果的に「ラ・プラージュ」のおかげで自分の料理の独自性を出すものに出会う事ができました。

ついに発見したご自身のお料理の独自性の核となるものは何でしょうか。

浜野氏:
フルーツです。私の料理は常にフルーツを使っています。ソースにはとにかくフルーツを濃縮させる。煮詰めてソースに合わせたり、コンフィチュールにしたりしています。
きっかけは、「ラ・プラージュ」で担当したヒラメ料理で、オレンジジュースをしっかり煮詰めてオリーブオイルだけで繋いだソースで作ったヒラメの料理に驚いたことです。この店で自由な料理の存在を知りました。基本通りならフォン・ド・ヴォーや魚系の出汁などのベースを使うはずですから。
また、私は「ニコラ・ルベック」のフォアグラのポワレが大好きで、これは甘酸っぱいフルーツのソースを合わせた皿なのです。フォアグラのポワレはオープン以来ソースや合わせるフルーツを変えて、変わらず出し続けています。

Au 14 Février Saint-Amour-Bellevue 浜野雅文

■これまでの歩みとミシュランの星の重み

浜野シェフは「オーキャトーズフェヴリエ サン・ヴァランタン」でシェフとなり、2012年に一つ星を獲得しましたね。独立までの道のりはどのようなものだったのでしょうか。

浜野氏:
リヨンで働いている頃、「オーキャトーズフェヴリエ サン・ヴァランタン」オープンのための手伝いのお話をいただき、2005年12月オープンの為の準備段階から、オープンの半年後までの1年間勤務しました。その店の経営者である方は日本で既に出会っていた方で、かつ、現在の共同経営者です。この時の勤務の際に就労ビザを取得させていただきました。

その後リヨンに再び戻り、「ラ・プラージュ」で1年間働くことになります。
2007年にサン・ヴァランタンの初代シェフが辞めるにあたり、二代目シェフとして就任しました。当初は地元客向けのレストランを目指すようオーナーから言われていました。私はシェフとして、ハイクオリティレストランであると同時に何事にも『飽くなき挑戦』を繰り返すレストランを作り上げることに臨んでいました。
一つ星を獲得できたのはレストランを次第により良くするよう工夫していった結果です。

2010年にミシュラン調査員がお店の存在を見つけて初めて来てくれて、2011年版ミシュランガイドに初掲載となり、2012年のミシュランガイドフランス版で一つ星を獲得するに至りました。
独立することは日本にいた頃から常に念頭にありました。フランスで店を出すならリヨンで働いているときに何度も足を運んで気に入っていた「サンタムールベルヴュ(Saint-Amour-Bellevue)」で店を出したいと考えていました。しかし買える物件がありませんでした。

実は同時期に日本からも出店依頼の話がありました。最終的には日本に帰国することを選んで準備を始めていたのですが、この地にたまたま物件があいたことを知り、帰国はキャンセルしました。
店の名前をこの名前にしたのは、実は銀行からの借入をしやすくするためというのが大きな理由でした。信用を得やすくするために自分がすでに一つ星を獲得した店と同じく「Au 14 Février」にしました。

Au 14 Février Saint-Amour-Bellevue

浜野シェフは「サンヴァランタン」時代にミシュラン調査員が2010年に初めて来てから2年と経たずに2012年に一つ星獲得。その後ご自身のお店を開店してからもオープンから4ヶ月で一つ星を獲得し、実質4年と4ヶ月で二つ星獲得ですね。ミシュランガイドで星を獲得する意味をどのようなものとお考えでしょう。

浜野氏:
ガイドブックはたくさんあります。ミシュランガイドだけがガイドブックではありません。しかし、フランスの田舎でレストランを経営する以上、ミシュランガイドの星の影響は看過できません。お客様の客足に如実に影響します。

我々のモチベーションや自己満足のためだけではなく、むしろ取引先からのワインの購入の交渉に有利に働くなど、レストラン運営に大きく影響します。ですからもちろん星はあったほうがいいです。
また、採用活動に良い影響があることも挙げられるでしょう。二つ星になって働きたいと希望してくれる料理人が増えました。

