長く続けていきたいからこそ、料理の数を絞り、自分も健康になれるものにこだわった

欧風カレー&シチュー専門店 トマト
小美濃 清

欧風カレー&シチュー専門店 トマト 内観

■念願の店をオープン。数年後、将来を見据えてカレーとシチューの専門店に

ご自身の店をオープンされた、当時のことを聞かせてください。

小美濃氏:
いよいよ自分の店をオープンというときに、立地をどこにしようかと、いろいろ歩きました。荻窪のこの地は、たまたま見つけ、ビルのオーナーさんにも気に入ってもらえたので決めました。オープンしたのは、1982年、2月4日だったかな。そこから今日までこの土地で営業を続けています。最初は欧風家庭料理の店でした。朝7時に開店して夜の2時まで開けていて、メイン料理からデザートまで手がけ、貸し切りで立食パーティーもやる、そんな何でも対応する店でしたね。

今とはずいぶん毛色の違う店だったのですね。今の形態に変えたきっかけは?

小美濃氏:
あるとき、このまま何でも提供する店をやっていては、年を取ったときにこの仕事を続けていけないのではないか?と思ったんです。そこで、料理の数を絞ろうと考えたとき、店で人気のあった「カレー」と「シチュー」が浮かびました。当初はカレー1本に絞ろうかとも思ったんですが、どこかに洋食屋への思いがあり、シチューも捨てがたくて続けることにしました。

カレーを選んだのは、当時カレーを極めている人がいなかったというのもあります。あとは、最初に修業した大阪のレストランの料理長が月に一度作ってくれた、まかないカレーがとてもおいしくて、これが記憶に残っていたんです。このカレーは、社員40~50人分を、料理長自らが腕を振るって作ってくれるものでね。淡路島産の玉ねぎを大量にスライスして大きな鍋に入れてあめ色になるまで炒めて、辛いけれど甘みとコクのある、すごくバランスの取れたカレーで、今まで食べたカレーとは違うなと驚きました。料理長はこのカレーを「ジャワカレー」と呼んでいました。私の店で出すカレーの名前も、これに影響を受けているんですよ。

カレーとシチューに絞ると決めたあと、どのようにして腕を磨いたのでしょう?

小美濃氏:
そうは決めたものの「今の味のままではダメだ。もっと突き詰めなければ」と思っていたので、決心してからは勉強の日々でしたね。妻と2人で関東圏内のカレーを食べ歩きしたり、図書館に行ってカレーやスパイス、漢方薬の本を読んだりと。一番勉強になったのが『漢方実用大事典』という本でした。

そうして知識を得て、一番に考えたのは、「この仕事は自分次第で一生続けられる。つまり定年はないから、続けるためには60、70歳になっても健康でいなくてはいけない。それには、自分が作った料理を1日に何回も味見をするわけだから、料理は害になるものであってはならない。自らが健康になるようなものを作りたい」ということでした。

こうした考えが基盤となり、解熱作用や滋養強壮作用、胃や腸などに薬効作用のあるスパイスを調合し、最終的に今の36種類にたどり着きました。よく「インドカレーにはそんなにたくさんのスパイスを使わないよ」とか「そんなに入れたら味がわかんなくなっちゃうよ」とか言われるんですけど、そういうことじゃないんです。私のカレーの発想の原点は健康になることですから、すべての配合には理由があるのです。

お店の業態を変える時には、お客さんにも応援してもらいましたね。常連さんには、味見もしてもらいました。上場企業の社長さんなどのお客様もいました。シチューを気に入ってもらいよく通ってもらっていたため、お店の業態変更を応援してくれましたね。

そうして試行錯誤しながら作り上げたカレーを筆頭に、ある日思い切ってカレーとシチューの専門店として一新し、今に至ります。

欧風カレー&シチュー専門店 トマト 小美濃清

■採算度外視で手間ひまかけるのは、お客さんの笑顔を見たいから

お店のこだわりは何ですか?

小美濃氏:
ひとつは素材のよさです。修業時代を過ごした資生堂パーラーでは、材料には惜しまずお金を注ぎ込み、素材は超一流のものばかり揃っていました。当時の資生堂パーラーは、資生堂の社員さんがお客様を接待するための場所でしたから、食材もいいものをふんだんに使っていたんですね。ですから、このときに質のいい食材を見ることができたことが、非常に勉強になりました。まあ、私の店の経営にとってはよくないかもしれないですけどね。なぜって、一流のものを見てしまったために、自分の中で食材選びの基準が上がってしまいましたから。うちの料理は、原価率は度外視です(笑)。

2つ目は、食べて健康になるものを提供することです。味見をする自らが実験台です。実際、私は健康診断でも悪いところはゼロ。だからこそ、自信を持ってお客さんにすすめられるのです。とくにルウカレーはカロリーが高いと思われがちですが、うちで使っている和牛は筋も脂もおいしいんです。

