大事なのは、どれだけ料理の探求に人生をつぎ込むか

中国菜 火ノ鳥
井上 清彦

中国菜 火ノ鳥 井上清彦

■経験年数よりも、店を持ってからつぎ込む時間と集中力が大事。

その後、ご自身が魅了された古典料理を中心に提供する店をオープンし、予約のとれない店として知られた存在となっています。そこに行き着くまでどんな努力を?

井上氏:
東京で修業した時に感じたのは、自分くらいのレベルの人間はいくらでもいるなということ。店を開くまでの修業期間が長くても短くても、年をとっていてもいなくても、全く関係ない。大事なのは、自分の店を持って“から”、どれだけ料理の探求に人生をつぎ込むか。それで店のありようが大きく変わると思いますね。

それは人生の中で、いかに多くの時間をかけて勉強に励むか、という意味ですか?

井上氏:
それも集中して、というのが大事です。毎日、店に行って何も考えずに仕事するだけだと何も進化はない。目的を持って考えて取り組む必要があります。
修業時代、毎日同じ持ち場で同じ仕事だけをしている方がいたのでが、ずっと同じことをしているはずなのに、まったく上手くはなかったのです。その方は上手くなろうという目的を持たずに、ただただ作業をし続けていただけなのです。

例えば、料理一つにしても味をずっと高みを目指していくとか?

井上氏:
他のところに食べに行って、器を見るだけでも学べることがたくさんあります。気付こうとしない人は、料理を見ようが器を見ようが何も考えずにただ食べているだけ。「今の料理どうやった?」と聞かれて「えっ?」という子もいます。まかないをせっかく作って食べても、何の肉を食べたのかさえ分かってない。「これは何の肉ですか?」と、興味をもって聞く意識がないと、発展がありません。

食べ歩きなんかも、若いうちにやってもあんまり意味がないんですよ。もちろん、名店にいって刺激を受けて、モチベーションになる分にはいいんですが、恐らくそこで覚えた料理は、自分の手でやる頃には何も覚えてないです。

ある程度、料理の実力がついてから食べに行って、自分で店に戻って試作してみて、もう1回お店に行って食べ比べて、ようやく役に立つ。何が違うのか、自分に何が足りてないかは、実践的な経験があってはじめて理解できる。

中国菜 火ノ鳥 井上清彦

井上さんご自身も、その繰り返しで力をつけてこられたのですね。

井上氏:
食べるなんて誰にでもできます。そこで集中して何を得るか、です。語学も同じでみんな“見る”と“聞く”はするけれど、本当は“書く”と“喋る”が大事。“見る”“聞く”なんてテレビを見ながらでもできますが、“書く”と“喋る”は考えながらでないとできません。意識の持ち方一つで、時間を有効に使うか意味のないものにするかが決まります。

切りものでも、考えずに作業しているだけの人は、いつまで経っても下手なまま。「今回は、何がダメだったのか」と考えて、他の人の技術を見たり、切り方を変えてみたりしないと一生変わらない。60代になっても切りものが下手な料理人さんも見てきました。40年以上の経験があるにも関わらずです。

大事なのは、経験年数じゃないというのはそういうところですね。

井上氏:
これは向上心というより…興味があればできることだと思います。興味がなければダメです。求人を出す時においても、応募条件として“技術のあるなし”ではなく、“料理が好きな人”としか書かないようにしています。その人の仕事ぶりを見たら、よく分かるんです。料理が好きじゃない人は、「こうした方がおいしい」と知っていても、実行しない。早くその日の仕事を終わらせたい、というのが姿勢に出るんです。

どんな仕事にも共通する、心に刺さるお話ですね。

中国菜 火ノ鳥 茶器

■客足はオープン当初から好調、ファサードからこだわり抜いた。

オープン間もない頃から、客足が絶えなかったということですが、狙い通りだったのでしょうか?

井上氏:
集客で苦労したのは、オープンして最初の土曜日、大雨がふった日に2組(4名でした)しか来店がなかったことぐらいです。それ以外は暇だなと思ったことはありません。

有名なお店でも、オープン当初は苦労したと聞きますが、その点、「火ノ鳥」が集客に成功した理由はどこにあると考えておられますか?

井上氏:
求めているものを出せた、というのがあると思います。あとは、興味をひくものを提供できるか。一番いけないのは、料理人の独りよがりで店をつくることですからね。

意外な話かもしれませんが、実は私がはじめに最もこだわったのは、ファサードです。東京から帰ってきた後は、京都にある先輩のお店を手伝いながら物件探しをしていたのですが、祇園の店のファサードを何百枚と写真を撮ったり、暖簾の本を買ったり。毎日、筋を変えて帰って、「入りたくなる店の店構え」を研究しました。

目を引く店ってガラスでできているな、中が見えてお客さんの姿があると安心して入りやすいな…とか。目に留まる店はどんな店か?それはなぜか?を分析しました。

その考えをもとに、外から茶器が見えるようにして、「中国料理のお店かな?」と分かるようにしようとか。設計をつくりこんでいきました。

料理についてはどうですか。ご自身のやりたいスタイルを貫きたい想いもあったと思いますが、つくりたいものだけをつくる、ではいけないと悟っておられたのであればその折り合いはどのようにつけていったのでしょうか?

井上氏:
料理も、はじめはある程度、お客さまが食べたいだろうなというものに寄せました。例えば、麻婆豆腐なんかは、今は置いていませんし、言われてもつくりませんが、当時はメニューに入れていました。

かといって、注文が絶対に入る間違いないメニューを、適当につくって、“出るから置いている”じゃダメです。「うちは広東料理だから麻婆豆腐はやりたくない。でもよく出るから仕方なく置いている」、これは最悪なパターンです。

イヤなら完全に辞める、置くならば徹底的にこだわる。どちらかにしないと。うちの場合は、置くと決めて突き詰めてこだわって、麻婆豆腐・海老チリ・酢豚などですね。オープン前から試行錯誤して、北京系のニュアンスを残しつつ、アレンジを加えて登場させました。いまだに海老チリと酢豚はすごい人気ですよ。

中国菜 火ノ鳥 井上清彦 肉の下処理

何が求めてられているかを研究し尽くした結果、今があるわけなんですね。そんな井上さんが注目している料理人は?

井上氏:
一碗水(イーワンスイ)の南シェフですね。東京に行く前から通っていました。一番好きなお店です。料理と考え方をリスペクトしています。

つぱった…というと変な言い方ですが、当時からお客さまに媚びないメニューを出し続けています。例えばオープン当時、出していた海老チリがものすごく人気が出て、それだけあれば間違いないと思える特色のあるメニューだったんですが、そういう鉄板料理を毎月ガラッと変えるんです。

無難に勝てる道を選ぶんじゃなくて、挑戦をし続ける。そういう姿勢を尊敬しています。

ミシュランの星をとったら、冒険しにくくなってしまうというのも聞きますよね。

井上氏:
どうしても守りに入ってしまうのではないかと思います。新規のお客さまは定番料理でも喜んでいただけるけれど、常連さんは納得しない。メニューを変えていくことは大変な労力ですが、行きたくなる店であり続けるためにも大事だと思います。

中国菜 火ノ鳥 外観

中国菜 火ノ鳥

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