「サンタムールベルヴュ(Saint-Amour-Bellevue)」村の村長さんとジョルジュ・ブラン氏(最も近い三つ星レストランのシェフ)はこの二つ星をとても喜んでくれました。このことは本当に良かったです。一つ星はフランスに500くらいありますが、二つ星はそれほど多くはありません。二つ星は自分の目標としていたことでもあるので、達成できたことは素直に嬉しいです。「田舎で日本人だけでもできると勇気をもらった」と言われたりもしました。

今年はオスカー方式に変わりましたね。授与式でのエピソードをお聞かせください。

浜野氏:
三つ星獲得者はプレスリリースが出るので朝から既に獲得者がメディア掲載されていました。
一つ星獲得者は会場入りするとすぐに別の場所へ通されてコックコートを手渡されて写真撮影があります。
二つ星獲得者だけは一切知らされず、案内状が届いた全員に星が渡されるわけではなく、授与式で知るということになっていました。
会場にはパリの地下鉄のトラブルのせいで授与式の開始直前に到着したので、座る場所が見当たらず端の方に座っていました。

二つ星獲得レストランの発表が始まりました。地図が表示され「ローヌ・アルプ地方。県番号71。小さな村」と発表されました。もしかしてと思いました。会場に来ていた、私のレストランのすぐ近くの一つ星レストランのシェフたちも皆ワクワクして発表を聞いていたはずです。読み上げられたのは、「サンタムールベルヴュ」。そして私の名前でした。
読み上げられた途端、「うわ、どうしよう」と思いました。軽くスピーチしなくてはならないのに準備してきていないことに気づきまして。一人目だったのでどう動いていいかも正直わからなかったのです(笑)
端の方に座っていたものですから、発表者もディレクターも会場の方々も最初は「どこだ、どこだ?」と会場を見渡して探してやっと私を見つけてくれました。コックコートも事前フィッティングがありませんでした。一つ星獲得当時のサイズで用意されていたのです。本当に事前に誰も何も知らされていなかったのです。

ついに二つ星。星の重みを感じますか。

浜野氏:
人生で初めて一つ目の星をとった当時はプレスリリースが1週間前から出ていました。そのプレスリリースを見た瞬間はすごく嬉しかったのに、一夜明けたらプレッシャーを感じ始めました。星を獲ってからは顧客層も変わってしまいました。今までは地元の方だけだったのですが地元の方以外もお越しになるようになりました。

この仕事は自分との闘いです。毎日が自問自答の日々です。二つ星も会場を出るまでは嬉しかったですが、それまででした。すぐに「明日からどうしようか」と考えました。苦悩があるのはいつも同じで、苦悩があってこそやりがいを感じられると思います。
とはいえ、厨房は現在4人で二つ星。本当に大変です。作業が細かいですし。4年前に大改装しているのでこれ以上改装する予定のない調理場も狭いです。客席は26席。サービスも調理場もこんなに人員が少ない二つ星レストランはないのではないかなと思います。

昔はパリがすごく気になっていました。雑誌で見て、また、実際に食べに行っては「こういう料理が世に受けるのかな、こうすべきなのかな」などと思っていましたがサンタムールベルヴュ村にきてからは「パリで食べられるものをここでやる必要はない」という思いに至りました。
独自性が大事です。パリのレストランで提供されているような料理をあえて目指す必要はないと思っています。この地にいると雑念が入らないのでいいです。

Au 14 Février Saint-Amour-Bellevue 外観

Au 14 Février Saint-Amour-Bellevue(オーキャトーズフェヴリエ サン・ヴァランタン)

お問い合わせ
+33-3-85-37-11-45
アクセス
Le Plâtre Durand 71570 Saint-Amour-Bellevue
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営業時間
木曜は夜のみ営業、金曜・土曜・日曜・月曜は昼夜営業
昼:12時から14時
夜:19時半から21時
定休日
火曜、水曜、木曜昼(木曜夜は営業あり)