江戸前鮨職人のシンプルなあり方を体現していく

新ばし しみづ
清水 邦浩

■実家の魚屋を継ぐだろうと思っていた少年時代

出身は東京とのことですが、どんな子ども時代でしたか?

清水氏:
僕は昭和43年生まれ。東京・杉並区にある実家が魚屋なので、子どもの頃から家の手伝いをよくさせられていました。ちょうどスーパーマーケットが世の中に出てきた頃で、その影響もあって商売が思わしくなくなっても、将来は自分も魚屋をやるんだろうなあ……なんて漠然と思っていました。

父は朝6時に起床して9時半には河岸から戻るのが日課でした。戻ってくると「隣の寿司屋にしじみ持っていけ」とおつかいを頼まれて、僕が配達に行っていました。でもその行き先の寿司屋さんの印象がちょっとね。座敷でついさっきまで寝ていたのがわかる髪の毛ボサボサ姿で。お茶飲みながら新聞読んで「あぁしじみね、そこに置いといて〜」という感じで。

それもあって、ずっと寿司屋に対しては良いイメージを持てなかったんです。しかも、清水家では「寿司」といえば「手巻き寿司」だったので、握りの寿司は食べたこともありませんでした。

■寿司職人に憧れ、18歳で手紙を書いて弟子入り志願

寿司職人に対してあまり良いイメージを持たれていなかったようですが、それが一転したきっかけは何でしたか?

清水氏:
意外にワルだった中学時代を経て(笑)、定時制の高校に行き、将来はどうしたものかなあと考えていた頃、ちょうど世の中はグルメブームの走りでした。料理評論家の山本益博さんがテレビに登場していた頃です。

当時、特に注目されていたのは、ラーメン屋さん、フランス料理屋さん、そしてお寿司屋さんだったと思います。メディアで紹介されていた、浅草の「弁天山美家古鮨」や数寄屋橋の「すきやばし次郎」は、自分がそれまで抱いていた寿司屋のイメージとはあまりにも違っていて……かっこいいなあ!!!とすぐに憧れました。

それからもうひとつ。漫画「ど根性ガエル」の梅さん(*1)も寿司屋を意識したきっかけだったかもしれません。バカでも気合があればできる?!なんて思いながらも、強く印象に残っていました。

*1 漫画「ど根性ガエル」
吉沢やすみ原作の人気漫画とそれを原作としたアニメ。主人公はカエルのピョン吉と中学生のひろし。登場人物の一人が寿司屋の職人・梅さん。鉢巻きと大きなアゴがトレードマークで、腕もいいが意地っ張りで喧嘩っ早く、出前の途中に自転車ごと電柱にぶつかって寿司桶をひっくり返すシーンも多く登場した。

憧れの気持ちが強まって……実際に寿司職人の道にはどのように足を踏み入れたのですか?

清水氏:
僕は四人兄弟の長男。実家の魚屋がスーパーに押されて商売が芳しくないこともなんとなくわかっていたので、よく働いていました。高校時代には、朝5時半から近所のダンボール屋さんで廃品回収のバイトをして、9時からは友達の実家の寿司屋でアルバイト。夕方17時半から学校で、授業が終わるとまた寿司屋に戻って片付けをしていました。

そうやって毎日過ごしている中、NHKドラマ「イキのいい奴」(*2)がとてもおもしろくて夏休みに夢中で見ていました。神田神保町の寿司屋「鶴八」の主人が主役で、金山一彦さんが演じていました。

ちょうど車の免許を取るために府中の試験場に行った時に、時間つぶしのための本を探しに本屋に寄ったら、平積みになっていた単行本『神田鶴八鮨ばなし』が目に止まって。本の帯に“ドラマ「イキのいい奴」の原作”と書いてあったので、すぐ手にとりました。

さっそく読んでみたら、ものすごく感銘を受けてしまって。すぐさま「鶴八」のご主人(師岡幸夫さん)に「弟子にしてください!」と手紙を書きました。……それが今に繋がっています。ちょうど18歳の時でした。

*2 NHKドラマ「イキのいい奴」
師岡幸夫の自伝『神田鶴八鮨ばなし』が原作の人情ドラマ。戦後の東京・柳橋の寿司屋を舞台に、弟子入りした青年が職人として一人前に成長していく姿を描く。主役の頑固一徹な寿司職人を小林薫が演じた。

すごい行動力ですね!「鶴八」のご主人宛てに弟子入り志願の手紙を出されて、その後どうなったのですか?

清水氏:
ご主人から電話がかかってきました。「お手紙はいただいたけれど、いま従業員は十分に足りているから雇うことができない。でも自分のところにいた弟子が何年か前に出した店があるので、そこはどうですか?」と。それで「新橋鶴八」にご縁をいただきました。

定時制高校は4年制なので、19歳で卒業してすぐに店に入りました。寿司の世界でのキャリアはそこがスタート。それから「新橋鶴八」の主人・石丸久尊のもとで11年間修業を積むことになります。

新ばし しみづ

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