店で扱う牛肉を選んだ時は、長野の牧場まで妻と訪問し、餌や育つ環境を確認して、今のものに決めました。牛肉の脂は手の温度で溶けます。ただこの脂は取り除いて、肉の部分だけを使います。仕入れた時の肉の大きさから体積は五分の一ぐらいに減りますね。加熱した際には表面に浮いてきた脂もスプーンですくって、最後はペーパータオルで取り除いています。ルーはそうやって丁寧に取っただしでうまみを効かせるから、塩分も控えめです。他にも、魚は築地の魚屋さんから送ってもらっています。あとは野菜ですが、カレーのソースには大量の野菜が使用されていますので、うちのカレーを食べれば、たくさん野菜が摂取できます。

仕入れた食材をカレーに仕上げるまで、仕込みの過程にもこだわりますね。休業日は2日とも仕込みです。ルーも使っていないので、スパイスを炒めることから始めます。手間隙かかりますが、ここにこだわりがあります。

あとは衛生面かな。隣が保健所なのですが、代々保健所の所長さんはうちのカレーを食べに来てくれています。うちは年期の入ったお店ですが、衛生には非常に気を使っています。

欧風カレー&シチュー専門店 トマト スパイス類

味に惚れて門戸を叩く人もいると思いますが、どう対応しているのでしょう?

小美濃氏:
確かに、そういった方はいらっしゃいます。ただ、そうした申し出はすべて断っています。味を覚えても、うちのカレーは原価率が高すぎて、経営としてなりたたないと思うからです。失敗したときに、親御さんに申し訳ないとも思いますしね。私の場合は、儲けよりもお客さんの笑顔が喜びにつながると考えていますし、今は妻と2人だからなんとかやっていけていますが。

実は、私には子どもが2人いるんですが、子どもはサラリーマンのほうがいいみたいですね。「10年は外で修業をしなくてはダメだ」と最初にかざした条件が厳しすぎたのかもしれませんが。跡取りはどうでしょうねえ。もしかしたら一代限りかな、なんて思っていますよ。

料理人を目指す方に必要なことは何だとお考えですか?

小美濃氏:
いろいろ経験して、自分の中に引き出しをいっぱい作ることですね。そうすれば、どんなことにも対応できて、自らを助けてくれます。色んなことをしてきましたが、全部役に立っています。私自身もそうやってきました。同じ業種についた親戚の子がいるんですが、先日、法事の席で隣になったときも、同じことを言いましたよ。

今後の夢について教えてください。

小美濃氏:
「トマト」は1982年の創業なので、今年37年目に入りました。できたら、50周年を迎えるまでは続けたい。これが夢ですね。それには健康でいなくてはなりません。病気になっている暇はありません。だからこそ“健康になれるカレー”にこだわったんですからね。毎日毎日の仕込みは大変ですが、自分が安心できるものを出すということを続けて、そうして返ってきたお客様の笑顔が何より嬉しい。お金には変えられないですね。そうして応援してくれたお客様がいるので、続けていけますね。

それから、料理人の地位をもっと上げて、この業界にもっとたくさんの人が入ってきてほしいという思いもあります。実はこの業界はいい人が多いです。私自身が「カレー屋なんてすぐつぶれるよ」「カレーなんて食堂で食べるものじゃないの」と言われてきたので、だからこそ「がんばらなきゃ!」と思ってやってきたんです。今、地元の中学生の職場訪問を受け入れているんですが、こうした業界の地位向上への思いは中学生にも伝えています。

それと同時に、荻窪にカレーの店がたくさんオープンして、神田のように「荻窪はカレーの町」と言われるくらいにしたいですね。それには自分ががんばれば、そしてみんなでがんばれば、どんどんこの町にカレー屋が集まって、お互い高め合っていけるんじゃないかと思っています。そんなふうに考えていたら、実際のところ、今どんどん増えているんですよ。

ところで、なぜ「トマト」という店名なのですか?

小美濃氏:
トマトは、カレーにもシチューにも実は大量に使うんですよ。それにトマトは栄養満点で、医者いらず、と言われますよね。あとは、ひとつの枝にいくつもの実が鈴なりにつくから、お客さんがたくさん来てくれるといいな、という思いも込めています。ちなみに、うちのカレーはトマトが嫌いな子でも食べられるんです。そういうカレーを作りたい、という思いもありましたね。何より、トマトって赤くてかわいいでしょう?前から読んでも後ろから読んでもトマトですしね(笑)。

(聞き手:菊地 由華、文:荒巻 洋子、写真:刑部 友康)

欧風カレー&シチュー専門店 トマト 小美濃清

欧風カレー&シチュー専門店 トマト 外観

欧風カレー&シチュー専門店 トマト

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