常に課題を持ちその答えを探し続ける。9年連続ミシュラン三つ星。高みを駆ける料理人の成長哲学

Quintessence(カンテサンス)
岸田 周三

岸田周三 カンテサンス Quintessence

■シェフが独裁を始めたら、その店は先行きが危ない

岸田氏:
2011年に運営会社の株式会社グラナダから独立し、2013年には御殿山に移転。店舗面積は白金台時代の約1.6倍だが、席数は30席と変わらず。以前よりもゆったりとした空間になった。また、キッチンスペースが大きく取られ、ホールとほぼ同じ面積。厨房設備も最新のものを導入した。「白金台時代も決してほかに引けを取らない店でしたが、自分の理想には届かないところもあって。移転をしたのは、より理想に近い店を形にするためでした」と岸田氏は語る。

岸田さんの「理想の店」とは?

岸田氏:
理想を追い求めれば際限がありませんが、僕が可能な限り形にしようとしたのは、料理人にとっての理想の店。キッチンの充実化です。料理人が働きやすく、よりクオリティの高い料理が出せる環境を目指しました。これは独立し、オーナーシェフにならなければできなかったことだと思います。料理人ではないオーナーであれば、キッチンよりもホールの広さを優先して収益を上げたいというのが自然な考えですから。

キッチンとホールが同じ面積というお店はなかなかないですよね。さらに、岸田さんは「理想の料理を作るには、チームでいい仕事をすることが重要」とよく話されていますが、理想のメンバー像はありますか?

岸田氏:
これも言い出すと際限がないのですが、最低限必要なのは、コミュニケーション能力。上手に話ができる人ということではありません。受け答えが自然にでき、人の話を素直に聞ければいいんです。ただ、最近はこれができない人も多くて、ジェネレーションギャップを感じます(笑)。

人からものを教わったり、チームで仕事をするにはコミュニケーションが不可欠ですから、できない人は成長も遅いし、能力も伸びない。応募の電話や面接でそのあたりが気になる人には「対話が成り立たないようでは、多分、1カ月も続かないよ。それでもやりたいなら、どうぞ」と最初から正直に話すようにしています。

経験は重視されますか?

岸田氏:
新卒の方でもお話はうかがいますよ。直接会って話し、「これは」という人材がいれば採用します。うちでは「即戦力」を求めているので、新卒で生き残るのは厳しく、これまでの最長在職期間は2か月でした。でも、今いる新卒のスタッフは入って4か月目。記録の大幅な更新を期待しています。

経験者の場合、バックグランドも多様ですから、チームをまとめる大変さもあるのでは?

岸田氏:
うちに来てくれる人はみんな「職人」ですし、「最高の料理を作りたい」と貪欲に努力をするギラギラした人ばかり。そういうメンバーに「ただ黙ってやれ」と言っても、動くはずがありません。彼らが納得するだけの実力を僕自身が示さなければいけないというのはありますね。

個性を出してくる「猛者」も多そうですね(笑)。

岸田氏:
ありがたいことに、いますよ。提案やアイデアを出してくる人には、じゃんじゃん言ってもらいます。僕のやり方よりもいいものがあれば素直に認めるべき。「今日から変えよう」という時もありますよ。僕自身の考えや目指す理想をメンバーにきちんと伝えていくことはもちろん大事ですが、シェフが独裁を始めたら、その店は危ない。いいものをいいと認められなくなって、何でもかんでも「俺が正しい」と思い始めたら先は長くないと肝に銘じています。

カンテサンス Quintessence

■日々の積み重ねでしか、僕たちは成長できない

首都圏にフランス料理店は数多あれど、9年連続ミシュランを獲得した店は「カンテサンス」のほかには「ジョエル・ロブション」のみ。予約は2か月前から受け付けているが、電話がなかなかつながらないほどの人気ぶり。海外から訪れるお客も多い。

「世界に発信する店を」という夢を実現された今、今後の展望は?

岸田氏:
それなりの評価をいただいてありがたいのですが、一時頑張るのはそれほど難しくないものだと思います。大事なのは、継続すること。「一時期はカンテサンスも良かったよね」では終わりたくない。ほんのわずかでも常に成長し続けることを目標としています。

他店舗化やブランドを活用した商品開発などビジネスの拡大はお考えになったりしますか。

岸田氏:
お話をいただくこともありますが、必要を感じていません。幸いなことに、僕はひとつの大きな夢を叶えることができた。そこからさらにスケールの大きさを求めると、利益をまかなうことにとらわれて職人として踏み込んではいけない領域に入ってしまいがちだと思うんです。いただくお話を頑なに否定したりはしませんが、最も大事なのはやはり、店に来てくださるお客さまに喜んでいただくこと。よりクオリティの高い料理を作るために、今、自分にとって大切なことを冷静に判断していきたいですね。

目標にされている「ほんのわずかでも常に成長し続ける」というのは、実は簡単なことではないですよね。成長し続けるための「岸田流勉強術」はありますか?

岸田氏:
秘策のようなものはなくて、毎日、ささやかなことでもちゃんと考えるということが大事だと思います。料理人の作業そのものはルーティンがほとんどですが、昨日と同じようなことをしているからといって「これはこんなもんだ」としたり顔をしてしまえば、成長は止まります。そうならないためには、常に一歩上の理想を掲げること。「もっと良くできないか」「ここを変えられないか」と考えることをちょっとずつやり続けるんです。答えが見つかるまでには時間がかかることもあるし、すぐ思いつくこともありますが、課題を自分の中に持っておくことこそが大切。すると、誰かの話を聞いた時に、「それって俺の課題に使えるんじゃないの?」とつながることがあったりします。

常に課題を持ち、その答えを探し続ける。そういう日々の積み重ねでしか僕たちは成長できません。料理人の能力はITの技術とは違い、飛躍的に伸ばすことは難しいもの。日々の努力がものを言う世界です。逆に言えば、日々少しずつでも努力を怠らなければ、劇的に追いかけてくる人間も存在しえない。だから、やはりコツコツと。僕の姿勢さえ変わらなければ、評価が変わることもないし、誰かに抜かれることもないと思っています。

(聞き手:齋藤 理、文:泉 彩子、写真:刑部 友康)

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