目指すのは究極のおもてなしを叶える「一日一組」の店

まき村
牧村 彰夫

牧村彰夫 まき村

■自己流で料理を学んでいった独立直後の試行錯誤時代

27歳という若さですぐにお店を持たれたそうですが、独立されたきっかけはなんですか?

牧村氏:
たまたま、大森で5坪くらいの小さな店をやってみないかと声をかけてもらいまして。女房には「止めたってどうせやるんでしょう」と言われて(苦笑)。女房と二人三脚で結局三年半やった店は、「たこ入道」という名前で、居酒屋に毛の生えたようなものでした。ふざけた店の名前でしょう。

勢いで独立はしたものの、当時は何も料理が作れなかったです。ほんとうです。頭では作れるものだと思っていたのですが、一人でやってみたら、何も作れなかった。今考えてもひどかったです。
でも幸いなことに、ちょうど1980年代のバブル全盛期で、お店が開いていればどこでも流行ってしまうような時代でした。夜通しクラブで遊んで踊った人たちが、夜中の街に繰り出して、朝3時に焼肉屋が満員になるような時代。そこらじゅう人が溢れていたので、27歳の若造がやっているような店でも人が入りました。
修業していた「長谷川」が名の通った店だったので、赤坂の料亭の味をこの価格で食べられるんだぞ!食わせてやるぞ!という強気なスタンスで店をやっていました(苦笑)。不良心も出てきて、お客さんとは毎晩喧嘩。てめえ!俺の飯がまずいっていうのか!って言い争って。血気盛んでした。

最初のお店「たこ入道」では、どんなメニューを出されていたのですか?

牧村氏:
女房とは、ふたりで一緒にご飯を外に食べに行くと、ビール飲んで、お刺身食べて、お肉もちょっと食べて、サラダを食べて…ふたりで6000円だったらいいよね、とそんな会話をよくしていました。自分たちの店では、ふたりの等身大の感覚で内容を決めて、ふたりが「食べたいもの」を出していました。

とにかくすべてが自己流。「たこ入道」をやってみて、初めて料理の道に入っていったという感じでした。当時は献立を週替わりにしていたこともあって、目の回るような忙しさ。まずは本を読んで。これとこれを組み合わせたら美味しいんじゃないかなとひとつひとつ作って試しては、来週これを店で出そうって決めて。試行錯誤の日々でした。

実際に勉強のために食べにも行きました。食べに行くのはもっぱら和食でしたが、若いうちはフレンチなども食べに行って、取り入れられるものがあったらすべて取り込もうという気概がありました。歳とともに、フレンチからは次第に遠ざかってはいきましたけれどね(笑)。

まさに二人三脚で店をやっていましたが、初めの頃は昼も営業していたので大変でした。自分は好きで料理を始めましたが、女房は違ったので…毎晩トイレで泣いているのを知っていました。

そうして試行錯誤を続けながらも、お店を着実に進化させていったのですね。

牧村氏:
材料のロスを軽減させるために、コースのような仕立てに徐々に変えていきましたが、開店から三年半が過ぎて「たこ入道」を閉じる頃には、コース料理でのみ提供するスタイルになっていました。

料理を少しずつ良くしていくなかで、強く感じていたことがありました。最初は一週間に一回来店されるお客様が大半でしたが、いい素材を使うと一週間に一度のお客様が一カ月に一度の来店になり、さらに値段が上がると、結婚記念日や誕生日の来店になり。値段が上がるとともに、お客様のいらっしゃる頻度が減ってくるのです。それには大きな寂しさを感じました。ですが、当時から女房とは、たとえ値段が上がっても「あの店に行ったら何か美味しいものが食べられるぞ!」そう思ってもらえる店を目指していこうと話をしていました。

まき村

■最終的に目指したいのは「一日一組」の店

いよいよ「まき村」を開店されて。現在のお店に落ち着くまでには、改装や移転を何度かされていますね。

牧村氏:
独立後最初の店「たこ入道」を経て、平成元年(1989年)に大森に開店した「まき村」は、20坪ほどの店でした。28席のうち、カウンターが10席。当時は、カウンターに座る全員が同伴カップル、なんてこともめずらしくなくて。みんな自分が店で一番偉い客だと思って威張っているから、こちらは接客にすごく神経を使う必要がありました。バブル期は「なんでもいいから美味いものを出せ、お金はいくらでも払うぞ」と、客も豪快で横柄な時代でしたから。とても疲れましたよ(笑)。でもだからこそ、バブルが崩壊すると潰れてしまう料理屋も多くて、不景気を切り抜けるのはどの店も大変だったと思います。

平成十年(1999年)に、同じ場所で店を改装して18席に減らした時には、そんなこともあって、カウンターを少し遠ざけるようにして。カウンターはあっても、そこで調理はしなくなりました。現在のお客様ではそんなことはないかもしれませんが、当時のお客様は露骨に料理人をバカにしたり、ちょっとしたことでふて腐れてしまったり、むちゃくちゃなことを言ったりね。現在のお客様は、インターネットで正しい情報をたくさん入手できるせいか、かつてのようなことはなくなりました。

平成二十二(2010年)に、今の場所(大森海岸)に移ってきた時には、14席へとさらに席数を減らしました。これからもどんどん席数は減らしていくと思います。私は、最終的には「一日一組」のお店を目指したいと思っていますから。これは譲れない自分の理想の店の姿なのです。

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