シャルキュティエという職業を、食肉に親しむ文化を、 100年後もその先もずっと継承していきたい

METZGEREI KUSUDA
楠田 裕彦

■消化不良のまま日本へ帰国…原材料への圧倒的な理解不足を痛感した。

本場の技術や文化を学び、日本に持ち帰って広めたいという思いで、ドイツで3年、フランスで1年修業されて。28歳の時に戻ってこられたわけですね。

楠田氏:
自分としては、ヨーロッパに想いを残しながらの帰国でした。とはいえ置かれた状況にも向き合わねばなりませんので、鹿児島の父の工房で工場長として働き始めました。

最初は、ドイツで学んだ技術で同じものを作ろうと奮闘しましたが全くうまくいきませんでした。レシピも技法も覚えたけれど、原材料の理解が圧倒的に浅かったのです。理解度は修業期間に比例するので当然です。そこに葛藤や悔しさはありました。

甘くない世界でした。職人が職人たるには、本当に長い年月を要するものなのだと思いましたね。

それから父と数年ともに働きましたが、どうしても自分の思い描いた店をやりたい、と32歳の時に、神戸の六甲道に念願の1号店をオープンさせました。

■売上2000円の日も…お店が軌道に乗るまで苦戦を強いられた3年間

今から13年前ですね。オープン後の反応はいかがでしたか。

楠田氏:
神戸は自分が生まれた街でもあり、思い入れもありました。もともとパンやスイーツなど西洋文化が根付いている土地で、パンに食肉加工品はつきもの。他のエリアよりも受け入れられやすいだろうと踏んでいましたが…結果は悲惨なものでした。

やはり文化の違いは大きな壁でした。当初から、本場の味を再現したいという想いが強く、日本では売っていないような、血液や内臓系のソーセージや豚の頭のゼリー寄せなども置いていましたが、買って行かれたお客様から苦情が来ることもありました。もちろん保存方法や食べ方など説明はするのですが、「食感がぐにゅぐにゅしてる…」など違和感を覚えられる方も多かったです。

リピートにも繋がらず、1日の売上が2000円という日もありました。オープンから3年間は、いつ潰れるか分からないような状態でしたね。

そこからどのように立て直していったのですか?何か転機はあったのでしょうか。

楠田氏:
ハムやソーセージは、素材の力がとても大きいんです。だからこそ、原材料への理解とそれをコントロールする経験値が大切です。

例えば、日本は高温多湿なので、豚は夏場になると餌を食べない。人間と一緒で水分ばかりとるので、味も薄くなる。地域の気候や温度・湿度によって同じ日本の中でも全然違う。そういうデータの積み重ねなんです。とにかく肉を触って触って、感じて、考える、それを繰り返して、作り手として成長していくしかない。失敗を少しずつ減らしていくしかないんです。

原材料については、関西自体、豚を定期的に入手するのが困難なので、全国を回って理想の豚が育てられている畜産農家を探しました。時には、どういうものを作って欲しいか伝えたり…二人三脚で理想の原材料作りにのぞみました。

売れない日は続きましたが、「絶対に向こうの味を日本に届けるんだ」という柱は崩さないように、少しずつ改良を重ねました。そうして徐々にヨーロッパに住んでいた方や在日の方を中心に、「本場の味が食べられる店があるらしい」と口コミで広まり、「おいしかった」と次はご友人を連れて来店くださるケースも出てきました。特に、新聞で1面を使って紹介されたことは認知度が高まる大きな転機となりました。

お客様も少しずつ増え、商品に自信もついて。店の方も軌道に乗ってきたわけですね。

楠田氏:
心が折れないよう踏ん張り続けた3年間でしたが、オーナーとして、職人としての修業期間だったと思います。そうして4年目で、再度フランスへ行きました。

ずっともう一度フランスで修業したいと思っていたのですが、幸運にもパリのシャルキュトリ「メゾンヴェロ」のオーナー、ジル・ヴェロ氏に弟子入りできることになったのです。

ジル・ヴェロ氏は、フランスのコンクールで多数の受賞歴を持ち、本店のパリ以外にもニューヨークやロンドン、トロントに店舗を展開しているような、職人としてもオーナーとしても才覚に優れた方です。お会いする機会に恵まれた際に、「かつてフランスでの修業で学び切れなかった、あなたの元で学びたい」とお願いしました。そういった申し出は受け入れていないと一度は断られたものの、「心から希望している」と、再度熱烈なメッセージを送り、何とかチャンスを手にしたんです。

2度目のフランス、学びの密度は違いましたか?

楠田氏:
違いましたね。自分がオーナーとして経験を積んだことで知識も増え、短期間の修業でも理解できる量も深さも圧倒的に変わりました。

食肉加工というのは、データ理論に基づいた、サイエンスの世界なんです。例えば、肉に含まれるたんぱく質は、分解される温度帯があって、何時間何をすればどういう状態になるか、とか、屠殺して何時間後に何をすれば最もおいしくなるか。そこを極めてコントロールしていったものが、その店なりオーナーなりの個性やレシピになるんです。
当時は経験が少ない分、理解が追いついてなかった部分が、きちんと消化できて、頭と感覚両方で掴むことができました。
その後は、お客様の反応もグンとよくなりました。

今後の店作りや展望について、どうお考えですか。

楠田氏:
いい仕事をするには、良い人材を得て良いチームを作ることが必要です。ヨーロッパは既に文化が根付いているので、在学中の早い段階からシャルキュティエを目指して修業先を見定めている子たちが多いんです。日本ではまだまだ職業としても知られてないですからね。100年後もその先も文化として継承されていくような土台作りをしたいです。

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